5-18話(五章最終話) ダークプリンセス
──いつか校内でやってくるとは思ってはいたが、世の中そう上手くいかないよな。
厳密には菜瑠美の怒りだけで終わらせた海神中央高校襲撃事件。この事件を起こしたアナーロら虹髑髏メンバーは逮捕され、組織にも1つの影響は出ただろう。
今回の事件での活躍が皆無に等しい俺は、1年4組の教室で1人こもって菜瑠美の覚醒した『闇の力』や今後の虹髑髏の動向について考えていた。
すると、保健室で寝ていたはずの菜瑠美が突然教室の前に現れ、俺と一緒に話したいと中に入っていったのだ。
「言いたいことありすぎて困るな」
今、菜瑠美を見ただけで何故ここまで緊張するんだ? とりあえず、頭の整理整頓をしなければ。
覚醒した姿だったりアナーロが本当にやべー奴だったりなど色々ある。あー、頭がパンクしてしまうじゃないか、俺は何を言ったらいいんだよ?
「私からいいですか、つかさ?」
「ん? どうぞ構わない」
俺が迷ってるうちに、菜瑠美の方から先に言いたいようだな。合流したのは覚醒した時からだったし、今日のことを色々と知りたいしな。
「私……令和の始まりから今日までの間、ずっとアナーロのことばかり頭に出てきました。今日ここで覚醒して捕まえてなければ、これからもずっと悪夢を見ていたでしょう」
「それはそうだろう、菜瑠美にとっては憎き相手だったからな」
稲毛でアナーロと初めて遭遇した翌日、菜瑠美は俺の隣でアナーロにうなされてる夢を見ていた。アナーロは重い罪に問われそうだし、大分先まで安心できるはずだ。
「にしたって、菜瑠美の覚醒した姿を見てとても驚いたよ。こんな能力を持っていたら、俺でも勝てる気がしないよ」
「そうですか……私はアナーロに対する怒りで目覚めたので、今後使う場面があるかまだわかりません」
菜瑠美も覚醒した自分をまだ理解してなさそうだ。触手を受けた時も、今まで自身が眠っていた怒りで覚醒していたしな。
「つかさ……私思ったのです。私の父親はただ単の事故死ではなく、この闇によって制御できずに飲み込まれたか禁断の能力であることを察して自決しものではないかと」
菜瑠美の持つ『闇の力』はたしか、父親からの遺伝だったんだよな。父親も覚醒できたことも考えたら、その理屈は間違ってない。
事故死しか菜瑠美から聞かされてないし、可能性としてはなくはない。とはいえ、顔すら菜瑠美も知らないため真相は闇の中のままだな。
「菜瑠美……今日の君を見て思ったが、本当に強くなったな」
「お褒めいただきありがとうございます……私にはつかさや海の一族の関係者を始め、1年7組のクラスメイトと運河先生ら数多くの人達が支えてくれています。一応、私のファンクラブの人達も含みましょう」
少しも経たないうちに菜瑠美は能力者だけでなく、人間としても成長していったな。人の支えを大切にするとはね。
そういえば、菜瑠美は現時点200人以上のファンクラブが発足していたな。いくら菜瑠美が会員達に興味なくても、逆に会員達が菜瑠美に嫌がらせするアナーロを怒るだろうな。
「最後につかさ……宜しいですか?」
「恋人の言うことだから限りなく聞いてやるが、なんだ?」
菜瑠美はやや悲しげな顔をして俺を見つめている。もう何事にも屈しなくなったんだろ? すると、菜瑠美は右手を強く握りはじめた。
「私……あなたがいたから……こんなに強くなれました。だから……」
「っておいどうしたんだよ菜瑠美、落ち着けよ!」
菜瑠美は当然立ち上がり、涙を流そうとする。そして、顔を真っ赤にしながら俺の顔を向けてきた。
まさか、菜瑠美は校内でキスをするつもりなのか? こんなところでやられて誰かに見られたら、取り返しのつかない事態になるぞ。
段々、菜瑠美との距離が縮んでくる。もう俺は、学校なんかで恋人からキスされるのか……。
「君達、こんなとこで何してるんだ? おっと、令くんと菜瑠美ちゃんじゃないか」
「え? お、大和田先輩……」
菜瑠美が俺の唇を触れようとする途端、大和田さんが4組の教室を開けた。どうやら、生徒会は今校内の見回りをしていたようだな。
「ふぅ……すごいタイミングだ。でも、大和田さんでよかった」
「なんだ令くん、今焦ってたな?」
キスは免れたとはいえ、副会長の前でとんでもない所を見られてしまったぞ。菜瑠美はどう言い訳をするんだ?
「たしかに虹髑髏との騒動があったとはいえ、まだいたのか。もうすぐ閉校だというのに、こんなところで何してたんだ? しかも、2人共距離がものすごく近かったぞ」
「え? 私はただ……つかさと話しかっただけです」
「そ、そうですよ大和田さん。菜瑠美は今日色々災難だったから、俺に相談を持ちかけに来たんですよ」
いくら『わだつみ』のリーダー格である大和田さんでさえも、俺と菜瑠美が恋人同士であることはまだ内緒にしたいからな。
ここはその場しのぎするしかない。もし、柳先生まで来ていたらよりとんでもないことになってただろう。あの人三十路の独身だし、合コンに行ってくれて助かった。
「君達がいるというのはこの辺にしよう。ところで、俺達が学校を救った英雄という扱いになってるらしいな」
「英雄……ですか? 私にとっては、英雄というイメージが沸きません……」
「そりゃ菜瑠美ちゃんは女の子だしな」
今日の活躍を考えたら、菜瑠美こそが真の英雄だよな。たしかに、菜瑠美の言う通りあまり女性に英雄という言葉は馴染みがないな。女傑……これも菜瑠美とはマッチしない。
他になんだ菜瑠美に合いそうな通り名……ふと俺は1つ閃き、この通り名を提案する。
「今日の菜瑠美はアナーロに誘拐されかけたし、お姫様らしさもあった。だからこれならどうですか? 菜瑠美は闇の能力者なのだから、
「ほう、闇姫か」
「闇姫……いい通り名ですね、つかさ……気に入りました」
よかったぜ、菜瑠美が闇姫を気に入ってくれて。これでバッシングされてたら、俺のネーミングセンスがないと言われるところだったぜ。
とはいっても、菜瑠美のことを姫扱いするのは『わだつみ』だけに限ったことになるけどな。無論、俺は姫よりも恋人として見る方が優先だけどな。
「それより、君達も早く校内から出るぞ」
「そうですね。さてと、帰るか菜瑠美……いや闇姫様」
「あなたが言うとまるで勇者みたいですね……つかさ」
こうして、『わだつみ』と虹髑髏第4部隊との因縁も終わり、菜瑠美ももう悪夢を見ることはないだろう。
だが、菜瑠美ばかりが活躍してるわけにはいかない。次は勇者と言われた俺が虹髑髏のどこかの部隊を叩き潰す番だ──
第五章・覚醒する闇 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます