7-7話 バカVSバカ ※塚田視点
──牛島がそこまでして影地を殺したいのかは知らんが、俺としては牛島との一騎討ちは待ち望んだことだ。ここにはいない藤野の分にもな。
1年前、俺は手加減無用な強さと気性の荒さが原因でキックボクシング界から相手にされなくなり、将来キックボクシングで食うことは事実上不可能となる。
仕方なく俺はもしものための筋トレと嫌いだった勉学に励むこととなったが、同じ中3でありながら俺より強い2人組が隣校の真久間中にいるという情報が入る。興味を持った俺は、そいつらと戦うためだけに真久間中に足を踏み入れようとした。
「奴らとの出会いは一生忘れない」
自信満々に真久間中に俺1人だけで乗り込んだ俺だったが、途中で威圧感あふれる2人組と遭遇する。それが、ソードツインズだった。
皮肉にも、奴らの方も俺の気性の荒さを知っていた。それに、俺との戦いを願っていたためか、出会えたことには好都合だった。
「むしろ、1対2の戦いでも俺は負けはしない。初めはそう思い込んだ」
腕に自信のある俺は2人がかりでも負けるわけないと思っていたが、それは大きな間違いだった。お望み通りに2人で攻めてきた奴らは、息のあった連携を見せてきて俺を翻弄する。
しかし、その途中で真久間中の先生達に見つかりそうになり、勝負の決着はなしとなった。俺も部外者であるため、すぐに校内付近から立ち去ることとなる。
「あの戦い、俺としては悔いしかない不満な戦いだ」
俺としてはこんな格闘経験もなさそうな奴らに、実質勝ちを逃げられたことは屈辱的な結果を味わうこととなった。それと同時に、2人がかりでも対等に戦えることも証明した。
「奴らと再び戦いたい、そんな1年間を俺は過ごした」
そこで、俺は奴らが入ると噂があった偏差値の高い海神中央高校を選んだ、影地には運よくと嘘ついたけどな。
とにかく、奴らと再戦したいが為に猛勉強して報われた結果、無事に試験を合格して入学できた。これで、奴らとまた戦える機会があることに俺は歓喜した。
「いつでも戦える状態ではいたが、思わぬ存在が現れた」
入学後は奴らより、トップアイドル級の巨乳美少女・菜瑠美ちゃんと彼女を狙う影地令ばかり目が入ったがな。それでも、奴らに対する敵対心は残したままだった。
「今の牛島は俺が豊四季に洗脳された時と同様に頭がおかしい、それでも誤解を打ち明けるために戦うしか道はねぇ」
今日の登校時、奴らが行方不明という情報を聞いた。それを聞いた俺は色々と納得せず、仮病を使って早退して奴らを探すことを決意した。バレてしまうギャンブル性も強いがな。
そこで、奴らがよくいるとの情報がある東船橋の方に来たが、牛島が影地の友達に暴力を振っていてるのを見かけたのは何かの幸運だった。昨日の補習の口論続きが今日ここでやれるとは、願ってもなかったぜ。
「塚田……てめぇとはケリをつけるときがきたようだな。影地令に拉致された藤野の分まで俺は戦う!」
「牛島……俺もそのつもりだったが、1つ俺からも言わせてもらう……影地令を倒すのはこの俺様だぜ!」
こいつ、いつまでも藤野と一緒にいることばかり頭に浮かびやがって。いわゆる、金魚の糞と同じじゃねぇか!
ついでに、俺は影地が藤野を拉致したとは思わねぇし、影地とはちゃんとした理由で戦いの決着を付けたいんだ。ついでに、菜瑠美ちゃんのハートもな。
「黙れ塚田、てめぇはわからないだろうよ! 藤野を失った俺の悲しみを」
「そんなん俺に言うんじゃねぇ! 仮に影地が藤野を拉致しても殺したりはしねぇよ」
相棒を失った気持ちはわからなくはねぇよ。問題なのは、勝手に影地だと決めつけていることだ。
「いつまでも影地を恨んでな、その前に俺が先にお前を倒してやる」
「来いよ! てめぇもあの世へ送る!」
口喧嘩を終え、ついに牛島との殴り合いへと発展する。これは学校生活にとっても取り返しのつかない行為だとは思ってるが、牛島を説得するには拳でしか語り合えないんだ。
「いくぞおらぁ!」
「ふんっ」
俺と牛島は、全く同じ間合いで右ストレートを繰り出す。最初は一発顔面に殴ってから考えるが、牛島も同じ思考だったとはな。
やっぱり、俺と牛島は敵対関係なのに似たような馬鹿同士かもな。実際には、こんな奴と同類にとは考えたくもないが。
「ぐっ……」
「うっ……」
互いの右ストレートを顔面に命中させたが、これだけで牛島はへこたれないだろう。とはいっても、最初の一撃としてはまずまずな結果だ。
「やるじゃねぇか塚田」
「お前こそな、悪に染まってなければ完璧だ」
やはり、顔面一発殴られただけで牛島はくたばらねぇよな。だがな、牛島は少し疲れたような顔してっから、スタミナは俺の方が上みたいだな。
はっきり言わせてもらえば、牛島は俺が思ったほど単体では強くないな。結局のところ、頭のいいイケメンの藤野のおこぼれって奴か?
「こうなれば、俺はこのバカの腐った性格を叩ききってやる!」
今の牛島には、俺の必殺技でアホくさい脳内を破壊して改心させてやる。覚悟しな牛島、悪いが短期決戦させてもらうよ
「くらえよ、俺様の渾身の塚田スペシャル
「ぐっ! 塚田ごときが」
牛島が本気で殺したいのであれば、俺の自慢の必殺技を使うしかない。キックボクシングの試合では数多くの強者をリングに沈めたとっておきのコンビネーションの改編だ。
だが、入学2日目に
「行くぜ、まずは左フックからの右ストレートだ」
「ううっ……」
このまま段々押してやる、一度はまればもうどんな奴でも止められない。ちょっと本気出させてもらうぜ牛島!
「最後にとどめの右足の回し蹴りだ!」
「がはっ!」
もろにくらってざまあないな牛島! 塚田スペシャルVer.IIをくらったら俺の勝利は確実に等しい。さてと、とどめと行って牛島のイカれた脳内をどうかしますかね?
「へへへ……やるじゃねぇかよ塚田、てめぇはやはり殺しがいがあるな」
牛島の奴、不敵な笑いを浮かびながら再び立ちやがった。奴には秘策が残ってるようだしな、余計面白くなってきたぜ。
「塚田! 能力者でないてめぇに俺の手に宿る雷を見せるとはな、覚悟しろ!」
「能力者だかなんだか知らねぇが、最後のあがきを見せてみな牛島」
「へへっ……お言葉に甘えるしかねぇな、はぁっ!」
牛島の奴、左手から雷の斧のようなものを出してきやがった。この雷を使って、今まで何人もの悪党を捕まえてきたようだな。
牛島の奴に魔法みたいなものが使えるとは思ってなかったぜ。だがな、殺人に手を染めるようなゴミクズ野郎相手にくたばってたまるかよ。
「てめぇにこの技を使うとはな、ライジング・トマホークをくらいな」
本性を現した牛島の力強い雷が、自称天下無敵の俺様に襲いかかる。さすがの俺も、形勢逆転は許したくない。
俺は影地が来る前に頭のおかしい牛島をどうにかしたい、藤野……今何処にいるかわからねぇがお前も俺と牛島の戦いを望んでないだろ──
──────────
次回も塚田視点になります。
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