7-5話 藤野の悲しい過去

 ──戦いを好む藤野の過去にこんな壮大な出来事があったのか……悪人を憎む理由はなんとなく理解できた。


 2019年5月24日15時35分

 4組のホームルームが終わり、俺は行方不明のソードツインズを探し出すために校内を後にした。

 この捜索は『わだつみ』を加入する目的だけではない、ソードツインズが高校生の身分をわからせるためでもある。勉強よりも悪人を探し出すなんて、呆れたばかりだ。


「それにしても菜瑠美は来るのが遅いな……」


 今は近場の公園で菜瑠美との待ち合わせだ、校内で合流すると色々言われるかもしれない。それと、7組のホームルームは長いことで生徒の中では有名だからな。

 俺はその間は新技の特訓だな、こんな短い時間でも俺は技を磨けなければならない。下手したら、今の俺は今や豊富な技を持つ菜瑠美にさえも負けるかもしれないしな。


「いや、まだまだだ」


 現状としては新技を使いこなせるのは70%程だ、何かが納得できない部分がある。この技、もしかしたら実戦で初めて完成品がてきる可能性だってありえることだ。


「遅くなりました……つかさ」


 俺が公園に着いてから15分経過した後に、菜瑠美も到着した。特訓もきりの良い場面だったし、いい時に来てくれたな。


「影地、天須から大体のことは聞いた。俺もソードツインズとは昔からの付き合いだならすごく心配なんだ、捜索の手伝いを一緒にしたい」


 菜瑠美の呼び掛けにより、桜井さんも共にいた。ソードツインズの過去を知っているだけあって、これはありがたい助っ人だ。


「あと藤野のことであんた達を疑ってすまない……そんな悪いことするわけないよな。とにかく、あいつらが危険なことをする前に見つけ出そう」

「そうだな」


 昨日の通知で桜井さんは俺と菜瑠美を疑っていたが、改めて謝罪した。桜井さんは『わだつみ』ではないもの、今は大事な仲間だ。


「なあ影地と天須……ソードツインズを探す前に、今あんた達に言いいたいことがあるんだ。藤野の過去のことを」

「藤野さんの過去……ですか?」

「詳しく聞かせてくれ」


 ソードツインズを探す前に、桜井さんは真剣な表情をして藤野に関する重要なことを俺と菜瑠美に話そうとする。こんないい機会は滅多になさそうだし、あいつらと会えば説得できるのに十分使える。


「藤野にはな、『にか』という名前の藤野と7つ離れた妹がいたんだ。藤野はああ見えてもにかの前ではだったんだ」


 意外だな……藤野には歳の離れた妹がいたなんて、あの冷静沈着な藤野が優しい兄だなんてとても想像できない。


「しかし、にかは3年前……藤野との外出中に、5歳というわずかな人生だったよ。あの時の藤野は大粒の涙をこぼしながら、にかの最期を見届けたよ」

「嘘でしょ……妹さんが事件に巻き込まれた上に最悪な結末を迎えていたなんて……藤野さんにはとても気の毒なはずです」


 桜井さんの話を聞いて思わずぞくっとした、藤野は悲しい過去を背負いながら今を生きてるんだな。

 それを聞いた菜瑠美は高らかに両手を捧げながら、藤野の無事を祈っていた。これは藤野の妹の分も込めていそうだな。


「事件のその後はどうなったんだ?」

「にかを殺害した犯人は現行犯逮捕されて無期懲役の判決を下り現在も服役中だが、藤野はそれに全く満足はしなかった。にかと同じような事件を2度繰り返さないために、悪人を恨む正義の使者へと変わってしまった」

「藤野さんが悪人を憎む理由だけなら、私も同意できます」

「そして、藤野は昔から仲のよかった牛島と共にソードツインズを正式に結成。元々喧嘩が強かったことを利用して、悪人を数多く捕まえる賞金稼ぎとして現在に至っている」


 ソードツインズが結成した理由も妹さんの死の影響か。藤野にとって悪人を捕まえるのはお金ではなく、亡き妹のためにしてるんだなと納得してしまった。


「藤野さんに関する情報を提供してくれて、ありがとうございます桜井さん」

「あいつの意外な素顔を聞けた、感謝したい」

「例には及ばないさ、これを聞いてあいつの見方が変わっただろ? あれでも、1ヶ月に1回は墓参りに行くくらいだし」


 藤野の過去を知ったというのは大きな収穫ではあるが、ソードツインズの居場所はまだ不明なままだ。学生の身分を考えたらそんなに遠くへはい行ってないはずだが、犯人を捕まえるとなれば遠くまで追跡しそうなんだよなあいつら……。

 ソードツインズが悪党を懲らしめたい理由もわかったし、同時遺体破棄事件の犯人を仮に捕まえた時も妹のためだと思うだろうな。


「おっとすまない、カズキから通知がきた。もしかしたら、ソードツインズを見つけたのかもしれないかもよ」


 藤野の過去の話を終えて捜索を始めようとする中、カズキから1通の通知が届いた。カズキにも一応ソードツインズを見かけたら俺に報告してくれと自らお願いしたのだが、頼んだかいがあったぜ。


「どれどれ……は? 『今、東船橋駅付近で』だと? どういうことだ、牛島は藤野と一緒じゃないのか?」

「牛島さんと……」

「塚田がかよ!」


 カズキから送られた文章はとんでもない内容だった。信じられない、校内で一二を争う大バカ2人がタイマン勝負してるのかよ。

 てか塚田の奴、体調不良で昼休み前に早退したという情報は入っていた。本当の理由は牛島を探し出すことだったのかよ、あの鮫野郎はど偉いことやってくれたな。


「ん……まだ通知には続きがあるな、な? 『それとさ令、僕はさっき牛島に殺されかけたんだ。理由が全くわからないし、藤野を拉致した令も殺すと言ってた』……だと?」

「おいおい、絶対ありえないだろ!? 影地が藤野を拉致する悪い奴だと思えないし、影地は今藤野を探してるんだぞ。牛島は頭おかしいのか?」


 こんなのわけがわからない……俺が藤野を拉致だと、何を言ってるんだ牛島は? それと、ソードツインズは殺人に関しては専門外のはずだろ? 

 これが本当なら牛島はシャインだ死ねよ、直接牛島に会ったら全否定してやる。


「これは何かがあります……つかさ、桜井さん……いち早く塚田さんと牛島さんのいる公園に行きましょう」

「そうだな、あの塚田牛島を早く止めないとろくでもないことが起きる。影地も本当に藤野のことは知らないとも説得したいし」

「ああ、牛島が偏見ばかり言う奴とは到底思えないしな。俺が藤野を拉致する理由なんて全くないし、友人カズキを殺しにかかったのはマジで許さない!」


 俺達3人はカズキの情報を手がかりに、塚田と牛島が喧嘩しているという東船橋の公園へと向かった。

 今の通知で1番引っ掛かったのは俺が藤野を拉致したということだ、昨日は藤野と別れた後はずっと菜瑠美と家で過ごしたのにそんなことができるわけがない。


「牛島……お前に何があったんだ、教えてくれ」


 この時の俺は塚田と牛島の喧嘩を止めることだけを考えていたが、その行動は余計牛島を怒らせる結果へと発端した──



──────────



 次回はカズキ視点でやります。カズキは何故牛島に狙われたのかなど物語の補完を描きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る