5-17話 教室ですれ違うはずのない2人

 ──1人の女子生徒によって海神中央高校は救われた。だが、その事実は校内の関係者には『わだつみ』以外知られなかった。


「影地くんどうしたの? 寝ている天須さんの顔を見て」

「え? そんなことはないですって柳先生!」

「今の天須さんには休息が必要よ、わかってるのかしら?」

「それは俺でもわかりますよ」


 ここは校内の保健室、アナーロとの因縁を自らの手で終わらせた菜瑠美。対決後は柳先生に運ばれ、今は室内のベッドで寝たきりの状態だ。


「それにしても、覚醒した天須さんすごかったわね。あんな『力』が、もし先週の手合わせで使われたら負けてたわ」

「そうですね、あの闇は計り知れないものだ」


 たしかに、覚醒した菜瑠美は自らも苦しむほど凄まじい『力』だった。柳先生曰く、見た限りでは能力者としての今後大きな影響はないと語った。


「耕ちゃんもお疲れさま、避難した生徒や教員達も全員無事で助かったわ」

「俺にかかればこんなことはお安い御用だ、『わだつみ』としての役目だしな。話によると、菜瑠美ちゃんは新たな強さを手に入れたようだね」


 今回は裏方として事件の解決に関わった大和田さんだが、菜瑠美の覚醒した姿に興味を持っているな。下手したら大和田さんを上回る戦闘力かもしれないし。


「そういえばたかこおばさん、そろそろ合コンの時間じゃないのですか? 化粧も少し崩れてますよ」

「合コン!? ふっ」


 大和田の発言によって、この後の柳先生の行動に思わず鼻笑いいしてしまった。相変わらず、大和田さんは柳先生思い……なのかな。

 柳先生は三十路でありながら合コンなんて行ってるのかよ、つまり婚カツ中か。だから余計に化粧していたわけね。


「あのね耕ちゃん、影地くんの前で私が今日合コンあるとか言わないの。影地くん、絶対に今のことは私達だけの内緒だからね!」

「そんなことわかってますよ」


 誰が言うもんか、年齢だってばらしていないんだぞ。ここは、生徒と『わだつみ』として陰ながら応援するかな。

 こうして柳先生は保健室から離れ、気合いの入ったまま合コン会場へと向かった。柳先生は本当元気だよな……これが、柳先生の取り柄だな。



◇◆◇



 一旦保健室から出た俺は1年4組の教室に戻り、色々考え事をした。柳先生は合コンに行ったし、邪魔する人は現れないだろう。


「学校に平和が戻った……菜瑠美のおかげだな」


 虹髑髏第4部隊が起こした海神中央高校襲撃事件が解決して30分が経過した。校内には、警察や報道陣が数多く詰めかけている。

 犯人グループである5人の虹髑髏メンバー達は全員逮捕され、全員今回の事件以外にも多くの罪が問われていた。入学式前からの関係だったファルやデーバとの因縁も、今日で終わりだな。

 また、菜瑠美が闇の能力者であることを世間や生徒達にに知られたくないため、事件の解決者は菜瑠美ではなく校内の生徒と教員数名という扱いを取った。

 負傷者は1人出てしまったが、その1人である塚田は傷程度で済んだだけでも幸いか。あいつはキックボクサーだし体を鍛えてるからな。


「アナーロが逮捕されただけでも、菜瑠美や他の少女達にとっては大満足だろう」


 特に主犯のアナーロは、千葉県内に数件被害届が出ていた連続少女襲撃事件の容疑者でもあった。これで、県内の少女達は安心していられそうだ。

 そもそも、菜瑠美たんと呼ぶ気持ち悪い奴は先にも後にも出て来ないだろうな。とにかく、刑務所で深く反省することだな。


「今日、俺としては不完全燃焼だったかもしれない」


 俺はこの事件、菜瑠美を助けに行っただけのようなものだった。犯人グループは全員菜瑠美が始末したからな。

 稲毛の時や7組の教室で俺を苦しめた未衣と麻衣の姉妹も、屋上に着いたら菜瑠美が簡単に姉妹を闇の糸で縛られていた。

 悔しいかもしれないが、あの時は俺と菜瑠美との。俺は屋上でまた姉妹と戦うものだと思ってたからな。


「今後、虹髑髏はどんな行動を取るのか心に引き締めないと」


 いくらアナーロが逮捕されても、『わだつみ』と虹髑髏との戦いはまだ序奏すら届いていない。今回の事件の影響で、菜瑠美をよりマークするのは間違いないだろうし。

 当然、俺自身にも危機感を覚えている。いつどこで仕掛けるかわからないから、常に気が抜けないな。


「考えてたら遅くなってしまったな、保健室に戻るか」


 俺は今、あくまでも学生の身分だ。事件のせいで勉強会も中止になったし、帰って中間試験の対策をしないとな。

 だが、菜瑠美も心配だし、保健室でも寄って帰るか。菜瑠美は起きてたりするのかな?


「つかさ……」


 教室を出ようとした時、菜瑠美が突然俺の前に現れた。まだやつれた顔をしているし、もう少し保健室にいた方がよい気がするのだが?

 しかも、ここは4組の教室だぞ。本来7組の菜瑠美が入っていい場所ではないはずだ。


「どうしたんだよ菜瑠美、君はまだ休むべき状態だろ? それと、どうして4組に来たりしたんだ?」

「私は……7組の教室に鞄が置いたままでしたので、取りにきたついでです。私だって、いつまでも休んでるわけにはいかないでしょ……ここは学校なのですから」

「そ、そうだったな。君のことを考えて、今日は俺の家に来るか?」


 たしかに、学校が閉まるまでもう少ししかないもんな。菜瑠美もまだ疲れていそうだし、今日は俺の家に泊めるとするかな。


「それはよいのですが、閉校までの間、4……」

「は? いくら恋人同士でも、校内では別々のクラスなんだぞ。それに、誰かに見られたら……」


 おいおい、こんな時に何を言い出すんだ? ま、本来だったら柳先生に怒られる状況だし、今は誰もいないのだから許してやるか。

 4組の教室で菜瑠美と2人きりか……今までになかったシチュエーションだし、これもまた別の意味で緊張するな──

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