5-8話 教員としての役目 ※たかこ視点
──ここの学校の教員が、1人の生徒を狙うためだけに来た侵入者を許せるとでも思ってるのかしら?
2019年5月9日15時30分
私は今、自ら受け持つクラスのホームルームを進めてる最中よ。今日は大きな出来事もなかったし、影地くんもまともにホームルームを受けているわ。
「今日はおしまい、帰りの挨拶をお願いね」
「起立! 礼! さようなら」
今日も私が1年4組の担任としての立場が終わったわ。生徒達はこの後、勉強か部活に専念すると思うけど、私はこの日の楽しみにしてることがあるのよね。影地くんや天須さんにはないある戦いを。
思えば、私が海の一族の本拠地で影地くんや天須さんと戦って1週間経つわね。私は『わだつみ』の一員であると同時に、生活指導員と体育教師も兼ねて生活してるけど、他に今やるべきことがあるのよね。
「予定の時間までまだあるわね、その間はあそこへ行きますか」
私はこれから校内のとある場所に移動中よ、何よりも校内では基本私しか入れない特別な場所なのだから。
チームの中で明らかな年長者でも、私だって腐っても『わだつみ』よ。いくらこの前の手合わせに勝ったからって、成長期の影地くんや天須さんに負けられないわけだし。
◇◆◇
「はぁぁ……私からすればこの部屋は落ち着くわ」
ここは体育館近くにある一軒家のようなプレハブ、私にとっては第2の家と呼んでいいような場所でもあるわ。
元々は体育教師達が併用して使っていたのだけど、教員の人事異動もあっていつの間にか私専用の部屋になっちゃったのよ。
この中には自前のトレーニング機種が揃ってるし、プレハブの中を自由に動けるような面積もある。さすがに、『海の力』を使った技はできないけどね、基礎練習くらいならここが最適だわ。
「さて、先に化粧でもしようかしら」
今日は私にとって重要な日でもあるんだし、事前にやるべきことをしてから自主練をしましょう。化粧をして自主練していても、別に顔が崩れるほど酷い顔にはならないと思うわ。
「化粧も済んだし、体を動かそうかし……」
「今日もここで隠れて特訓してるのですか、たかこおばさん」
「耕ちゃん!? 驚かすことはやめなさいよ!」
私が自主練を始める前に、耕ちゃんが突然入ってきたわ。耕ちゃん用の鍵はあるのだけど、中に入るのなら何かいいなさいよ。
「すまないなたかこおばさん。それより、自主練前にも関わらず綺麗に化粧なんてしちゃって、今日は合コンの日なんですかね?」
「う、うるさい! 私は今日に全てを賭けているのだから」
勘の良い耕ちゃんには見抜かれてしまったわ……少しパニックになってしまったけど、私は今婚カツ中よ。夜に船橋駅周辺の居酒屋で、三十路の私よりも若い大学生や社会人達と合コンなの。今回はエリートばかりだから、いつも以上に緊張してるの。
「それに耕ちゃん、あなたこそ来週から試験でしょ? あら、いつも成績優秀だからって今回も余裕だと思ってたら大間違いよ」
「そんなわけないって、俺も少しは特訓するためにここに来たんだ」
耕ちゃんったら相変わらず勉強は余裕な表情をしてるわね、昨日は影地くんや天須さんと共に勉強会した程だしね。
「仕方ないわね……ただし、私が今日合コンで婚カツ中であることを他の生徒達には内緒よ! もちろん、『わだつみ』でもある影地くんや天須さんにもね」
「誰がそんなこと言うんですか……大人の趣味なのだから」
耕ちゃんのジョークのせいで、私の自主練するモチベーションが少々下がってしまったわ……ここで追い出すわけにはいかないし、少しでもいいから耕ちゃんとこのプレハブで特訓することにした。
自主練を始めようとする中、プレハブの近くにある収納庫から大きな音が響きわたった。一体何があったのかしら?
「ん……収納庫がうるさいわね。何か気になるから、ちょっと見てくるわ」
「いや、俺も行く。もしかしたら、大事かもしれないしな」
あの収納庫の中には特別大切なものは保管されてないはず、私はあの中に誰かいるのではないのかと予想した。
音がするたびに、少しづつ大きくなっている。何かがおかしいわ……私は収納庫用を開け、誰かがここにいることを察知して声を上げた。
「そこに誰かいるわね? 出てきなさい!」
「んん! んんんんん!?」
こんなことがあるなんて、ここは校内なのだから信じられない。収納庫の中には体操服を着た女子生徒が縄で縛られ、口もガムテープを貼られたまま拘束されていた。
「あなたはたしか……7組の桜井さん? こんなところで何してるの?」
「おいおい……ここの生徒が収納庫に拘束されてたなんて」
拘束されていたのは1年7組の生徒である桜井ミナミさんだった。たしかに7組は、今日の5限目に私の担任で体育を受けていたけど、何故こんなことになってるの?
「7組はまだホームルームしてたでしょ? とにかく、今はガムテープを剥がすわ! 耕ちゃん手伝って、あなたは縄をほどいて!」
「了解、痛いかもしれないが少しは我慢してくれよ」
私はすぐにガムテープを取り、耕ちゃんは拘束されていた縄をほどき、桜井さんを自由にさせた。
「ぶはぁ……助かった! ありがとうございます、柳先生。あいつらめ、絶対に許さないぞ」
「桜井さん、どうしてあなたはこんなところで拘束されてたの? それに、あいつらって誰なの?」
何かが納得していないのか、桜井さんはとても不満げそうに両足を地団駄した。あいつらと言ったからには、桜井さんは何人かに襲われたのね。
「そ、それが大変なんだ。体育の授業が終わった時に、変な女がこの俺を襲ってきてしばらくここに閉じ込められたんだ」
「変な女?」
「それと、その女含めた変な3人組が1年7組を襲撃しようとしてるんだ。あと声だけの情報なんだけど、主犯の奴が天須のことを菜瑠美たんと呼んでた気持ち悪い男なんだ」
「なんですって? それは本当なの?」
1年7組は天須さんも在籍してるクラス。それに、菜瑠美たん呼びは手合わせの前日に天須さんが被害にあったというストーカーの言い方……間違いない、これは虹髑髏の仕業だわ。
「ーーブブッ、緊急事態です。ここ海神中央高校の1年7組に男女数名の侵入者が立てこもっている模様です。校内の皆さんは、注意してください。侵入者は教員が対処します」
私が桜井さんに事情を聞いてる間に、校内からの緊急アナウンスが入った。私もここの教員だし、向かう意外に選択肢はないわ。
影地くんもうちのクラスの生徒達と帰宅しているのを見たし、侵入者の狙いは間違いなく天須さんの誘拐のようね。
「侵入者ねぇー、ここの副会長である俺からしても許せないな。俺は今すぐいくが、先生はどうしますか?」
「行くに決まってるでしょ! 海神中央高校のピンチを放るわけにはいかないわ」
さすが『わだつみ』のリーダー格だわ、耕ちゃんも天須さんがチームメイトとしてよく思っているもの。
「待ってください先生、俺も行かせてください! 同じ1年7組の生徒として、俺を襲った奴が許せないんだ!」
「桜井さん……? 今は戦力は1人でも欲しいし、一緒に行きましょ。ただし、校内での暴力は禁止だからね」
「ありがとうございます。待っててくれ、7組のみんなは俺が助けに行く」
桜井さんもさっきまで拘束されたのだから、侵入者達を許さない気持ちはわかる。また危険な目にあうかもしれないが、7組のためにも同行させるしかなかった。
ただ、相手はあの愛宕の同僚。いくら私はそのアナーロと初対面になるとはいえ、影地くんや天須さんを狙う厄介者。同じ『わだつみ』の一員として助けないわけにはいかないわ。
私は侵入者を心から許せなかった。教員である私からすれば、侵入及び教室襲撃は絶対許さない行為だわ。
「校内を虹髑髏なんかに好き放題させないわ」
「おっと、気合い入ってますな」
気合いが入って当然のことよ。この高校の教員になって8年目になるけど、侵入者の教室襲撃なんて初めてだわ。
7年1ヶ月もいるだけあって、私は海神中央高校には思い入れが強い。そのため、今は合コンより生徒達を助けることだけに切り替えた。
「侵入者達を捕まえたら、私は気持ちを替えて合コンに行くんだからね!」
私の大好きな海神中央高校を救うのは私達『わだつみ』しかいない。そう信じてアナーロとかいう変態を捕まえるため、1年7組へと向かった──
──────────
たかこ視点もなかなか苦労しました、同じ女性でも菜瑠美と口調が違うので。
次回からまた令視点に戻ります。
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