5-6話 第4部隊、7組襲来 ※菜瑠美視点
──絶対に会いたくない敵との再会場所が学校になるなんて……。
2019年5月9日13時10分
校内は今昼休み中です。私は少ない時間でもいいので中間試験の対策をするべく、1人でこっそり勉強しています。
「まだ……このクラスの生徒に馴染めない……」
7組の生徒は騒がしい人達の揃いで、接することすら失せるほどです。静かにしろとまでは言わないですが、うるさい声が苦手な人がいることを少しわきまえてもらいたいです。
「つかさは今何してるのかしら……」
本当なら校内にいる時でもつかさと一緒にいたい……クラスも違うし今は恋人関係であることを生徒には内緒の状態です。
今日も私は何十人の生徒から告白されましたが、全て振っています。もし私が今つかさと付き合ってると知ったら、間違いなくパニックになるでしょう。
◇◆◇
6限目が終わり、今日の授業は全て終わりました。この後はこれといって校内でやることがなくつかさと会う予定もありません。すぐに帰宅して全教科で満点出すために勉強をしたいからです。
「おい、馬込!」
「なんだよ?」
ホームルームが始まる前に、7組の生徒同士の揉め事が発生しました。本来なら学校ではあってはならないことですが……。
1人は今朝、校舎でつかさにいちゃもんをつけていた馬込さんです。馬込さんは普段から全く興味が沸いてこない私にナンパをしてくるので、正直に言えば塚田さんと並んで校内の嫌いな生徒です。
「さっきお前、俺に対して喧嘩売った態度取っただろ!」
「は? そんなん知らねぇよ!
もう1人は桜井ミナミさん、橙色のショートヘアーをして制服の身なりも悪い不良のような生徒です。
女子生徒ながら一人称が『俺』である男勝りな性格で、校内の男子にたまに衝突することが多い問題のある生徒でもあります。
今まで私と絡んだことは皆無に等しいですが、見た限りでは攻撃的な性格なため好みなタイプではありません。
「君達何してるんだ? 席に着け」
「あっ、運河先生ー。こいつが俺に喧嘩売ってきたんですよー」
「だから知らねぇって言ってるだろ!」
「んむ……桜井、まずは君も席に着きなさい」
運河先生が教室に着き、今回の騒動でクラス全員が席に戻りました。未だ喧嘩を売られたと思い込む桜井さんだけは、馬込さんの席から離れませんでした。
「桜井、馬込、喧嘩は校内でやってはいけないことはわかってるな。君らが何か言うまでは他の生徒全員帰れないんだぞ」
「でもよ、馬込が俺のことを」
「まずは桜井、君は女子なのだから私がいる前で俺と言うのはやめたらどうだ」
「あのさー、先生まで俺を女扱いしてくれるのやめてもらえるー? 俺は絶対こいつに謝りたくない」
私はすぐにでも勉強時間が欲しいと言うのに、桜井さんは我が強くて馬込さんに謝ろうとしません。ただ時間だけ過ぎていってく中、桜井さんは生徒全員迷惑をかけていることを知らなさそうです。
桜井さんが意地でも謝らず、ホームルームが長引く最中に7組の教室にノック音が響き渡りました。
「すいません、運河先生」
「おう、君か」
7組のドアのそばには、剣道部員の女子生徒がやってきました。
運河先生は海神中央高校の剣道部員の顧問であり、毎年のように生徒を県大会出場に導いている名将でもあります。
「先生が来ないから部活が始まりません」
「すまない。今はクラスの問題を抱えてるから、先に練習を始めてくれ」
この時に私は何か違和感を察しました……今までにクラスのホームルームが長引いた時に剣道部員が来ることはなかったですし、どうしてこの悪い雰囲気の中で来たのは何か不自然です。
それに、剣道部員はやけに桜井さんと私の方を見つめてくる……特に私に対してはとても挑戦的な目付きをしています。
「申し訳ありませんが、先生達のお話中に失礼します」
私は椅子から立ち上がり、運河先生と剣道部員の話に割って入りました。もし違っていたら生徒から笑われ者になりますが、この剣道部員何かおかしいです。
「いきなりなんだね天須さん?」
「あなた、ここの学校の剣道部員……ではありませんよね」
「な? 私はここの2年生の副主将よ!」
当の本人は否定するもの、私にはわかりました。この剣道部員は行動だけでなく、私の知る何かを隠し持っていることを。
「あなたはずっと教室を何度も見渡して何かを確認しており、初対面である私をチラチラと見ています」
「だって君は校内で……ちっ、私は校外の人間よ」
剣道部員は小さく愚痴をこぼしながら、自らが剣道部員に扮して校内に入ってきたことを認めました。
「あと桜井さん……あなたもです」
「どういうことだ、俺は桜井ミナミ以外の何者でもない」
「ではあなたのポケットに隠れてあるナイフは何ですか?」
「なんだと?」
私は剣道部員だけでなく、桜井さんも何者かの変装であることを察しました。いくら桜井さんが喧嘩っ早い生徒でも、接点の少ない馬込さんに喧嘩売るなんて考えにくかったからです。
他にも、桜井さんのポケットには僅かながらナイフらしきものが見えました。凶器を隠し持っている……この2人は間違いありません。
「あなた達の正体……アナーロの部下、未衣と麻衣ですね?」
「え……何言ってるんだ天須? そこにいるのは桜井じゃないのか?」
私の予想していた通りに未衣が剣道部員に、麻衣が桜井さんに扮して7組に忍びこもうとしていました。こんなところでアナーロの配下と出くわすなんて……。
今回被害者の立場にあたる馬込さんが、桜井さんでないことに驚きました。不利な状況になったのに関わらず、変装していた未衣と麻衣が不適な微笑みをとりました。
「ふっふっふ。私達の変装が天須菜瑠美本人に見破られるとは」
「本来の計画とは違うがこれでもくらいな!」
未衣が隠し持っていたカプセルを投げつけ、煙幕を7組の教室に吹き散らしました。教室内にこんな煙を出してしまったら……。
「もうじきアナーロさまもこちらに来る」
「アナーロ!? あの最低男が……」
麻衣からアナーロの名前を口に出され、私は左胸を抱き何かの危機感を覚えました。アナーロと再会……? もう2度とあんな変態と顔すら見たくない。
「はっはっは、捕まった豊四季の奴がこの教室に仕掛けたカメラがこんな時に活躍するなんてな」
これは豊四季さんが在学中に残したとんでもない置き土産ですね……7組にこっそり隠し混んだ極小カメラで私や7組の人達の行動が虹髑髏に知られることになるなんて……。だから、麻衣は完璧に桜井さんを演じきったわけですね。
「おい、窓を開けたぞ!」
「これで煙が飛んでいきますね」
生徒の懸命により、未衣が撒いた煙幕は窓に流されました。視界が見えるようになった瞬間、誰かが教室の中に入ってきましたが、私にとっては悪夢再びの訪れでした。
「久しぶりねー、我が愛しい菜瑠美たんよ」
「嘘……アナーロ!? きゃっ」
そんな……アナーロがこんなところまで。すると、アナーロが入ってきた途端にいきなり私の胸を触り出しました、相変わらず私に無礼なことをする変態ですね。
お願いつかさ……私達1年7組を助けに来て──
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初の菜瑠美視点なので、地の文も菜瑠美の言い方となったので苦労しました。
次回も菜瑠美視点です。
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