6-2話 俺達はソードツインズ

 ──彼らの存在が、俺に新しい火をつけた。


 190cm近い大柄の男子生徒が菜瑠美に話しているところを見た俺は、どうせいつものナンパで今日も菜瑠美が振ってくるだろうという感じ見つめていた。

 その大柄の生徒、昨日の襲撃事件で公表してないはずの菜瑠美がアナーロ達を倒したと思っていた。嫌そうな顔をしている菜瑠美も、反論はできない態度をとっているな。


「あそこにいるのはまさか? あいつ天須に何してるんだ?」

「あっ桜井さん、あのデカい奴と知り合いなのか?」


 菜瑠美と大柄の生徒が話し合ってる時に、自転車を校内の駐輪場に停めていた桜井さんと再び合流した。どうやら桜井さん、大柄の生徒のことは知っているようだ。


「影地、あいつは1年1組の牛島剣と言ってな、中学の時からの同級生なんだ。たしか、牛島の奴は天須のファンクラブに早いうちから入ってたような気がするな」

「は? 牛島はあの体格で1年生なのか?」

「まあ初見からすれば同級生に見えないよな」


 大柄の生徒の名前は牛島うしじまけん。圧倒的な体格を見ただけで3年生だと思ったら、まさかの1年生かよ。どう見てもそのように感じない俺は驚いてしまった。それ言ったら、菜瑠美の胸も1年生離れしてるか。


「あっ、つかさ……この人が」


 菜瑠美が俺の方へと見つめて、助けてほしいような顔をしている。俺も今来たばかりだし牛島とは初対面だから、何がなんだか飲み込めていない。


「おー、お前が影地令か。菜瑠美ちゃんやお前のクラスの担任達と一緒に昨日の悪党達を振り払ったのは。意外とちっこい奴だな」

「ふん、小さくて悪かったな。言っておくが、世の中は見た目だけじゃないんだぞ」


 牛島の奴、初対面なのに163cmしかない俺をすぐさまからかいやがった。190cm近い大柄が、まずは牛島の取り柄だからな。


「それと、俺系女子のミナミと一緒か、お前ら恋仲か?」

「うるさい、俺と影地は昨日知り合ったばかりだ」


 悪いんだけど桜井さんはそういう関係じゃないよ、俺の恋人は牛島が話しかけてる相手なんでね。牛島にそう思われた桜井さんはなんか、少しは照れ臭い顔はしてたが。


「影地、天須、お前らこう見えても喧嘩事に強いんだろ! 俺といつか戦ってくれよ」


 こいつ塚田と同類か? 俺と菜瑠美は能力者だけあって喧嘩屋ではない。襲撃事件の解決者だけで勝手に決めつけては困る。 


「断る、お前と戦って学生でもある俺には何のメリットもない」

「私もです……喧嘩のような無意味な争い事は嫌いです」

「んだと、俺は戦うことが好きなんだよ」


 俺は中間試験や虹髑髏との戦いで手をつけられないんだ、バカと構っている暇もないしな。菜瑠美も断って当然なことだ。戦いが好みなんて俺の知ったことじゃない。


「よせよお前、今は影地令から離れな」

「なっ? お前いたのかよ」


 牛島のボルテージが上がっている中、ズボンのポケットに手を突っ込んだ金髪のソフトモヒカンで顔立ちの良い男子生徒が現れ、牛島を口頭で止めに入った。


「あちゃー、こんな時にコンビの片割れまできちゃったよー」


 どうやら、牛島の友人のようだな。牛島も少し戸惑い始めているし、その生徒も揉め事は好んでそうにないな。桜井さんも頭を抱えてかなりの困り気味だ。


「何言ってるんだ、お前だって影地令と菜瑠美ちゃんのことが気になってただろ」

「それはそうだが、。教室に行くぞ、牛島」

「わかったよ藤野……今はお前に従うか」


 金髪の生徒の名前は藤野ふじのけんで彼も1年1組の生徒だ。藤野の方も俺と菜瑠美のことに目を付けているようだが、牛島と違って冷静沈着のようだ。

 藤野に関しては事前に名前だけは知っていた。以前の国語の小テストで満点だった菜瑠美の下に95点で名前が載っていたからな。頭の良い生徒なんだなとしか今まで印象がなかった。


「ふんっ、俺達ソードツインズがお前らを標的にしたことを忘れるなよ」

「ちっ、また面倒な奴が出てきたぜ。何がソードツインズだ」

「ったく、影地と天須までソードツインズの目に行ってしまったか。俺には援護不可能よ」


 色々と納得いかない牛島と早く教室に行きたい藤野は、俺と菜瑠美の視線を見ながら下駄箱から離れていく。

 藤野は静かそうで頭も冴えていそうだから話せばなんとかなりそうだが、牛島は無理そうだな。ってか、塚田と同じ香りしかない。


「きゃー、藤野くーん」

「私のことを見てー」


 藤野の登校を見た何人の女子生徒達が藤野を囲み、右手で手を振りながら階段へと上った。イケメンだし頭もいいから女子に人気がある、男子に人気がある菜瑠美とは正反対じゃないか。


「とにかくあんた達、ソードツインズの動向に気を付けるんだよ」

「桜井さんは藤野とも同級生だったのか?」

「まあね、今は揃って1年1組の生徒だけど、元々俺と同じ真久間まくま中の同級生で3年間同じクラスだったんだ。お互い幼少期からの人付き合いでもあり、2人とも下の名前が『けん』だからソードツインズと呼ばれてるんだよ」


 ソードツインズの由来は下の名前だったからか。桜井さんが彼らのことは顔見知りなのに、久々に見た牛島の行動を見て呆れちゃってたな。


「しかも、あいつら中学生の時から指名手配中の悪人共をとっ捕まえて賞金稼ぎみたいなこともやってたからな。昨日俺達を襲った奴らも捕まえたかったと思ってるはずだ」

「同い年なのにまるで漫画の主人公みたいなことやってたのかよ」

「そうなのですか……随分と危険なことをやる方々なのですね」


 仮にソードツインズが来てくれたらありがたかったんだけどな……捕まえた奴が気になって俺と菜瑠美に関わろうと思ったわけね。

 ただ、やっていることには賛成しないな。正義感があるのは同意できるが、中学生から手を出す行為じゃないだろ。警察官になってからじゃ駄目なのか?


「つかさ……ちよっと宜しいですか? あの人達、もしかしたら能力者かもしれません……牛島さんは私がアナーロ達を倒したと言っていましたし」

「だろうな、にしてもまた面倒なことに巻き込まれたな」


 菜瑠美はソードツインズのことをただの生徒や賞金稼ぎではなく、能力者ではないのかと感じていた。もしも、能力者であることが真実なら『わだつみ』に誘う以外ないだろう。


「ではつかさ……私達も自分のクラスに向かいます」

「影地、くれぐれもソードツインズに絡まれることはすんなよ」


 菜瑠美や桜井さんは7組へと向かい、俺もそろそろ4組に行くとするか。もしかしたら、を見れそうだしな。


「藤野健と牛島剣……2人揃ってソードツインズか」


 牛島のあの性格を考えたら、いずれ戦うことは避けられないだろう。桜井さんの話を聞く限りでは荒くれものだが2人の意気は抜群、敵に回したら厄介なのは間違いない。

 やがて、俺と菜瑠美はソードツインズがであることを実感する。コンビ仲であるなら、幼少期からの関係より恋人の方が深い強みであることを──

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