5-3話 両親の存在

 ──親父がいるというだけで、俺は幸せものなのか?


 2019年5月3日0時30分

 俺は今、自分の部屋で菜瑠美と2人きりだ。菜瑠美は親父のいびきを避難して部屋に来たのだから、親父がうっかり起きてここに来たら俺は何も言い訳はできない。

 菜瑠美本人もベッドにいるより、俺といた方が落ち着くと言っていた。これはやはり、俺のことを恋人だと思ってる証左だな。

 

「ここは普通だったら寝るような場所じゃない、2人で寝転ぶにはかなり狭いかもしれないがいいか?」

「はい……私は今あなたといることだけで嬉しい……静かにしますので」


 帰ってすぐに部屋の片付けをしておいて正解だったな。もしも散らかした状態で菜瑠美がこの部屋に入ったら、汚いという理由でまた寝室に戻って親父のいびきを耐え続けてたはずだ。


「今は菜瑠美と一緒だし、これでも付けとくか」


 寝る前ではあるが、俺は菜瑠美の前でペンダントを装着した。いくら菜瑠美の形見を託されたといえ、瞳の色が変わっただけでなくこんな豪華なペンダントもしていたら、親父から不良になったと言われそうだからな。親父が家に入る前にあえて外していた。


「つかさのお父様……すごく面白く豪快な方ですね」

「そうか? 下手したらただのダメ親父になる時もあるぞ」


 菜瑠美は親父を称賛した。俺からしたら、昨日みたいに連絡もなしに勝手に帰るなど勝手な行動が多い、親父は実際には俺の唯一の肉親だ。


「つかさには片親がいるだけで私には羨ましいです……」


 菜瑠美はペンダントを見つめた。菜瑠美は小さい時に事故で父を、病気で母を失ってるんだよな。

 その後は雷太さんと奥さんに育てられて現在に至っているが、両親がいない菜瑠美にとって片親だけがいる俺でも羨ましいと思うよな。


「つかさ……学校のお友達だけでなく、お父様にも私達が能力者であることは知られないようにしないとね」

「そうだよな……この『力』は強大なものだしな」


 まだ親父には、俺と菜瑠美が犯罪組織に狙われていることと能力者であることは知らない。親父だけは、能力者の戦いに巻き込みたくないと思ってるしな。

 ひょっとしたら、親父が実は能力者だったことを考えると……ちょっと深読みしすぎたか。


「どうやら親父のいびきがおさまったようだな」

「そうですね……まだ怖いですが、私は寝室に戻ります」


 菜瑠美と話しているうちに、親父のうるさいいびきが聞こえなくなった。どうやら親父は、ようやく深い眠りについたみたいだ。


「まだ親父が要注意人物と言うことを忘れるなよ」

「承知しています……あなたこそ狭い部屋で寝転んでいるのですから、ボケないようにしないでくださいね」


 菜瑠美が珍しく何もしないまま、部屋に戻っていったな。この家は今2人きりじゃないし、ここで菜瑠美が俺にキスをしてきて親父が都合よく見てたら……これ以上考えるのはやめとこう。


「俺の母って本当はどんな人なのだろう?」


 俺は天井を眺め、謎に包まれた母について考えていた。名前が影地かげちむつみ、離婚理由が不倫、そして俺の名付け親の3つしか知らない。

 親父からも深く母について語ってもくれないし、親父は相当な嫌いなはずなんだよな。

 ありえないことかもしれないが、いずれは俺と菜瑠美、親父と母の4人が揃って何処かで会える機会があればいいなと俺は思ってる。果たして母は何をしているのか、



◆◇



 2019年5月3日9時5分


「うぉおおお! なんてむちむちした服を着てるんだ菜瑠美ちゃんは!」


 なんだなんだ、親父が大きな声を出してきたせいで、俺は起きてしまったじゃないか。これでも、ぐっすり寝てたつもりなのだが。

 親父が騒いだってことは、菜瑠美に何かやらかしたのか? まだ寝起きではあるけど、何らかの不安を抱きながら俺はすぐにリビングへと向かった。


「げっ? 何してるんだ、このスケベ親父?」

「おお令、起きたか。菜瑠美ちゃんがこんな服に興味あったなんて驚きだ」


 リビングに着いたら、戦闘服へと着替えていた菜瑠美を見て興奮中の親父がいた。俺が寝てる間に、好き放題しやがって。

 戦闘服に着替えたってことは、洗濯はもう終わっていたのか。勝手に服を取るのはいかにも菜瑠美らしいが、この場面はちょっとな……。


「な、菜瑠美はこういうコスプレとか大好きなんだよ。外へ出たとき多少の汚れがでたから洗濯してたんだ」

「申し訳ありませんが……あまりお尻と胸の方をじろじろ見ないでくれますか? 例えつかさのお父様でも……結構恥ずかしいです」

「素晴らしい、実に素晴らしいぞ菜瑠美ちゃん! 大きな胸のみならず、こんな趣味を持っていたなんてけしからん!」

「はぁ……」


 今は菜瑠美の趣味がコスプレであることとして親父をごまかすか、本当は戦うために自ら用意したド派手衣装なんだがな。

 肝心の菜瑠美までも、ため息をついちゃってるな。こんな親父で申し訳ない。


「そうだ、記念に俺と菜瑠美ちゃんでツーショット写真を撮ろう。こんなこと一生に1度しかないかもしれないし」

「は? 何バカなこと言ってるんだ親父」

「悪いですが……遠慮します……」


 親父ったら、本当に菜瑠美のことが気に入ったみたいだな。写真撮影はさすがに俺と菜瑠美の意向で、お預けとなったが。

 思えば、俺も親父も15年の間は家族関係では男だけの環境で生きてきたんだ。親父からしたら、菜瑠美を娘にしたいという気持ちもわからなくはないな。



◇◆



「令、次ここに戻ってくるかわからないが、お前とはまた顔を見れなくなるな」

「今度はしっかり俺に連絡してから帰ってくれよな親父」

「お父様、色々ありがとうございました……これからも宜しくお願いします」

「こちらこそ、菜瑠美ちゃん。君のような美少女と会えるなんて、最高の瞬間だったよ」


 親父が再び出張続きの生活に戻るな、一時はどうなると思ったぜ。なんだかんだいって、菜瑠美と仲良くなれただけでいいか。

 変な所はあるけど、憧れの親父であることは事実だ。また親父や菜瑠美と一緒に寿司を食べたいな。ただし、わさび入りは勘弁だがな。


「では……私もそろそろ帰ります」

「ああ、外にはアナーロみたいな変質者がうろついてるから、早く家に戻れよ」

「大丈夫です。つかさのお父様の影響で、少しは対策か練れました」


 菜瑠美もまた、家のある海浜幕張へと帰っていった。マスクの着用やロングコートもはおってるし、痴漢される心配は少なさそうだ。

 昨晩も2人きりでまたイチャイチャしてると思ったら、親父の帰宅でお預けとなったがそんな日もあるさ──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る