7-11話 雷光幻影

 ──同情する余地がない奴でも同級生であるのは事実、戦っても殺し以前に傷すらつけられない。


 殺人マシンとなり、もはや誰も止められなくなった牛島。昨晩のソードツインズのことを何も知らない俺がこの公園に来てから、次第に牛島の怒りは増していた。

 菜瑠美の必死の説得でも逆に牛島の声は届かなく、菜瑠美に反逆のボルト・ファングを仕掛ける。俺に敵対する相手は、例え女でも一切容赦のない残虐性も持っていた。

 どうしてだよ……俺は藤野を拉致した記憶はないのに、そこまでして俺だと思い込んで殺しまでする? ソードツインズの因果であるのなら、それは間違った使い方ではあるはずだ。


「牛島……奴は俺と菜瑠美を殺すつもりでいるが、俺の方からは傷つけずに戦わないとな」


 これは難しいお題だな。牛島は学生であることを完全に忘れているし、俺と菜瑠美もまだ牛島のことを同級生だと思っている。

 牛島を許せないのに、こっちはある意味ハンデだらけな戦いだな。もう菜瑠美と考え合う時間はないし、独断で攻めた方がよさそうだ。


「おい菜瑠美!?」


 俺が考えている間に、菜瑠美が先制攻撃を仕掛ける。闇のダークストリングを使って俺と菜瑠美に向かってくる牛島を縛ることを狙っていた。


「ごめんなさいつかさ……私から攻めさせていただきます。牛島さんが戦いというなら、お望み通りにさせていただきます。やっ!」


 こんな戦いに熱くなる菜瑠美を見るのもアナーロの襲撃以来だが、くれぐれも『力』が覚醒しない限度にしろよ。

 闇の糸に縛られたら、荒れ狂う牛島も正気に戻りそうだ。しかし、その牛島も藤野程ではないが速い動きを見せ、少なくとも菜瑠美よりスピードでは上回ってる。


「こんな糸、俺の剣でてめぇの邪悪な糸などこうしてやる!」


 牛島は右手から剣のようなものを出し、菜瑠美の闇の糸を切り裂こうとする。牛島にも藤野と同じ剣を使えたとは、ソードツインズの名前は伊達ではないな。


「この俺が縛られると思ったか、菜瑠美ちゃん!」

「そんな、闇の糸が!?」


 まさか、闇の糸に対策できる技を牛島は所持したなんてな。満面な笑いをしながら、剣を振り回して闇の糸を粉々にさせた。

 あの剣は藤野が右手に使用していた風の異能と同じく、牛島にも雷のこもった剣で菜瑠美を苦しめさせたか。


「おっと、俺の雷はこんなものじゃないぜ!」

「きゃっ、私に触れないでください」


 怯んでいた菜瑠美の隙を伺い、牛島は菜瑠美の両腕を掴みやがった。これが牛島にとっての殺し合いでなければ、今の行為はセクハラそのものじゃないか。


「へへっ、先に俺のサンダー・ジャッジメントで菜瑠美ちゃんを感電死してやるか。その前に1つ疑問に残ることがあるな、菜瑠美ちゃん本当に藤野と引き分けたのか? その割には俺の敵ではねぇぜ!」


 あいつ、菜瑠美を感電死するということは自身の雷を使って菜瑠美を殺すつもりなのか? 菜瑠美もそんなものじゃないだろうよ。

 たしかに、菜瑠美と藤野が引き分けだったのは俺がしっかりその目を見たわけだが、牛島はそれを否定しているな。


「くっ……離してください」

「その手を離せ、牛島!」


 俺は今どうしたらいい? 牛島はぎっちり菜瑠美の両腕を掴んでおり、牛島が技を仕掛ける前に俺も一気に攻めかけるしかなさそうだ。


「牛島さん……あなたのしたことは一生返ってきますよ。今後、あなたが殺人罪で逮捕されてつかさに拉致されたと思い込んでる藤野さんが生きていた場合、あなたは一生藤野さんと会えませんよ?」

「そんなことどうだっていい、俺はてめぇらを殺すだけで満足なんだよ! 俺の中じゃ藤野はてめぇらに殺されたと思ってるからな!」


 牛島が技を仕掛ける前に、菜瑠美は再び牛島の説得をし始める。しかし、今の牛島は殺人兵器そのものであり、感情というものなどが一切持たないために無駄口そのものだ。


「へへへっ、てめぇらと戦っているとやっぱり人間を殺すということが段々面白くなってきたな。これは昨日、2

「牛島さん……あなたまさか?」

「牛島! お前殺人まで犯したのか!?」


 嘘だろ……昨日の同時遺体破棄事件の犯人は牛島だったのかよ。俺はソードツインズが犯人を捕まえるために学校を休んだと思っていたのに、牛島が殺害していたのかよ。

 藤野が今何をしているのか俺にはわからない……それなのに、牛島は今日ここで俺と菜瑠美を殺す気なのか。俺達と戦う以前に殺人を犯していたなんて、またしても海神中央高校の悪い噂が広まってしまう。


「身勝手な理由で殺人に触れるなんて……牛島さん、あなたは絶対に許さない!」

「許さない? 俺は藤野を拉致したてめぇらが許さねぇからあいこだろうよ!」


 ただの思い込みだけで殺人に手を染める奴に許さないなんて思いたくもない、俺と菜瑠美は藤野のことなんて一切知らないのだから。

 参ったものだな、俺と菜瑠美は。奴の本性をもう少し早く暴くべきだったな、藤野でさえも止めることがないだろう。


「牛島……いくら殺した相手が脱獄囚でも、お前が殺す必要なんて何もないだろ!」

「黙れ! てめぇが藤野を拉致していなかったら、脱獄囚も態度悪いジジイも殺してねぇよ。よって影地令、!」

「は? そんなのデタラメにも程がありすぎるだろ。やはりお前はシャインだ死ねよ!」


 そこまでして俺になすりつけてんじゃねぇよ、マジで牛島には怒りしか沸いてこない。ここは未完成の新技を使いたいが、本当に成功できるか不安になってきた。

 そんなこと考えたら恋人が目の前で殺されてしまう、今はもう牛島に立ち向かってぶつけるしかない。


「では菜瑠美ちゃん、影地令より先にあの世へと……なんだと?」

「牛島、お前マジで頭を冷やしやがれ! 雷光ライトニング幻影ファントム!」


 下手したら菜瑠美に当たるかもしれないが、これは人生最大の賭けだ。俺は牛島に向かってまずは側転をしてから、ドロップキックのように両足を揃えて飛び蹴りを繰り出す。

 その飛び蹴りはまさに幻影の如く、俺の周りには光輝くオーラが漂い始めてきた。今の俺の存分の怒り、全て牛島にぶつけてやるぜ。


「ぐはっ! この俺が、サンダー・ジャッジメントを撃つ前に、影地令の技にやられるとは!?」


 なんとか雷光幻影で、無事に牛島だけを当てることができた。何度も雷光幻影の特訓してきただけあって、必ず成功すると決めていた。

 1回だけの実戦でまだ100%使いこなしたとはいい切れない、後は技の動きの上向と威力を増すことだな。

 サンダー・ジャッジメント……感電死すると言ってたし、怖い技であったのは違いない。おそらく、昨日はサンダー・ジャッジメントで牛島は殺人に触れたのだろう。


「きゃっ……つかさ」


 一方、肝心の菜瑠美はしばらく牛島に腕を掴まれてたため、横へと倒れてしまった。今は制服姿だし、パンスト越しの白いパンティーが少し見えてしまった。


「影地令、てめぇやるじゃねぇか! 俺にはまだとっておきの技がある。それでてめぇらは皆殺しだ!」


 1度仰向けに倒れていた牛島は更に殺気が増しており、まだ披露してない技があることを宣言した。思えば、牛島は藤野の亡霊を背負って戦っていたんだよな。


「立てるか菜瑠美? 牛島を倒すには君が必要だ、まだ戦えるよな?」

「はい……私はここで牛島さんを捕まえます」


 これは、以前菜瑠美と特訓した連携技で牛島を懲らしめるしかないな。元々は打倒ソードツインズに備えてたんだっけか。

 状況は異なり、今いるのは牛島だけだ。まだ死んだかどうかわからない藤野のことを亡霊だと思ってるし、──

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