7-4話 初任務

 ──校内で作戦会議か、これも『わだつみ』らしいか。

 

 2019年5月24日12時45分

 昼食を終えた俺は大和田さんとの約束通り、体育館付近にあるプレハブ前に到着した。前々からここは気になっていたのだが、本当に誰かいるのか?


「あのー……失礼します」


 俺はプレハブのドアを開けた、部屋のドアが空いているということは誰かいるみたいだな。柳先生と大和田さんがすでにいると思い、今までとは違う覚悟で中に入ろうとする。


「来たな令くん」

「遅いですよつかさ……待ちくたびれてました」

「なんだよ菜瑠美、先に来ていたのか」


 中には既に他のメンバー3人が待機していた。菜瑠美はここで自らの手料理である弁当を食べていたので、飲食OKと知っていればここで昼食を取っていたのにな。


「影地くんと天須さん……本来ならあなた達が普段入る場所ではないのよ? ボケッとしてないで早く私達の所に来なさい」


 柳先生曰く、ここは体育教師達が併用して使っていたものを、教員の人事異動もあっていつの間にか柳先生が校内でくつろげる場所へと変わったようだ。周りにはトレーニング機種もあるし、こっそり鍛えられるのな。

 こんな良さげな場所を指定した大和田さんと所有者の柳先生には感謝したい、ここなら他の生徒達が入り込むような場所でもないからな。


「令くんが来るのが遅かったせいで、大体のことは菜瑠美ちゃんが喋った。1年生の間で話題となっており、今日欠席しているソードツインズとやらの藤野くんと牛島くんを俺達『わだつみ』に歓迎しようとしたみたいだな」

「ごめんなさいつかさ……あなたが遅いので先に私だけで話しました」

「謝る必要はないさ、悪いのは来るのが遅かった俺なんだから」


 俺がゆっくり昼飯食ってる間に、菜瑠美が先に喋っちゃったか。しっかり柳先生や大和田さんも把握しているみたいだし、悪い目では見てないようだ。


「つまりは……影地くんがホームルーム前に1組の教室付近で立っていたのはそういうことだったのね」

「そうなんです……藤野は風を、牛島は雷を操る能力者なんだ」


 俺からもソードツインズが能力者であることを強調しておくか、ちゃんと俺は理由あって1組を覗いていたんですよ柳先生。


「それだけではありません……私は昨日、藤野さんと戦いました」

「おい、そこまで言うか菜瑠美?」

「つかさ……今は静かにしてください」


 菜瑠美ったら、平気な顔をして藤野と戦ったことを言っちゃったよ。やり出したのは事実なんだが、今は教員の立場である柳先生の前で話すことは忘れるなよ。


「つまり、天須さんと藤野くんはいわゆる他流試合をしたわけね。もしあなた達が能力者でなかったら、停学処分をしてたところよ。そんなにソードツインズを『わだつみ』に入れたかったのね」

「『わだつみ』は他流試合は禁止ではないが、今後はあらかじめ俺とたかこおばさんに一言言ってくれよな」

「申し訳ありません……実は、ソードツインズは2週間前にアナーロが起こした事件を私だけで解決したと思い込んでいました。それで、藤野さんは中間テストの結果の延長も兼ねて、運河先生の補習を受けていた牛島さんには黙って私に戦いを挑みました」


 菜瑠美も正直に昨日藤野とのことを語りだしているな。今後は生徒同士の戦いがあるかどうかはわからないが、無断での他流試合は禁止されたか。ま、チームなんだから仕方ない。

 

「私の本音から言うと、教員の間でもソードツインズの悪い噂も度々聞いているわ。だから、私にとってはまだ『わだつみ』加入の賛成とはいいきれないわ。それで、勝敗はどうだったの?」

「引き分けました……藤野さんが先に戦いを仕掛けただけあって、相当の自身を持って私に挑みました。素早い動きを主体とした風の異能で私を苦しめさせましたが、これで負けたら私は弱い能力者となってしまうので意地で引き分けまで持ち込ませました」

「この引き分けは俺が判断したものであり、菜瑠美も藤野も認めた結果なんだ」


 あの戦いは互角の争いだった、学校生活の支障にも及ぶから俺が止めた。むしろ、柳先生や大和田さんも引き分けで一番良い判断であることをうなずいていた。


「菜瑠美ちゃんを引き分けたとなればかなり強いんだな藤野くんは、俺は新たなメンバーが増えるということだけは賛成だ。問題は、彼らの今の行方だ」

「それはそうだけどなんかおかしいわね……藤野くんは天須さんと戦った後に消息がわからなくなったんでしょ。やっぱり夜に起きた同時遺体破棄事件に彼らは関わっているのかしら?」


 本当そこが引っ掛かるんだよな……やっぱり、学校を無視して事件の犯人を探しに言ってるのかな。そんなにも悪人を捕まえるのが優先したいのかよ、それが本当なら呆れたものだ。


「とりあえず、令くんと菜瑠美ちゃんがソードツインズを『わだつみ』に入れたい気持ちはわかった。君達の話を聞いて俺もますます彼らに興味を持ったが、まずは放課後に彼らを探し出すことだな」


 大和田さんはソードツインズの『わだつみ』入りは賛成気味のようだな。話が通じてくれて、さすがといったところだ。


「では放課後、俺と菜瑠美がソードツインズを探してみます」

「宜しく頼む。俺は放課後今日生徒会の集まり、同じくたかこおばさんは教員の集まりがあるから、今回協力できないんだ。彼らをもしも見かけたらすぐに連絡するんだぞ」

「わかりました、絶対に見つけます」


 こういう時に限って大和田さんと柳先生は学校の都合で4人で捜索できないか、学校の立場上仕方ないな。

 もしもソードツインズが見つかっていきなり戦いに巻き込まれたら、この2人はいない方が逆に助かるな。昨日に続いて、先程の忠告を無視することになる。


「つかさ……必ず探しましょう、ソードツインズを」

「ああ、ソードツインズは俺と菜瑠美が見つけ出す」


 リーダーに下された今日の俺と菜瑠美の『わだつみ』としての初任務、それは行方不明のソードツインズを探し出して今度こそ『わだつみ』に加入させること。

 同級生の失踪であるから最初は難しいものではないと思っていたが、放課後に予想もしなかったことが俺と菜瑠美に襲いかかる──

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