7-8話 ライジング・トマホーク ※塚田視点

 ──俺の知らない間で摩訶不思議な物を手に入れただけでなく、自在に操れるのかよ。一般人の俺からしたらありえねぇ。


 学校をサボった挙げ句、殺人行為まで手を染めるようになった男・牛島剣。過去の因縁との決着と先に影地を倒すのは俺であることを証明するため、牛島と喧嘩となった。

 最初はお互いに右ストレートを繰り出し、挨拶代わりの顔面直撃から幕を開ける。そして、一気に攻めかけるため俺様自慢の塚田スペシャルVer.バージョンII2で牛島をダウンさせる。


「これで優位に進めたと思ったら、とんでもない隠し玉が奴にはあった」


 しかし、牛島には隠れた潜在能力秘めていた……それは、雷の魔法使いであったことを。この雷をくらったら敗北処か命すら俺は危ない、殺意の沸いた牛島を見た限りでは確実に殺しにかかってくる。


「塚田ごときにライジング・トマホークを使うとはな、くらいやがれゲス野郎!」

「ゲス野郎とはふざけたこと言うじゃねーかよ牛島!」

「ふんっ、減らず口は終わりだ」


 牛島はまるで手斧かのように、右手てライジング・トマホークを俺に向けて投げつけてきた。こんなの単に避ければいいんだろ、避ければ!


「ふんっ、ぬるいぜ」


 俺はライジング・トマホークの動向を読み、勢いよく左方向に避けた。俺は元キックボクサーだ、攻撃避けも朝飯前なんでね。


「大した技じゃねーな牛島!」


 技の派手さなら最高レベルかもしれないが、攻撃を避けられたらただの飾り技だ。俺は余裕こいた表情をして、牛島に挑発する。


「そいつはどうかな、てめぇは今油断してるぜ」

「なんだと……ぐはぁ!」


 俺としたことが思わず油断してしまったな、ライジング・トマホークがブーメランのように跳ね返って俺に命中しやがった。

 俺は一旦ダウンしてしまうが、奴はまた俺に接近してくるはずだ。くそったれ、この俺様も雷撃への耐性はねぇ……だがな、影地や菜瑠美ちゃんの分までも、ここは根性で耐えきってやる。


「お気楽ムードになるからこうなるんだよバカ野郎、これが後に影地令も裁く狂気の斧だ!」

「ぐっ……あの技にこんな奥義と性能を所持していたとはな……言っておくが、俺はまだ終わっちゃいねーぞ」


 せっかく塚田スペシャルVer.IIで勝利ムードになってたのに、奴のライジング・トマホークをもろにくらって体力的に俺の不利になってしまったじゃねーか。

 なんだよなんだよ、これは拳と蹴りの争いじゃねぇのかよ! 人間離れした潜在能力を使うとか、キックボクシングの試合なら牛島は即反則負けだぞ。

 俺は一度立ち上がろうとするが、その間に牛島が俺に近づいてくる。間違いない、次の奴は俺を殺しにかかってくる。


「さて、そろそろ死ぬ準備はできたか塚田?」

「できてないと言ったら?」

「なんなら、すぐ殺すよ」

「その前にさ、お前はそこまでして影地を殺したい?」


 あいにく、俺は15歳の命で死にたくないんでね、急に死ぬ準備なんてできるわけねぇだろ。そういうことをわからない牛島って、本当バカだな。

 万が一、俺がここで死ぬ前に牛島の驚異的な変貌を遂げたのかを知りたい。影地を意地でも殺めたいことをな。


「死人目前のてめぇが偉そうに言うな、これを見ろよ」

「そのネックレスは? 藤野の?」


 牛島は左手で制服のポケットから何かを取り出した。それは、ソードツインズと最初に会った時から藤野が掛けていた藤野愛用のネックレスだった。


「影地令が藤野を拉致する前に俺のために落としたんだよ、影地令を俺の代わりに殺してくれとの証だ」

「たしかに拉致された藤野の気持ちはわかるが、本当に影地かどうかわからねぇじゃねーか!」

「黙れ塚田! あの後ろ姿はまさしく影地令そのものだ、それ以外に誰がいるんだ?」


 本当に影地が藤野を拉致したとなれば影地の人間性が疑うが、あいつはそんなことしねぇよ。1回俺の命を救った奴が、そう簡単に犯罪行為に手を染めないよ。


「地獄に行く準備はできたか、塚田?」

「へっ……そんな気持ち全く沸いてこないぜ」


 牛島はまた新しい体勢を整えやがった。これは笑い事ではないのに牛島を少しは認めたが心の中ではあかんべーしてやる。

 まいったぜ、俺の体が満足に動いてくれねぇ……


「では、あの世で面会にでも受けに行きな! ボルト・ファング!」

「だったら、牛島もいつか


 牛島……お前がだと心の底から思ってなかったよ。お前の年齢からしたら70年以上は会えねぇな、それ以前にこの俺様を殺した罪を償って更正することが先決だ。


「塚田! 牛島! お前ら喧嘩はやめろ!」

「な……影地」

「影地……令!」


 これはグッドタイミングだ、牛島のボルト・ファングで殺される前に影地が俺と牛島の喧嘩を止めようとした。こんな時に来やがって、お前は何か色々持っているな。

 影地がここに来た途端に、牛島の目付きと影地に対する殺意が最高潮に達しやがった。牛島よ……そこまで影地を殺したいのかよ。


「塚田、お前大丈夫か?」

「お前ら、学校サボって何喧嘩してるんだ?」


 影地だけでない、ソードツインズと腐れ縁の桜井も一緒にいた。さっき牛島に殺されかけた増尾もここに戻ってきたな、お前ら俺のために……。


「やめてください塚田さん、牛島さん! あなた達の戦いは無意味です」

「その声は菜瑠美ちゃん!?」


 おっと、海神中央高校の女神様・菜瑠美ちゃんもこの場にやってくるとは願ってもなかったぜ。、戦いはもう無理だけどな。

 ただな菜瑠美ちゃん、この戦いは俺からすれば全然無意味じゃねぇんだよ。今回だけは菜瑠美ちゃんの意見には反対だ、牛島も同感のはずだ。


「影地っ! お前マジで気を付けろ、今の牛島は人を殺すのが当たり前となる殺人鬼そのものだ」

「わかってる塚田、全部はカズキから聞いた。牛島が何故俺に嫉妬してくるはわからないが、やべー奴なのはわかる」


 影地達は来たばかりだから、まだ状況が読み込めていない。いくら身体能力抜群の影地でも、暴走した牛島と対抗できるか俺にはわからない。

 でも、豊四季の時には、洗脳された俺を救ってくれたのだから期待はできる。


「待ちわびてたぞ影地令、よくも藤野を拉致しやがってよ」

「俺が藤野を拉致……は? 俺がそんなことするわけがない」

「ふざけるな英雄気取り野郎! てめぇは絶対俺がここで殺す!」


 悪いが影地、牛島を止めるのはお前に託した。この前の襲撃事件もそうだったが、俺は前座でお前がヒーローそのものだぜ──



──────────



 次回からまた令視点ですが、カズキとの合流から始まり牛島との決戦直前まで描きます。

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