5-9話 1年7組の戦い Part1

 ──俺は1人で助けに行ってるわけじゃない、仲間がいるんだ。


 俺達が毎日のように通学している海神中央高校は、アナーロ率いる虹髑髏第4部隊によって占拠中だ。避難者も出ている校内は今、重々しい雰囲気と騒ぎが漂いはじめている。

 しかも、奴らの狙いは菜瑠美が所属している1年7組の襲撃と菜瑠美の誘拐だ。勝手に菜瑠美のことを好んでるからって、7組全体まで巻き添えする必要はないだろ。


「菜瑠美……本当に無事なのだろうか」


 俺は菜瑠美のことを心配でしかならなかった。アナーロは学校という公共の場でも、菜瑠美に卑劣な行為をするとしか思えないからだ。

 ったく、忘れ物をしたわけでもないのに、また校舎に戻るとはね。でも、悪党に占拠されてるこの高校を守るのは俺しかいないんだ。


「あら、影地くんじゃないの!」

「柳先生に大和田さん?」


 上履きに再び履き替えた途端、柳先生と遭遇した。当然、大和田さんも同行中だ。柳先生や大和田さんも『わだつみ』なのだから、今回の騒動に駆けつけるのは当然か。


「影地くん、今の俺達のやることはわかるな?」

「ああ、7組を助けることだ!」

「そうよ影地くん! 校内の侵入なんて、教員として許さないわ」


 そうだな、1。『わだつみ』の一員として、利害の一致する仲間と同じチームメイトを救わないとな。俺からすれば恋人でもあるけどな。


「影地令、こうやってあんたと話すのは初めてだね」

「おや、君はたまに塚田と話してる人だよね」


 柳先生と大和田さんの他に、体操服を着た女子生徒も付いてきているな。彼女は廊下で何度か塚田とじゃれあってたのを見たことあるが、俺と話すのは初めてだな。

 でも、彼女は7組の生徒だったよな……何故ホームルームに出席せず、柳先生や大和田さんと一緒にいるんだろうか?


「そうさ、俺は1年7組の桜井ミナミだ。あんたは塚田から聞いた話だけど、うちのクラスの天須を狙ってるらしいな」


 改めて桜井さんと初めて話したが、一人称俺な女子なんてかなり珍しいな。サバサバした性格そうだし、自分が女であることを嫌ってそうだな。

 あと、塚田のバカは余計なこといいやがって……今の俺は菜瑠美の彼氏なんだから、助けに行くのは当然のことなんだよ。


「それは置いといて聞いてくれよ影地。俺は5限目の体育の授業が終わった時、変な女に襲われて収納庫に閉じ込められてたんだ」

「それって監禁か?」

「ま、そんなとこだね。俺は運良く柳先生と大和田副会長に救助されてたんだけど、クラスの仲間達を助けたいのと襲った女への仕返しがしたいんだ。そこで、2人に交渉して一緒に行動中なんだよ」

 

 桜井さんはクラス思いなんだな。でも、桜井さんは能力者ではないはずだし、俺からすればあまり巻き込みたくはないとは思っていた。

 ここで立ち向かえるのは4人と少ないかもしれないが、首を洗って待ってろよ第4部隊。お前達の好き放題はさせてたまるか。



◇◆◇



 俺達4人は、1年7組の教室前に到着した。現場には教員達が数名いるが、なかなか近づけずに怯えてる状態だった。


「ぐはぁっ」

「なっ、7組に何があったんだ」


 7組の教室に入ろうとした途端、1人の生徒がドアごと吹っ飛ばされていた。これで少しでもタイミングが悪ければ、俺も巻き添えになってたな。

 奴らめ、校内の器物破損までしやがって。俺は先に、その生徒の方へと向かった。

 

「おい、大丈夫か……塚田じゃないか? しっかりしろよ」


 ドアと共に倒れていたのは塚田だった。塚田もまた、菜瑠美を助けるために7組の中に入ったのか? ただ、塚田の膝の部分から血が流れていた、これはかなりのダメージをくらっているな。


「影地か……あの姉妹には気を付けろ、技の息が噛み合ってる……ぐっ」

「塚田! お前無理してんじゃねーよ」

「へっ、桜井……お前もここにいたとはな。シャーク塚田様のカッコ悪いところ見せてしまったな」


 桜井が塚田に一喝を入れながら、塚田はこの場から離れようとする。

 塚田の今の状況も心配ではあるが、今は7組の状況が先だ。果たして、菜瑠美やクラスの人達は無事でいるのだろうか。


「みんな、大丈夫なの?」

「うう……たかこ先生に影地くんか、私達を助けに来たのか」


 教室の奥には、運河先生や7組の生徒達が奥に隠れこんでいた。しかし、教室を見渡したら菜瑠美の姿がない……一体何処にいるんだ?


「あらー、そこにいるのはつかさくんじゃないのー」

「未衣! 麻衣! お前らか、7組を恐怖に陥れやがって! シャインだ死ねよ!」


 7組の教室に踏み出したら、未衣と麻衣の姉妹が隠れて待ち構えていた。くっ、塚田をあんな目を遇わせたのはこいつら姉妹だったか。


「菜瑠美はどこへやった?」

「残念だけど、。あはははは!」



 嘘だろ、菜瑠美はアナーロによって何処かに連れ去られたのか? 今頃下手したらアナーロの餌食に……いち早く姉妹を倒して、菜瑠美の居場所を吐かすしかない。


「おやー? じゃないのー。良かったじゃない、そこの2人に助けられたみたいで」

「お前達、よくもこの俺を収納庫に閉じ込めやがったな、許さないぞ! それと、塚田の仇討ちもしてやる」


 おっと、桜井さんの今の怒りは尋常じゃないぞ。麻衣が変装して生徒達をだました上に、第4部隊に監禁されるという地獄な目を逢わされたもんな。


「許さなくてどうぞこ勝手に、あんたは所詮、麻衣が変装した我々の計画による1つの駒にしかすぎなかったの」

「計画? ふざんけんじゃないよ! この俺に変装しやがって! 人間様をなめてんじゃねーよ」

「おっと、威勢だけは一人前かな? あんたの真似するのに苦労したのよ俺俺ちゃーん。せっかくだ未衣、こいつもさっきのバカと同じ目に合わせようよ」

「逃げろ桜井さん!」


 姉妹は変装して7組に潜り込んでたわけか、随分と小作な技を使いやがって。この学校は虹髑髏に知りつくされてるもんな。

 一方の桜井さんは、我を張って姉妹に対抗しようとしている。俺はここからの撤退を指示するが、桜井さんはそれを応じようとしない。


「悪いね影地、なんか俺は気がすまないんだ」

「へへっ、あんたは傷をつけられるのではなく

「お望み通り叶えさせてあげるわ、ほらっ」

「ウソっ、そんなこと誰も言ってねーぞ」


 姉妹が共に隠し持っていたナイフを両手で投げつけ、桜井さんに向けてくる。このままでは、大勢の生徒の前で桜井さんの殺人現場を見るようになってしまう。


「そうはさせるかよ凶悪姉妹共、雷光ライトニング回転スピン!」


 教室みたいな平和な場所で他人の血なんて見たくもない。殺されかける桜井さんを見て我慢のできなかった俺は、投げ出したナイフを雷光回転で蹴飛ばそうと考える。

 本当は別のクラスの教室で戦いたくはなかった、こんな状況で見放すわけにはいかないんだ! 菜瑠美のためにも──

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