7-6話 狂犬 ※カズキ視点

 ──僕はあいつの古い人だ、あいつを信じて何が悪い。


 2019年5月24日15時50分


「まいったものだ、令から厄介ごとを引き受けてしまったな」


 僕は今、別件のために東船橋にいる。帰る直前に令から『ソードツインズを万が一外で見かけたら俺に連絡してくれ』と言ってきた。あの2人は今日揃って学校を欠席してたじゃないか、理由も知る必要性はないし。

 僕はあまりソードツインズと接点ないんだよな。令はなんとしても探してくれな顔をしていたから、すごくソードツインズのことが気になるんだな。

 僕の別件まで時間があるから引き受けたのはいいけど、授業を無視して外でうろうろしているのは問題視するがね。


「令和になってから船橋周辺で事件が多発してるからな」


 それにさ、昨日の夜に隣駅の津田沼で同時遺体破棄事件があったから、実際な話あまりこの辺りをうろつきたくないんだよな。まだ犯人は逃走中だし、僕もいずれ狙われるか心配だよ。

 

「おいお前」


 僕は歩いている途端、後ろから1人の男に呼び止められる。いきなり乱暴な口調だったため、無視して特に後ろを見る必要がなかった。


「おらぁぁあ!」

「うわっ」


 その男は僕を見ただけなのに関わらず、突然僕に向かって殴りかかってきた。まさか僕、不良やヤクザなんかに絡まれるのかと思い、殴りかかろうとした男の顔を見る。


「いきなり何するんだ……牛島じゃないか」

「気やすく俺の呼ぶなよ犯罪者の友人の分際がよ」


 驚いたことに、殴りかかった相手は令から探してくれと言われたソードツインズの1人・牛島だった。おいおい、牛島と絡むことは初めてなのに、殴りかかってきたからそんな僕が気にくわないのか?

 しかも、犯罪者の友人……何言ってるんだ牛島は? あいにく、僕の知り合いに罪を犯した人間なんて誰もいないんだけど。

 それに、今の牛島は普段から廊下で見るときと比べて随分と顔色や目付きが悪い。こんな状態で外をふらついているのは明らかにおかしい。


「おい、いきなり殴りかかるのは何事だ! 僕が何をしたというんだ?」

「さっき理由を言っただろうよ。それに、てめぇ拉致犯の影地令が今何処にいるか知らねぇか!」


 牛島の言っていた犯罪者は令のことだと? 令が誰かを拉致をしたなんて、全くもって理解がわからない。僕はとてもじゃないけど、令が罪を犯すとは思えない。

 恨んでいる理由も言わないのに、令の居場所を知りたがってるな。ここは知らないふりをしておくか、牛島は今平気で人を殺しそうな顔してるからな。


「令……知らないよ、僕はすぐ学校から出たわけだし、まだ学校にいるんじゃなんか?」

「そうか知らないのか、おらっ!」

「がはっ……」


 知らないふりがばれてしまった……牛島は突然僕に対して右足で大きく蹴りやがった。たしかに、昔から攻撃的な性格であることは知っていたが、いきなりの暴力行為をする奴だったとは。


「何しやがる牛島……苦しい……」

「これで喋れる体になったか」


 牛島の蹴りを腹にくらった僕は、腹を抱えながら牛島を激しく憎んだ。とにかく、変わり果てた牛島がだだ憎い。


「さっきの蹴りは俺なり挨拶ってやつだ。てめぇ影地令と仲いいなら今すぐここに呼べ、


 は? 令を殺すだと……このバカ、高校生の癖に殺人に触れるつもりなのか? 牛島の様子はおかしいし、ここで令を呼んでしまうと確実に僕も令も殺される。

 僕はこの騒ぎに警察が立ち寄って来ることを信じて、時間稼ぎとして牛島との対話を続けることにする。


「牛島、何故君は令に敵対心を持っているんだ? ソードツインズの噂は生徒達から色々聞くけど、令を殺す必要まではないだろ!」

「あの英雄気取り野郎はな、もう1人の変な奴と共に藤野を拉致したんだよ! 

「え? 君は何言ってるんだよ!? 確実な根拠がないのに令が藤野を拉致するわけないだろ?」


 牛島は何を言いたいのかさっぱりわからないな、令が藤野を拉致したと聞いてこんなの誰も信じる気がしない。令は菜瑠美ちゃんと今いい感じな関係らしいし、急になって悪に染まる理由が考えられない。


。ちっ、まだ言わねぇのか……

「うっ、令……菜瑠美ちゃん……」


 僕の言うことを全く聞かない牛島は、とどめの左ストレートを僕の顔に目掛けて殴ってくる。こんな私欲的な理由だけで、僕は命を落としてしまうのか……悪いな令。


「お望み通り、ここで死にやがれー……なっ」

「え?」


 牛島がとどめの左ストレートを放つ前に、1人の海神中央高校の生徒が牛島の左手を止めた。そして、その生徒はそのまま牛島の左手に対して強く握りしめた。


「やめろよ牛島……お前は悪人以外に手を出すような奴じゃねぇだろ、そいつから離れな」

「塚田……何故てめぇここに!? この野郎を庇うのか?」


 これは驚いた、牛島の左手を握りつぶした生徒は塚田だった。おいおい、絵美からの情報によると塚田は今日学校を早退したはずじゃないのか?


「塚田、どうして僕を助けたんだ」

「別に俺はお前を助けに来たわけじゃねぇ、今は化物のように人格が変わった牛島との因縁の決着を付けにきたんだ」

「俺と戦う……面白い! 塚田もここで殺してやる」


 塚田と牛島って、たしか中学時代に対立していた噂を聞いたことあるが、僕の同級生の危険人物2人によって東船橋を無謀地帯にかえてしまうのかよ。


「あのよぉ、牛島よ……お前、弱い者いじめは専門外だろ、少しは正気になれよ」

「黙れよ塚田、俺は

「バカか牛島! 影地はたしかに俺も憎い存在だ。だがよ……殺す必要まではねぇだろ」


 そして、塚田と牛島は互いに睨みあった顔をして喧嘩の体制へと入った。駄目だ、2人の争いが段々エスカレートしていくし、こんなの僕じゃ止めることができないよ。


「へっ、塚田……そこにいる弱虫の命は奪えなかったが、てめぇと影地令もあの世に送ってやるよ」

「やってみろよ牛島。あと、お前はどっかで隠れてな、この狂犬野郎は俺がどうにかするからよ」

「わかった、ありがとう塚田」


 あの塚田がこの僕に優しく接待したなんて、意外な一面を見てしまった。学年1の問題児でもなんでもないじゃないか、僕を助けようとしただけ見直したよ。

 いい奴に感じた塚田に反して、真の問題児の牛島はまるで薬物に手を染めたと疑ってもいいほどに人格が変わっている。塚田とここで喧嘩なんてしたら、お互い退学処分もいいとこだ。


「塚田と牛島が喧嘩している間に、僕は令に連絡しないと」


 僕は塚田と牛島との視界から離れ、安全な場所へと待機した。あんな争いに巻き込まれたら、生きて帰れないだろう。

 本音から言うと、塚田と牛島が喧嘩するところなんて見たくもないししてほしいとも思わない。今すぐに令や菜瑠美ちゃんを東船橋に呼んで、塚田と牛島の説得と牛島のとんでもない誤解を解かなけては。


「令……早く君も来てくれ」


 令……君は藤野を拉致するような邪悪な人間じゃないよな、僕は絶対君を信じてるから──



──────────



 次回は塚田視点です、殺人兵器となった牛島を塚田は止められるのか?

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