6-3話 塚田の野望

 ──実質的な迷惑行為なのに、思わぬ情報を手に入れた。


「ご存じの通りかもしれないけど、昨日この海神中央高校内に侵入者達が1年7組の教室を襲撃する事件があったわ。いつまた部外者がここにやってくるかもしれないから、とにかく気を付けるようにね。以上、みんなは1限目の準備をしなさい」


 いつも通り朝のホームルームを受けていた俺は、柳先生から昨日の襲撃事件の詳細を生徒達に説明しいるのを聞いていた。

 いくら今はまじめに話そうが、俺は昨日の麻衣との戦いや合コン疲れの顔をしているのはわかっていた。ま、教員の宿命からは避けられないものな。


「なあ令、今校内で君の噂だらけだよ。昨日は柳先生と共に菜瑠美ちゃんのクラスを救ったんだよな。本当にヒーローと化したね」

「あのなーカズキ、俺はちょっと昨日のことや中間試験で頭がいっぱいなんだよ」


 ホームルームを終えた後、カズキがご機嫌な顔をしながら俺の席にやってきた。見ればわかるが、カズキは友達がやったんだという顔をしてるな。


「そうだったな、話掛けてすまない」

「悪いな、話すなら放課後にしてくれ。その時は俺も体調はよくなってるだろう」


 俺は今平常心を保ちながら授業に集中したいんだ、何かに気を取られては戦闘にも影響が出てしまうと俺は思っている。



◇◆◇



「昼休み中は勉強に費やすか」


 今日の俺の昼飯はメロンパン1個だけで済まし、食後から5限目の間までは全て苦手にしている数学に専念した。

 たしかに、ソードツインズもうろついていそうだし気になる存在だ。だが、少しの時間でも勉強がほしい。

 それに、藤野は国語の小テストで高得点を出す頭脳明晰でもある。ここは菜瑠美だけでなく藤野にも勉強でくらいつけるようにしないと。


「影地くんどうしたのかしら? 昨日の主役から一転して勉強ばかりして」

「今は令に構わない方がいい、僕だってそう言われてるんだ」

「カズキが言うんじゃ……昨日勉強会できなかった分、今日教えてもらおうと思ったのに」


 川間さんもすまないな、放課後は聞いてやるから今はカズキと好きにしてくれ。勉強会もしっかり試験前にやるから。


「おいお前、勝手にうちの教室に入ってるなよ」

「うるせぇ! 俺様はここの英雄野郎に用があるんだ」


 4組の教室が少し騒がしくなったな。変な奴が入ってきたからって俺には関係ないと思ったら、見覚えのある顔と声だった。


「いったい何事だ? げっ、塚田!?」

「よう影地、昼休み中に勉強とかお前らしくないな」


 俺が自主勉強をしている最中、塚田が俺の頭を叩きつけるような感じで俺の席の前に現れたが、そもそもここは4組だぞ。

 この鮫野郎、昨日未衣と麻衣の姉妹に襲われて負傷したんじゃないのかよ? たしかに、足の動きは万全ではないが口はえらい元気だぜ。


「なんだよ塚田、俺は勉強中だし他所のクラスのお前がここに来るな」

「わりーな、お前に話したいことがあってな。勉強なんていつでもできるだろ」

「は? 俺は今頭がいっぱいなんだよ」


 俺は今時間のある限り勉強したいんだ、バカに構ってる暇なんて全くない。それよりも、塚田の方こそ俺以上に勉強したらどうだ? 赤点取りそうな感じもするしな。


「とりあえず、すぐ終わる話なら聞いてやってもいい」


 親切だよな俺も、一旦中断して塚田の話を聞くか。カズキや川間さんには俺を放っておかせて、このバカの話には乗るとかどうしたものだか。


「ありがとな影地。お前さっき桜井から聞いたぜ、ソードツインズに目を付けられたらしいな。奴らは俺より強いと思ってるからなんか嫌なんだよ」

「やはりお前も、あいつらと関係あるのか?」


 ここでソードツインズの名前が出たからには興味が沸いたな、桜井さんが既に塚田に報告したわけね。とはいっても、当のソードツインズが塚田のことをどう思ってるかわからんがね。


「そりゃそうだ、ソードツインズは俺がバリバリのキックボクサーだった時に因縁があってな。真久間中に強いタメが2人いると情報を聞き付けて奴らの本拠地に乗り込んだんだ。そんで戦いに挑んだら互角……。こんな奴らが世の中にまだいたなんて最初は驚いたぜ」


 中学時代にキックボクシング界で追放当然までの扱いだった塚田を、ここまで追い詰める存在なのかよソードツインズは。

 牛島は体格差があるし多少塚田に不利あるが、体格的にそこまで変わらない藤野が乱暴者と互角以上とか相当なものだぞ。


「運よくソードツインズが同じ高校にいると聞いたから、今まで警戒してたんだ。藤野は相変わらずイケメンでキザで嫌な奴だし、牛島はからマジで気に入らねーんだよ。こんなチャンスは願ってもなかったし、そろそろ奴らと決着つけたいんでな」


 塚田なりにソードツインズとの関係を終わりにしたいわけねぇ、塚田と牛島のキャラ被りは思わず鼻笑いしそうになったけどね。お前の野望は強く伝わったよ。


「おい塚田、俺に八つ当たりするんじゃねぇよ」

「すまないな、ついソードツインズのことが許せなくてな」


 塚田の奴、今はとにかく俺の机を揺らした。気持ちはわかるが、教科書やノートら勉強道具を落としてしまう程の勢いで揺らすんじゃないよ。


「お前のソードツインズとの関係はわかった。それはともかく、話は終わったんだからはやく教室から立ち去ったらどうだよ。また柳先生に怒られたいのか?」

「あのクソババアなんて今はどうでも……」

「塚田、周りを見てみろよ」

「ちっ、わかったよ」


 学年1の無法者が入って来たせいで、クラスメイト達が俺と塚田を嫌な目で見つめている。クソババアと聞こえた今の大声を誰かが柳先生に密告したらどうするんだよこのバカ。


「じゃあな、あと仮にもこれ以上目立った行為するんじゃねーぞ」

「はいはい」

 

 相変わらず塚田はやかましいバカだが、ソードツインズの収穫を得たのは感謝している。勉強時間は減ったけどな。

 塚田は天敵の柳先生が来る前に急いで4組の教室から出ていった、見つかったら今度は正座されて説教されそうだな。


「はぁ……うるさいのが去った」


 塚田の情報は参考にしとくか、これで残るはソードツインズがいつ俺と菜瑠美相手に仕掛けだすかだ。中間試験があるというのは同条件だし、試験終了後に攻め出すと俺は見た。

 いけないいけない、ソードツインズの考え事はもっと後にしよう。昼休みも少なくなってきたし、5限目まで勉強に集中集中──

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