5-15話 プラント・ハント

 ──今は『わだつみ』としてではなく、菜瑠美本人の意思だけで立ち向かうべきだと俺は判断した。


 アナーロは菜瑠美のみならず、俺と柳先生までも自身の技であるヘビー・ローズで重量化する魂胆だった。しかし、菜瑠美の闇のダーク祈りローグに守られて俺達の重量化は回避され、アナーロのみが重量化された。

 自身の動きが封じられたに加え、菜瑠美の闇のダークストリングで縛られそうになったアナーロだったが、自身の持つ薔薇を使って全身をまるで植物になったかのような姿を披露した。最後の悪あがきにしては、えらいとっておきなものを残しやがった。

 植物化したことにより、両手には鞭で触手のようなものが数本確認されている。これでまた菜瑠美に嫌らしいことでもするつもりだな?


「これで私は完璧な強さを持ったわ、菜瑠美たんも惚れるはずよ」

「そんなこと……あるわけないでしょ。私にとってのあなたは……最低の人間……」


 あの変態、植物化していても気持ち悪いことに変わりはないな。菜瑠美もあんな変態に目をつけられたら、かなりの気の毒だよな。

 だがな、菜瑠美に対する卑劣な行為ができるのは、今日で終わりになると俺は思っている。


「さあ、私と本当の遊びをするけど菜瑠美たんは準備できたのかしら?」

「アナーロ……そういうあなたこそ、私にやられる覚悟はできていますか?」


 初めて稲毛で会った時、菜瑠美はアナーロに性的行為を何度もされた。その恐怖から、俺に対して抱きつきながら大粒の涙を流して己が弱いことを認めた。

 それが今では、恐れることなくアナーロに立ち向かおうとしている。ついでに、今までに見せなかった怒りも思う存分あらわにした

 随分と自分のことを誇れるようになったな菜瑠美、俺は菜瑠美とアナーロの最後の戦いを強く見届けてやる。


「私から攻めさせてもらいます」

「どうぞ、菜瑠美たん」


 どうしてもアナーロの顔を見たくないためか、期決戦に持ち込もうとしている。菜瑠美は闇のダーク球体スフィアを右手に抱えながら移動していく。

 一方アナーロは仁王立ちしながら、来いよと言わんばかりに菜瑠美の攻撃を待ち続けている。よっぽど自信があるんだな。


「私の怒りにとどまらず、つかさと柳先生の分も込めたこの球体をくらいなさい!」

「この技、使うと思ったわ。翠のグリーンストリング!」


 アナーロは菜瑠美の闇の糸に似たような技を繰り出し、菜瑠美の闇の球体を縛り付けようとしている。アナーロにもあんな技を持っていたとはね。


「これは? 私の闇の糸にそっくり……?」

「そうよ、やっぱり菜瑠美たんは私の嫁……なんてね」

「誰が……あなたの婿になるものですか」


 変態なんかが菜瑠美の婿になれるわけないだろ、少しでも菜瑠美のことから離れられないのか。ますます、菜瑠美のボルテージが上がってしまったな。


「私はこう見えても敵対する相手の分析をしているの。まあ、ここ1週間は上、菜瑠美たんの持つ技さえ真似することができた。この技を菜瑠美たんに披露するなんて、私はとても嬉しいわ」

「あなたなんかに私の技を真似される……私にとっては屈辱的です」


 菜瑠美の技を何度も見ながら独自で技を体得するとは、ただ菜瑠美のことが好きってわけじゃないんだな。これは研究熱心と呼べるかは疑問だけど。


「この球体、菜瑠美たんに返してあげる」

「えっ、きゃっ!」


 アナーロは翠の糸で縛った闇の球体を菜瑠美に向けて投げつける。自身の技を真似られた動揺があった菜瑠美は、避けることすらできずに闇の糸が命中してしまう。


「そんな……私の技がそのまま返ってくるなんて……悔しいです」

「どうよ、菜瑠美たんが持つ闇の球体の苦しみは?」


 なんとか菜瑠美は立った状態ではいるが、限界に等しい表情をしている。君はアナーロのことを許さないんじゃなかったのか?

 

「さーてと、そろそろ菜瑠美たんの体力も尽きそうな頃ね。これで終わらせるよ! プラント・ハント」


 アナーロも次の一撃で勝負を着ける気だ。自身の持つ触手全てが、電光石火の勢いで菜瑠美に襲いかかろうとする。


「私はここまでなの……きゃっ、ああっ!」

「はははー、これがただの触手だと思わないでね菜瑠美たん」


 満足に動けなかった菜瑠美は、別の意味とはいえ再びアナーロによって縛られてしまう。アナーロはさらにエスカレートしだし、触手は菜瑠美の胸を触りだした上にスカートまでめくろうとしていた。


「あっ、いやっ! やめなさい!」

「相変わらずその悲鳴は素晴らしいよ菜瑠美たん」


 これだと、稲毛で会った時の二の舞になってしまう。あの苦しみが再び甦った菜瑠美は、反攻できないまま全身紫色に染まった菜瑠美の覚醒が消えてしまった。


「どうかな菜瑠美たん、私の触手による苦しみは」

「うう……アナーロ……苦しい……」

「さすがに殺すにはもったいなかったわね、これで菜瑠美たんは私のものよ!」


 アナーロの触手によって縛られている菜瑠美は、しばらく動けないような顔をしながら意識を失いかけていた。くそっ、これまでなのか菜瑠美……。


「もう見てられない……私があのたんたんスケベ野郎を成敗しないと。影地くん、天須さんを助けるわよ」

「……」


 さすがの柳先生も、見ているのに限界があった。普通ならば、同じ『わだつみ』であるのだから、助太刀するのは当然のことだ。


「待ってください、柳先生!」

「え? どうして止めるの」


 菜瑠美自身がアナーロとの因縁に決着をつけると言った以上、そのような行動に出たくなかった。

 たしかに、柳先生も戦いたい気持ちはわかる。だが、まだ菜瑠美は終わったわけではない。これは菜瑠美とアナーロによる因縁の戦いだ、俺は意地でも割って入ろうとする柳先生を止めに入る。


「あなた正気なの? 天須さんはアナーロに殺されかけてるところなのよ。私とあなたがいれば、天須さんは助けられるでしょ!」

「たしかに、俺と柳先生が加勢すればアナーロを退治できるかもしれない。ですが、俺は……。だから、柳先生は戦いに加勢しないでもらいたいです」

「影地くん、あなたという人は天須さんのことを……仕方ない、天須さんを信じましょう」


 俺はとんだ恋人想いだな。菜瑠美がアナーロを倒すと言った以上、有言実行しなければいけないと感じた。もう菜瑠美は弱い能力者ではないはずだ。

 君はもう1度、是非やってくれ。そして、アナーロをギャフンと言わせちゃえ──



──────────



 次回で菜瑠美VSアナーロに勝負がつきます。

 最後は菜瑠美視点でやります。大ピンチである菜瑠美ですが、本当の闇の怒りをアナーロにぶつけます。

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