5-14話 変態植物
──俺の恋人を本気にさせたら、どういうことなのか教えてやるよ。
菜瑠美が屋上にいるとわかった俺は、早急で柳先生と共に屋上のドアを開けた。そこには、全身紫色に染まった、何かに覚醒したかのような菜瑠美の姿があった。
菜瑠美曰く、この変わり果てた姿を見せたくないと言っていた。菜瑠美の持つ『闇の力』に、まだまだ俺達の知らない未知なものがあるんだな。
「たしかに、すごい『力』ではあるが……なにか恐ろしいものを感じる」
ただ、覚醒した闇に目覚めた菜瑠美に1つ気になる点があった。初めて菜瑠美の家に連れていかれた時、雷太さんから菜瑠美の闇は禁断の闇であると言っていた。
それが事実なら、菜瑠美は更なるタブーに触れたというわけか。もしくは、アナーロが菜瑠美にまたセクハラして、菜瑠美を怒らせたからかだな。
「菜瑠美、俺もそっちに行く、ん? あいつら!」
「ぐぅ……」
「ううっ……くっ」
俺と柳先生の後ろに、誰かのうなされているような声が聞こえた。屋上にまだ先客がいたと思ったら、俺の中では意外な再会だった。
「こいつらはファルとデーバ? よりによって奴らまで来てたのかよ」
「影地くん、この2人も虹髑髏なの?」
「ああ、入学式の日の前に菜瑠美を襲っていた奴らで、組織でも下の分類だ」
まさか、うなされながら倒れていたのがファルとデーバだったとは。俺と柳先生が来る前に、菜瑠美の闇の餌食にされたようだな。哀れな奴らだ。
こいつらも菜瑠美のためなら手段を選ばない連中だし、アナーロと協力体制をとっても不思議ではない。よくアナーロがハイトに許可を得たものだな。
「うぅ……菜瑠美たんがここまでやるとは、この美しい顔を台無しにして許さない!」
「アナーロ、あなたと私とで能力者としての差がわかったはずです。それに、私はあなたに2度と関わりたくありません。今すぐここから出ていってください」
アナーロはかなりのダメージを受けているはずなのに、懲りずに菜瑠美の方へと向かっていく。こんな状況でも菜瑠美に不敵な笑いを取るなんて、とんだ変態だ。
それと、菜瑠美の方がアナーロより能力者として上と自信持って言ったな。もしかして、アナーロは七色の中でも1番実力は下なのでは?
「おまけに、私が倒れてる間に影地くんと教員の綺麗なおばさんまで来てるじゃない」
「アナーロ、お前相変わらず気持ち悪い奴だぜ、シャインだ!」
「むー、どいつもこいつも私のことおばさん言うな。このスケベ野郎」
アナーロは柳先生と初対面なのにおばさんと言いやがった、綺麗を付けたことはアナーロがナルシストである現れか。
いきなりおばさんと言われた柳先生も、怒りのスイッチが押されてしまったな。生徒である俺からしても、許されない行為だか。
「うるさい、影地くんと綺麗なおばさん! こうなったら、菜瑠美たん達の前で本気のアナーロ様を見せてやる!」
「本当、どうしようもない人……ですね」
さっき菜瑠美から実力差も指摘されてたし、なんか口だけっぽい気もしなくもないが。本気を出せば、七色らしい強さでもあるのか? それなら、俺も加勢しないとまずい状況だな。
「お願い天須さん、私にアナーロと戦わせて! おばさんと言われたからには許さないの!」
「菜瑠美! 君はかなり体力を消耗しているはずだし、1人で戦うのは危険だ! 俺と柳先生も一緒にアナーロと戦う」
こうなれば3対1でアナーロでやるしか考えがなかった。少々俺達が卑怯かもしれないが、アナーロは卑劣なことを数々行ってきた。そんなこと言ってる場合じゃない。
「いいえ……つかさ、柳先生……私1人でやらせてください……私に染まるこの闇が、アナーロを許さないと言っているの。私のことは大丈夫です、『わだつみ』は一心同体だと思ってください」
「菜瑠美……まじで無理すんなよ」
「天須さん……仕方ないわね、今はあなたに任せるしかないわ」
本当だったら、恋人でもある俺からすればもっと反対するべきな立場だ。ま、柳先生もいるからなかなかできない環境なんだよな。
こうなれば、菜瑠美に任せるしかないか。覚醒した菜瑠美の『闇の力』、お手並み拝見としようか。
「こんなこと本当はしたくはないけど、とても美しい菜瑠美たんを最悪の場合殺す可能性もあるわよ。保証はできないから覚悟しなさい」
「私を殺す……ですか? また馬鹿げた冗談を……」
アナーロがあんな人間だから、菜瑠美は呆れかけているな。だが、アナーロは本気で殺しに狙ってるから、油断は禁物だぞ。
「まずは、菜瑠美たんの動きを封じるわ、ヘビー・ローズを受けなさい」
アナーロの薔薇から、灰色の粉を吹き散らそうとしている。自慢そうに菜瑠美へと向けているが、菜瑠美は余裕な表情をしている。
「この技は対策済みですよ……その時の私がただ縛られてるだけだと思いましたか?」
「おっと、私の狙いは菜瑠美たんだけだと思った?」
「な?」
狙いは菜瑠美だけではない? アナーロの奴、ヘビー・ローズと呼ばれる粉を屋上全体に撒き散らそうとしている。
こういう時は、普通なら俺か柳先生がアナーロを止めるために攻撃を仕掛ける。でも、菜瑠美本人だけでアナーロと戦う意思を持ってるせいで、邪魔をしてはいけない。
「そうはさせません!」
菜瑠美は俺と柳先生の前に現れ、
あの祈りは先週の手合わせで、柳先生のブルーダスト・ハリケーンを一定は防げた優秀な守り技だ。今回も菜瑠美の祈りに助けられるのか。
「ほぉ菜瑠美たん、ただ祈っただけで意味があるのかしら?」
「言ったでしょアナーロ? この技は対策済みですよ……と。や!」
ひたすら祈り続ける菜瑠美は、またもや全身が紫色に染まり始めた。そして、アナーロが仕掛けたヘビー・ローズを返そうとしている。
菜瑠美は1度相手の技を見ただけですぐに処置できるなんて、どんな理論してるんだよ。俺じゃ到底無理だ。
「そ、そんな……私が+150kgの重さが増したじゃないの……くそっ」
「あなたはしばらく満足に動けないはず……アナーロ、今度は私の糸であなたが拘束される番です。今まで私に受けてきた行為、存分に味わってもらいます」
アナーロの行動が封じることができた菜瑠美は、覚醒してより強力になった
これで最後の攻撃にしたいのか、菜瑠美の気持ちがとんでもなく強い。アナーロとの因縁を終わらせたいのが俺には伝わった。
「引っ掛かったようね、菜瑠美たん! 私が動けないとでも思っら大間違いよ!」
「こんなときに何を……きゃああ!」
しかし、アナーロは菜瑠美に最後の抵抗を始めた。あの変態、意地でも菜瑠美のこと諦めきれないのかよ。
「はっはっは、菜瑠美たんにこの姿を披露するとは」
アナーロは薔薇を使って体全体を蕀で巻きついたその姿はまるで、アナーロが植物そのものになったような感じだ。お互いに、新たな姿での戦いへと変化していった。
「どうよ菜瑠美たん、本当の私を見て」
「気持ち悪い……あなたという人は本当に嫌い……」
一見すると、ただアナーロがムキになってあの姿になったかのように見える。冷静に戦っている菜瑠美は限界に近い状況だ、満足に戦えることができるのか──
「私がここまでイラついたのは初めてです! つかさ、柳先生……見ていてください……怪物になったアナーロは私が倒します」
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