7-2話 桜井からの通知

 ──この通知によって、ソードツインズの見方が大きく変わった。


 藤野との戦いを終えた菜瑠美は、一旦行田公園のトイレで着替えをしている最中だ。さすがに、戦闘服で道端をうろつくわけにはいかないしな。

 菜瑠美が着替えをしている間、俺は僅かな時間を利用して体を動かしたかった。そこで、今まで編み出そうとしている新技の動きを試していた。


「身体能力なら他の誰より高い自信はある、誰にも真似できないことをしてやる」


 俺は菜瑠美と藤野が戦っているのをただ単に眺めていたわけではない、藤野の動きと技をしっかりと把握するように心の中で覚えていた。

 あの戦いで菜瑠美はまたしても新技を披露して俺を驚かせた。藤野もまだ隠された技もあるだろうし、既存の技だけでは太刀打ちできない。 

 数分の間、バク転とバク宙を繰り返しながら考えているが、なかなか思い浮かばない。


「お待たせしましたつかさ……特訓中でしたか?」

「全然問題ないさ菜瑠美、俺は君が着替えている間の暇潰しをしていただけだ。じゃあ家に向かうぞ」


 仕方ない、今日は菜瑠美を連れて家に帰るか、今は藤野と死力を尽くした菜瑠美の疲労を優先しよう。

 最悪、技を考えることだけなら授業中でも考えられる。当然、先生の話を聞きながらだけどね。



◇◆◇



 2019年5月23日22時10分


「今日も私を泊めてくれてありがとうございます……今の私にとって、あなたの家はパワースポットです」

「そ、そうか……特に目立ったようなものはないんだけどね」


 明日も学校であるというのに、襲撃事件以来となる菜瑠美を俺の家で一泊させる。藤野の戦いの疲れも残ってるし、恋人の俺が菜瑠美のケアもしないとな。

 それに、俺の家のどこがパワースポットだよ? もう菜瑠美は何度もここに来ているし、ただ単に俺のことを思っていたいだけじゃないのか?


「藤野さんの『風の力』、変形自在でかなりのものでした……攻撃面だけでなく、受けも私の持つ闇の苦痛でここまで耐えた人は初めてです。このまま『わだつみ』に入ってくれるといいですね」

「そうだな、あとは短気の牛島がどう受け入れるかだな」


 菜瑠美も藤野が強敵であることを認め、明確に『わだつみ』入りを歓迎していた。あの苦痛を耐えきれたのは、相当な精神力の持ち主であること俺も実感した。

 今頃藤野は牛島と話し合ってるだろうし、明日の結論を俺も待ちわびていた。これはもう、加入してくれることを祈ることしかできないな。


「ごめんなさいつかさ……お話の最中ですが、今の私宛に通知が来てるので見ても良いですか?」

「それは構わない、大事なことかもしれないしな」


 菜瑠美はポケットに閉まってあるスマホを取りだし、通知を確認した。こんなときに誰だろうと気にしてしまったが、これが男だったらやだなという目で菜瑠美に目を向けた。


「どれどれ……桜井さんからです……えっ、そんな?」

「桜井さんからか、どうしたんだ?」


 どうやら送り主は桜井さんのようだが、菜瑠美が驚いているということは7組内で重要なことがあったのかと予想した。


「通知の内容が信じられません……『なあ天須、藤野の母親から回ってきた情報なんだが、藤野がまだ家に帰ってきてないんだってよ。天須はあの後藤野とまだ話していたら何か知らないか?』とのことです」

「なんだと、藤野が?」


 まさか、夕方に菜瑠美と戦った藤野のことについてとはな。藤野の家庭の事情については知らないが、桜井さんがわざわざ菜瑠美に通知を送るのは相当なことではないのか?


「私……桜井さんに何と送ればいいのでしょう? さすがに、藤野さんと戦ったということは絶対に送れません」


 桜井さんは放課後の理科室での対話もあるし、藤野の身に何か起きたと聞いて菜瑠美を真っ先に疑うのも無理はない。菜瑠美だけではなく俺も理科室に残っていたから、桜井さんから見れば俺も1かもな。


「つかさ……私……藤野さんに対して……」

「大丈夫だ、菜瑠美のせいではないはずだ」


 菜瑠美は俺に向けて戸惑いを見せる顔をした。たしかに、菜瑠美の闇を藤野は何度もくらっていたが、それでも苦痛を持ちこたえて菜瑠美と戦い引き分けた。

 行田公園から去っていったときも何の問題なかったし、牛島にも連絡もしているはずだ。ソードツインズの絆でどうにか解決するだろうと思い込んだ。


「ま、明日学校には来るだろう、心配しすぎると逆効果だぞ」

「そうですね……藤野さんを気にしすぎました。とりあえず、桜井さんには『あの後私とつかさは行田公園で藤野さんと少し話をしてから別れました』と送っておきます」


 悪いね桜井さん、俺達の秘密を知られたくないために半分嘘を送ってしまってな。俺と菜瑠美は行田公園に別れた後の藤野のことは本当に知らないんだ。俺と菜瑠美は藤野の無事を祈っていた。


「それとつかさ……ソードツインズとは関係ない話になりますが、今日の夜に津田沼で興味深い事件が発生しました。路地裏で2人の遺体が発見され、その内1人は世間を騒がしている脱獄囚らしいです」

「また千葉で物騒な事件が発生したな、津田沼も近いしな。もしかしたら、ソードツインズはその事件の犯人を追いかけているせいで家に戻ってきてなかったりしてな」


 連続少女襲撃事件に続いて今度は同時遺体破棄事件かよ。脱獄囚となればソードツインズもすぐに標的しそうな相手だが、その脱獄囚を殺した犯人を許せず追跡している可能性も大いにある。


「この事件もまた俺と菜瑠美に影響を与えそうだが、そろそろ寝るぞ。おやすみ、菜瑠美」

「はい……おやすみなさい……」


 俺は部屋の明かりを消し、明日の学校に備えた。俺にはまだ知らなかった、この同時遺体破棄事件の犯人が海神中央高校の生徒牛島であることを──

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