8-4話 アビリティブレインズ日本支部・刀梟隊

 ──能力者達の秘密結社がこの世に存在したのは驚いた。


 2019年6月8日9時50分

 今日は2つの大事な予定がある日だ。普通の男子高校生らしい休日の予定と、恋人によって譲渡された能力者とその仲間達によるチームの予定がな。


「あなた達を乗せるなんて私も寛大なものね。そうでしょ影地くん?」

「それはそうですけど、今は1人で考え事をしたい」


 俺は今、柳先生の車で大和田さんの実家に向かっている最中だ。柳先生はわざわざ俺の住んでるアパート前の道路で待機して、そのまま乗せてもらっているのは非常にありがたいと思っているよ。

 何故休みの日に担任の車に乗っているかと言うと、1つ目の約束である海の一族の知り合い達と会うこととなっている。もう1つの約束の掛け合いもあるせいで、車にいる間はずっと下を見つめていた。


「今日の影地、なんかテンション低いな?」

「珍しいですねつかさ……何か悩みごとがあるのですか?」


 もちろん、『わだつみ』のメンバーである菜瑠美と桜井さんも車に同乗中だ。桜井さんはとても動きやすそうな私服を着ているが、菜瑠美は何故か特訓も目的であるのにブレザー制服を着ていた。

 菜瑠美ったら、柳先生がいるのわかってるのによくその格好でいられるな。いくら世間は夏服に衣替えしたからって、普段だったらブレザーを着ていいものではないだろ。

 おまけに、今までならパンストを履いてるはずが、今は紺色のソックスだ。菜瑠美は何らかの意図でこんな格好をしており、またこの俺を誘惑させる気か?


「なんだよ影地……あんた車酔いか」

「そうではないんだ桜井さん、夜の用事に間に合うかどうかだ」


 桜井さんはテンションの低い俺を見て車酔いではないかと心配しているが、俺は親父の影響で車酔いの耐性は持ってるんでね。


「カズキは本当に俺を許してくれるのだろうか」


 本来ならばカズキの誕生日祝いに専念するつもりだったから、今日中にカズキと会えるか不安視していた。

 火曜日の放課後、俺はカズキに頼み込んで今日の夜に船橋駅で待ち合わせすることとなった。どうやらカズキも今日家族の用事があるらようだ、俺としてもまあまあな好都合となった。


「プレゼントに関しては買ってあるから、後は渡すだけだ」


 誕生日プレゼントに関してもすでに購入済みだ。今は俺のポケットの中にあるが、小さなものでもきっとカズキが喜ぶことに違いない。

 俺のことを親友だと思ってるカズキでも、今俺が担任の車にいるなんて口を避けても言えない。それに、友人の誕生日よりも担任の用事を優先しちゃってるからな。


「思ったんだけどさ、俺が『わだつみ』に入ってからことに驚いたよ。本当は塚田とタイマンしたら勝てちゃうんじゃないのか?」

「ひょっとしたらそうかもしれないわねー桜井さん」


 俺がリラックスしている間に話は変わり、桜井さんが柳先生の強さについて語りだした。桜井さんも『わだつみ』に入った以上、海の一族についても色々知るようになったな。


「塚田くんも強いのはわかるけど、彼も生徒なんだしもしも喧嘩したら私が即退職確定よ」

「ちなみに塚田は『わだつみ』入りに賛成ですか?」

「私は反対に一票よ。例え強くても校則違反はするし私のことと言うし、『わだつみ』に入るには普段から自覚が足りないわ」


 この一言で、塚田の今後の『わだつみ』入りはないに等しくなったな。たしかに、普段から柳先生にあんな態度とってたらそりゃ柳先生も反対するわ。

 他に誰もいないから許せるけど、柳先生までも塚田の愚痴かよ。ま、あいつの態度は最悪だし柳先生がこぼすのも無理はないか。



◇◆◇



「すごい……ここが大和田さん家の玄関か」


 俺達4人は、寺も併せ持つ大和田さんの自宅の玄関に到着した。初めて訪れる桜井さんは、その広さに驚いていた。


「愛宕に襲撃されて以降、セキュリティも格段と強くなったわね」

「『わだつみ』の因縁の敵・レイラより強くなるため、私はここに来たというのもあります」


 俺と菜瑠美も『わだつみ』の中間試験前の勉強会以来だが、レイラに襲撃された以降は玄関に随分と警戒態勢が強まっていた。

 そりゃ同じようなことを2度と起きたくないというのもあるけど、大型監視カメラが数ヵ所取り入れたりなど結構やりすぎてる部分もあるが。


「1台……車が来ますよ?」

「え? レイラか?」


 俺達が玄関に入ろうとしたら、1台の緑色の車が柳先生の車に停まろうとしていた。初めてここに来た時の印象が強いせいか、俺は真っ先にレイラがまた来たのではないかと警戒した。


「安心して影地くん、愛宕じゃないわよ。今言えるとすれば、

「仲間……?」


 ちょっと警戒しすぎたか、レイラではないだけで一息ついてしまった。柳先生が仲間だと言っているとなれば、今日会わせたい人達なのだろうか?

 すると、緑色の車の中から4人の男女が降りようとした。まだ10代らしき見た目の青年や50代らしき堅実な男性が続々と降りるなか、今週中に見覚えのある男性も車の中に同乗していた。


「また会ったな、影地くん」

「あなたは和俊さん、どうしてここに?」


 こんな場所で川間さんの兄・和俊さんと再会するとは思わなかった。まさか、大和田さんは川間さんには内緒で和俊さんの仕事仲間を紹介しようというのか?


「お久しぶりです、たかこ先輩」

「えっ、後輩?」


 最後にこの車を運転していた女性が降り、柳先生に敬礼をしてから顔を合わせた。どうやら柳先生の後輩らしいが、柳先生がロリ顔過ぎてそうには見えないな。

 見た目は紫色のやや長めの髪に紫眼で、少し右目が髪で隠れている。それに、服装も随分と露出度の高い胸元の見える薔薇色のドレスとハイヒールを着用してるな。胸も相当大きいが、そこにいるでG~Hカップ相当か。


「あなたと顔を合わせるのは4年振りね。刑事を辞めたと連絡が入った時は驚いたけど、今の仕事にも馴れてるようね」

「刑事!?」


 おいおい……4人組の見た目や年齢もバラバラだし、寿司職人や元刑事と職業も異なっている。少なくとも悪い人達ではなさそうだが、何のくくりなのか想像がつかない。


「あと初めまして。影地令くん、天須菜瑠美さん、桜井ミナミさん……あなた達『わだつみ』のことはたかこ先輩や耕士郎君から聞いているわ」

「お、俺たちを知っているのか?」


 すると、柳先生の後輩は俺と菜瑠美と桜井さんの名前を呼び、再び敬礼をしながら挨拶をした。おいおい、俺たちは警察でも軍隊でもなく、表向きは普通の高校生だぞ。そんなに敬意を示したいのか?


「改めて自己紹介をしますわ、私は元町もとまち梨理亜りりあと申します。私達4人は、世界中の正義の能力者達が数多く所属する秘密組織・世界異能犯罪対策本部、通称:アビリティブレインズ(AYBS)の者です」

「世界異能犯罪対策本部!?」

「アビリティ……ブレインズ……?」


 おいおい、特撮やSF作品には秘密組織というのは当たり前の存在だが、現実世界にこんな正義の味方達がいると言うのかよ?

 それと、和俊さんは寿司職人じゃないのか? 仕事の掛け持ちをしていたことに驚くし、川間さんは知っているのか?


「本拠地はイギリスにありますが、ここ最近日本でも能力者達による犯罪の増加傾向にあたり、その打開策のために日本支部・刀梟隊かたなふくろうたいが2年前より結成された。今日はたかこ先輩とその甥の耕士郎君の提案により、我々刀梟隊とあなた達『わだつみ』と接触する機会が与えられたわ」

「刀梟隊……ですか? 皆様宜しくお願いします」


 日本支部の刀梟隊か……梨理亜さんの言う通りに虹髑髏のような能力者の犯罪集団は日本にもいるよ。同志が増えるのはありがたいが、

 梨理亜さんや和俊さんが所属する刀梟隊はいったいどれ程の実力者の揃いなのか? まずはお手並み拝見といこうか──

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