7-3話 ソードツインズの行方

 ──校内の誰もが心配してるんだ、何処にいるんだソードツインズ?


 2019年5月24日8時15分

 今回も菜瑠美を先に学校へ行かせて、俺は時間差で通学している最中だ。まだまだ菜瑠美との関係を知られたくないからな。


「なんだこの殺気は……」


 しかし、その途中で誰かがまるで俺を殺したいような強い気を感じた。学校もすぐそばまで近付いているのに、こんなところまで引き返すわけにはいかない。


「今までこういうことは何度もあったが、今回は尋常じゃない。それでも俺は登校しなければ」


 俺は頭を右手に抱えながらそのまま学校に向かうが、この殺気の正体をいますぐでも知りたい。もし本当に藤野が来てた場合、放課後に話し合いもあるから殺気にこらえないとならないな。

 その藤野の行方についてはさっきまで考えていた、昨日の桜井さんの通知以降に大きな動きが出てれば良いのだが。


「令くんどうしたんだ? 今日は体調悪いのか?」


 通学途中に大和田さんと遭遇した。タイミング悪く俺が頭を抱えてる時に合流だったためか、体調不良を疑われてしまう。


「大和田さん、実は1つ相談したいことが菜瑠美と一緒にあって……昼休みに中にお時間ありますか?」

「相談か……いいだろう」


 大和田さんにはまだ昨日のことについては話していないし、そろそろ追加メンバーの招集について語るか。藤野が本当に学校に来ていた場合、先に大和田さんに話していれば手っ取り早くなるからな。

 『わだつみ』の全てに関わることだし、菜瑠美も呼ばないと駄目だな。藤野と戦ったのは菜瑠美なわけだし、菜瑠美の方が藤野の実力を証明しているからな。


「とりあえずシャキッとしといたらどうだ? そんな状態なら校門でたかこおばさんから文句言われるぞ」

「わかってますよ大和田さん」


 その前に、学生の身分であることは心得ないとな。この状態なら柳先生に目を付けられ、『わだつみ』のメンバーに不適正と思われるからな。



◆◇



「藤野だけでなく、ソードツインズが揃っていないのか」


 ホームルームが始まる前にチラっと1組の教室を窓から覗いてみたが、藤野処か牛島の姿さえも見当たらなかった。校門も閉まった時間だし、これ以上来ることはない。

 本当に藤野は行方不明になってしまったのか……牛島は藤野を探しに行きたい気持ちはわかるが、その前に授業を受けろよな。あいつは昨日の補習の対象者だし、先に単位を取るのが先だろ。


「影地くん、そこ何してるの?」

「や……柳先生、色々とありまして」


 あまりに長く1組の手前に立っていたら、柳先生に見つかってしまった。柳先生にもソードツインズのことは語っていないが、2人の欠席は教員の周りにも出回ってるはずだ。


「さっき耕ちゃんから相談したいことがあるというのは聞いたわ、まずはそこで突っ立ってないで4組のホームルームを始めるわよ」

「は、はい……わかりました」


 仕方ない……校内では柳先生には逆らえない立場だし、詳細は休み時間の間に聞き込みでもするか。

 それにしても何かがおかしいぞ……連続遺体破棄事件と同時期に藤野が行方不明の連絡が入った。恐らく、ソードツインズのどちらかが事件に関わっているのではと見方を変えた。



◇◆



「うちのクラスの優等生である藤野くん、昨日の夜から家に帰ってないんだって」

「あの藤野さんが誰かに狙われたら私が許さないんだから、ほんとっ今年……いや令和になってから校内の事件が多発しすぎよ」


 多くの女子生徒からも、藤野が失踪したという噂が飛び散らしている。イケメンで運動もできて菜瑠美の次に頭のいい人気者が構内にいなかったら、さすがに悪い流れになってくるだろうな。


「次の授業に準備する時も藤野のことばかり考えてしまう。ん、そこに不満な態度を取ってるのは……」


 あれは塚田だ、美術室へと移動する途中で小さく愚痴を言っていた。あいつも過去に因縁があるからか、ソードツインズのことを気にしているようだな。


なソードツインズが揃って今日欠席だと……おまけに藤野は行方不明ときた。あのヒーローごっこ野郎共を倒すのは俺なのによ! あっ影地」


 すると、塚田は俺の方へと向かって何か不満そうな態度で近づいてきた。まだ時間に余裕はあるし、遅刻しない限りまでは聞いてやるか。


「今日の朝桜井から聞いたぜ、お前と菜瑠美ちゃんは本当に昨日のソードツインズのことを知らないのか? 知っていたら今から校内を飛び出して殴りに行きたいぜ」

「今回に関しては知らない……俺と菜瑠美だってあいつらのことは心配なんだ」


 塚田は今すぐにでも授業を受けずにソードツインズと戦う姿勢を見せたが、何の手がかりがないのにどうするんだよ。バカはバカなりの考えだな。


「ふん、そうだよな。お前は他人を傷つけるようなことはしなさそうだしな」

「お前が言うな! それと塚田、牛島は昨日の補習の態度はどうだったんだ?」


 俺は人並みに一般常識くらいはわきまえてるよ、初対面の時に菜瑠美目当てで俺に殴りかかっただろこの鮫野郎。

 せっかく塚田とここで会ったわけだし、昨日の補習で牛島はどうだったのか聞いてみるか? 塚田らしい情報を聞けるかもしれない。


「あん時の牛島か。奴から先に喧嘩を売ってきんだが、運河のおっさんに止められた。それで俺だけ昨日残って個別指導、牛島は今日個別指導のはずなんだが肝心の奴が今日いない」

「お前ららしいやり取りだなそれは」


 全てが信用するとは思わないが、補習で喧嘩ごとはさすがにまずいだろうよ。塚田と牛島はなんだな、とつくづく感じてしまった。


「影地、勘違いすんなよ。この俺様もソードツインズが心配なんだからさ」

「塚田……お前の口からそんな言葉がでるとはな」

「なんだと影地!? お前から先に殴ってやろうか?」


 塚田のいつもと違う一面を見ちゃったようだ。藤野はさすがに校内屈指の人気者だけあって、牛島も含めてソードツインズを心配する生徒は大勢いた。

 俺もその内の1人ではあるのに、やがて──

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