7-12話 ブライトネス・ダークネス

 ──お前の過ちは光と闇の愛の連携で懲らしめてやる、これが本物の絆という奴だ。


 牛島のサンダー・ジャッジメントが菜瑠美を襲う前に、衝撃の事実を耳にしてしまう。昨日発生した同時遺体破棄事件の犯人が牛島であることを自ら明かした。

 同級生の犯行であることの怒りと恋人が殺される姿を見たくなかった俺は、未完成の新技・雷光幻影で牛島に攻撃を仕掛ける。なんとか、菜瑠美のピンチは防いだものの、牛島は更に血迷い始める。


「拉致された藤野のためにもてめぇらはここで殺す!」

「しつこい野郎だなお前も」

「けっ……これを見やがれ影地令、菜瑠美ちゃん!」

「それは……藤野さんの?」


 牛島は左手で制服のポケットから何かを取り出した。それは、藤野が昨日菜瑠美と戦った時に装着していたネックレスだった。


「これで何も言えねぇよな! 藤野を拉致したのが影地令しかいないと」

「こんなの勝手に藤野が落としただけだろ? いい加減思い込んだ拉致犯扱いはやめろ」

「いつまでもみたいな顔してんじゃねぇ! 藤野に託されたんだよ、俺が影地令を殺せとな!」


 これで、本当に藤野が行方不明であることがわかった証そのものだ。ただし、落としただけで俺の仕業であることはおかしいし、昨日の藤野を見た限りで『俺を殺せ』など言うはずがない。

 俺と菜瑠美は本当にあの後の藤野については全く知らない、第三者の仕業と言っても牛島は自身の目で見たと言い切るから無駄なことだ。


「影地令の態度を見てると、てめぇらだけ殺しても満足はしねぇなー。てめぇらを殺した後は、高校の生意気な奴らまとめて殺したい気分だ」


 ふざけるなよ、俺と菜瑠美を殺すだけでも物足りないのか牛島は。私欲と誤解で殺人に触れる牛島をとことん許せなくなった。

 奴を止めることができるのは、菜瑠美と共に特訓した光と闇の連携技……それしかないだろう。ここで俺と菜瑠美が殺されたら、海神中央高校の関係者達が危ない。

 

「俺は本気出してやる! 塚田に殺し損ねたこの技でな」


 ちょっくらだと? さっきまでの牛島は殺気こそ強かったが、これが全力じゃなかったと言ってるのがなんか腹立つな。


「うらぁぁぁぁあ!」

「くっ……牛島さんの周りには雷のオーラが?」


 牛島はうなり声をあげながら、全身に殺意に満ちた雷のオーラが漂いはじめた。この雷は当たったら本当に感電即死するほど恐ろしい、絶対に止めなくては。


「塚田の時は多少の手加減はしたが、てめぇらには裁きの斧であるライジング・トマホークの最大版でなぶり殺しにしてやる」

「くそっ、本気の牛島にどうすればいいんだ?」


 牛島の右手には、ライジング・トマホークという技の名の雷の斧を繰り出してきた。これは危険な凶器じゃねぇか、もろに受けてしまうと命を落としかねないな。


「へっ、あの世に行く準備はできたか! ライジング・トマホークをとくと味わいな!」


 牛島はまるで手斧かのように、ライジング・トマホークを俺と菜瑠美に投げつけてきた。自信満々の牛島に対して、冷静な反応を取る俺と菜瑠美。

 こちらの連携技を仕掛けるため、この殺意溢れる凶斧に菜瑠美が祈る体勢で先頭に立った。


「つかさ、前に出ます。連携技をする前に、あの斧を私の祈りで止めて見せます」

「ああ、頼んだぞ」


 菜瑠美は走りながら闇のダーク祈りローグを使い、ライジング・トマホークを受け流そうとする。本当に祈りだけで耐えきるか不安にはなったが、菜瑠美の顔からして確かな自信の表れがあった。


「何をしだすか知らねぇが、てめぇらはまとめて死ぬんだな!」

「牛島さん……私とつかさはまだ死にません。私の闇は、悪しき心の持つ『力』を許さないみたいです……はぁあああああ!」


 菜瑠美はひたすら祈りながらライジング・トマホークを耐えている。そして、菜瑠美は大声を出しながら祈りの構えから手を大きく広げ、闇のダーク球体スフィアを出しながらライジング・トマホークを粉砕しようとする。


「なんだと!? 俺のライジング・トマホークが拉致犯の仲間の菜瑠美ちゃんなんかに?」

「すごいぞ菜瑠美! 闇の球体でこんなことができたとは」


 闇の祈りからの闇の球体の繋ぎで、牛島のライジング・トマホークを消すことができた。またしても、菜瑠美にはまだまだ叶わないことを実感してしまったな。


「つかさ……今のうちに」

「OKだ菜瑠美」


 ライジング・トマホークが使えなくなった牛島は今混乱して怯んでいる、この勘違い野郎を懲らしめるのは今しかない。


「覚悟してください牛島さん! 私の闇の球体と」

「俺の雷光ライトニング十字クロスでお前を檻の中に入れさせてやる」


 菜瑠美は再び闇の球体を牛島に投げつけるが、肝心の牛島には命中せず油断を狙い、その後にパワーアップした俺の雷光十字の輝きの部分だけを命中させる。

 まだ学生の身分だから、傷付けない方法で牛島を倒したい。それが、俺と菜瑠美の望みだ。


「うわぁぁぁあ!」


 見事に光と闇の連携技を成功させ、牛島にはかなりの精神ダメージを与えたはずだ。目的通り、見た限りでは傷もついていない。


「これは結果オーライだ、悪く思うなよ牛島」

「正直言えば、愚かな人……でした」


 思えば幕張でソードツインズが賞金稼ぎとしての顔を見た後に、俺は菜瑠美と共にソードツインズと戦うことに備えて連携技の特訓をしたんだ。

 初めて実戦で連携技を使ったが、殺人マシンと化した牛島を止めるにはちょうどいい感じだったな。


「見たか牛島、これが俺と菜瑠美の連携だ!」

「はぁはぁ……てめぇら……」


 牛島はため息が続いている状態だし、もう戦えそうにはなさそうだ。これは菜瑠美の闇の糸で牛島を縛かせて、昨日の夜から今日の間までに苦痛を与えながら深く反省するんだな。


「つかさ……牛島さんを縛る前に、話しておきたいことがあります」

「ああ、すぐに終わる話であるならな」


 菜瑠美ったら、牛島に最後の説得をしようとするのか? さっきまでは菜瑠美の聞く耳すら持たなかったが、連携技を受けて懲りた可能性もありそうだ。


「牛島さん……そろそろ自首したらどうですか? あなたの犯した行為は藤野さんや藤野さんの妹さんが願っていることではないはずです、まだ時間に猶予はあります」

「にかのことを知っているとはな……恐らく、ミナミの奴が吐いたわけか」


 菜瑠美は牛島に自首の道を選び、藤野の妹についても語った。自首をしても牛島の犯した罪は重いし、仮に何十年後に出所しても俺と菜瑠美はお前のことなんて忘れてるさ。


「お願いです牛島さん……もうやめましょう。これ以上したら、あなたは余計苦しむことになります!」

「ふざけんじゃねぇ! 藤野を拉致しておいた上に俺より強いだなんて、俺の心がが許すわけにはいかねぇんだよ!」


 なんだよ、プライドだけは一丁前じゃないか牛島。俺と菜瑠美に負けそうになってる上に、いつまでも拉致犯と決めつけるなんてただの弱虫が吐くことじゃないか。


「いい加減にしろ牛島! あと何千回も言ってやるが、俺は藤野のことを拉致なんかしていない。それに、俺と菜瑠美は本当ここでお前と戦いたくないし、これ以上戦っても無駄なことだ!」

「黙れ、てめぇらは絶対に認めねぇ! 俺は影地令に拉致された


 これ以上懲らしめても俺達を認めないなんて、どうしようもない奴だ。きっと藤野も泣いてるぞ……そう思っていた。


「私とつかさの言うことを聞かないのであれば……きゃっ」

「なんだこれは……風」


 意地でも俺と菜瑠美の最後の説得を聞かない牛島に対し、いい加減に菜瑠美は闇の糸で縛ろうとする。

 しかし、今3人しかいない小さな公園に突如、誰かが操ってるような慌ただしい強風が公園の中に吹き散らそうとしていた。


「こんな時に誰が……嘘だろ!?」


 強風が消え去り、操っていた人物が姿を現したそこには、俺と菜瑠美……そして、牛島にとってはありえないような人物だった。


「そんな……藤野さん!?」

「藤野……お前生きてたのか!?」


 強風を操っていたのは、昨日から行方不明が続いた藤野だった。しかも、俺が藤野を拉致したと誤解している牛島もいるのに、何故こんな時に来たんだよ。


「今の藤野、俺達の仲間になろうなんて顔はしてないな」

「そうですね……つかさ」


 藤野が生きていただけでも奇跡なのに、ここでソードツインズと揃って戦うのかよ? 今までにないピンチの中、藤野は予想外なことを仕掛け出す──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る