4-4話 翠のアナーロ

 ──とんでもない虹髑髏の変態と遭遇してしまった。


 令和の初日は、恋人となった菜瑠美とデートを楽しむはずだった。

 だが、連続少女襲撃事件の噂とタクシー乗車中に目撃した稲毛付近での車両の事故現場。

 そして、交差点で宿敵・レイラの車とのすれ違い。この場に現れたということは、レイラが事故を起こした犯人なのだろうか?

 この2つの事件に関連があるのかわからないが、虹髑髏が関わってるとなれば俺は放ってはおけない。


「菜瑠美、ここで降りよう。今日こそレイラにケリをつけたい」

「つかさが言うなら……一緒に降ります」


 お互いの答えが出た。楽しんでいたデートを一時中断し、レイラを探すことにした。

 むしろ、レイラを見たのは俺にとっては好都合だ。この前の怒りが、まだ俺の中には残ってるからな。



◆◇


 

 タクシーから降りたのはいいが、レイラをどうやって探すんだ? 奴はパトカーに追われていたから、既にこの付近から出ている可能性もある。

 とりあえずここまで降りたんだ。またタクシーで千葉に行ってもいいから、もうしばらくは稲毛にいるか。もしかすると、レイラとすれ違うかもしれない。


「すまないな菜瑠美、せっかくのデートがこんなことになってしまって」

「別に構いません……私も、今日までずっとレイラを憎んでました」


 菜瑠美もこの前、レイラにひどい目にあったもんな。レイラが近くにいることを知って、デートしてる立場ではないと思ったんだな。


「つかさ……これは私とあなただけの問題ではありません……柳先生や大和田先輩にも……」

「たしかに2人は、俺達にとっては重要な仲間だ……だけど」


 レイラを目撃したから、ここはチームメンバーである柳先生や大和田さんに連絡を入れて、稲毛まで来させるようにしたい。しかし、2人共ここまで来るのに距離があるし、道路もまだ混んでいるはずだ。

 そして、まだ俺と菜瑠美が恋人同士であることと、さっきまでデートしていたことを知られたくない。せっかくチームを結成したのに、今日に限っては都合が悪いな。



◇◆



 レイラに関する有力な情報を得るため、俺と菜瑠美は事故現場に足を運んだ。まだ警察官が数名現場にいるが、破損車の運転手が見当たらない。


「どうやら、破損車の運転手のおっさんは薬物の運び屋らしいな」

「でもよくオープンカーの女は、平気な顔して車をぶつけてここから立ち去ったよな」


 目撃者の話を聞くと、運転手の男は裏社会で名の知られた人物らしい。被害者ながらも、薬物所持の容疑でその場で現行犯逮捕されたようだ。

 車をぶつけたということは、その男とレイラは裏の日本の間で何か関係があるのか?


「あと気になったのが、オープンカーの助手席に乗っていた奇抜な男が、破損車に対して奇妙なポーズをしてたな」


 レイラの隣にいた奇抜な男……まさかハイトか?

 俺が知っている七色は、まだレイラとハイトしか知らない。ハイトは七色ではあるが、虹髑髏のやり方に反して正々堂々戦う奴だ。

 正直、ハイトがやったとは考えにくい。まだ見ぬ七色の誰かなのかも知れない。


「これ以上盗み聞きするのもあれだから他を当たろう、菜瑠美」

「はい」


 多少の収穫はあったし、事故現場から立ち去るか。令和の初日に有名な運び屋が捕まるのって、偉いことになったな。


「つかさ……いいかしら? この事件……何か引っ掛かります。レイラは運び屋の車を衝突しましたが、殺しませんでした。その後、レイラは何事もなく逃走しました」


 レイラは相手が運び屋だと知って衝突したんだよな。おそらく、自分らの素性を隠して運び屋だけ逮捕されるのが目的だったと俺は推測した。


「たしかにな……それと、俺が交差点で見た時はレイラ1人だけだった。事故の目撃者が言ってたもう1人の存在も気になる」


 俺が気になるのはもう1人の男だ。レイラと共に捕まりたくないため、すぐさまレイラのオープンカーから降りて別行動を取って行方を眩ましたのか。


「謎が多いですね……この事件……きゃっ!」

「大丈夫か菜瑠美?」

「私は無事です……これは、薔薇?」


 歩いてる最中に、大きな薔薇が菜瑠美に向けて投げられた。まさか、俺と菜瑠美がここにいることをレイラかもう1人の男に気づかれたか?


「君達はレイラを探してるようだけど、今はこの私と戦ってもらうよ」

「!?」


 レイラの存在を知っている……事故前にレイラと共にオープンカーに乗った男か? 俺と菜瑠美は、すぐさまその男に目を向けた。

 目撃者通り緑色が中心となる奇抜な格好をしており、黒色の眼鏡と緑色のニット帽も付けていた。いかにも怪しげな男だ。


「私に薔薇を差し出すなんて……あなたは一体何ですか?」

「お前も虹髑髏か?」

「ふっふっふ、その通り。私は虹髑髏の第4部隊長にして、七色の一角・みどりのアナーロよ。よーく覚えておきなさい」


 ここで3人目の七色のお出ましか。しかも、オカマ口調で薔薇まで持ち歩くなんて、とんだ気持ち悪い奴だな。

 少し変な名前だし、怪しすぎる格好してたらお前のこと一生忘れるかよ。


「先に言っておくけど影地令くん。調子こいてる噂はレイラから聞いてるんだけど、、私」

「なにっ?」


 俺に興味がないだと? 虹髑髏は俺の『光の力』を奪うのが目的だろ?


「君だよ、噂通り君は美しくて素晴らしい胸だ……この運命に乾杯したいねぇー」

「な…………なんなのですかこの人!?」


 アナーロの狙いは俺ではなく菜瑠美かよ。こいつ、菜瑠美たんと呼んでるし、とんでもなく気持ち悪いナルシストだな。

 菜瑠美たんと呼ばれて、当の本人もアナーロのことを引いているな。いかにも、菜瑠美の嫌いなタイプの性格だ。

 それに何が運命に乾杯だ? 悪いが、菜瑠美はそんなこと全然思ってないはずだ。俺という恋人の存在がいるからな。


「アナーロ! お前すごく気持ち悪いぞ! シャインだ死ねよ!」


 今の菜瑠美のゴスロリ姿だ、満足に戦える格好ではない。ここは俺の『光の力』でアナーロを制裁したい。

 俺もこんなナルシストとは2度と関わりたくない。俺はアナーロに向かって、雷光十字を仕掛けるため走り出した。


「影地令くん、君はバカなの? 私はあんたに全く興味がないと」

「俺はド変態なお前が許せないんだ……な?」

「つかさ!」


 俺の背後から、マスクを被った菜瑠美の戦闘服と同等な露出度のレオタードを着た2人組の女が突然現れ、俺の両手を掴んだ。


「なんだお前らは?」

「ふふっ影地令、君も強くて格好いい男かも知れないがアナーロさまには及ばないわ」

「私達姉妹に苦戦したら、あの子は守れないよ」

「いい働きよ、未衣みい麻衣まい。君達は虹髑髏の工作員の中でも優秀な方だからねー」


 アナーロの部下である姉妹コンビ、未衣と麻衣によって俺は動きを止められてしまう。


「麻衣、いつもの奴をこいつに刺しちゃいな」

「言われなくてもわかってるよ、未衣」


 揃って同じ髪型と服装をしているから判別しづらい。姉妹におけるやり取りからすれば、服装が緑色なのが未衣で赤色が麻衣か。

 麻衣の右手から、俺の首にナイフを向けようとしている。なんとしても俺は麻衣を倒したいのに、未衣によって両手を掴まれてる。


「言っておくけど、菜瑠美たんがここで影地令くんを助けに行った時点で、麻衣が彼を八つ裂きにしちゃうからね」

「うっ……そんな」

「さてと、レイラが戻るまでは私は菜瑠美たんと遊ぶことにしよう」


 救いの手までも封じられた……ここは、菜瑠美1人だけでアナーロと戦うことになるのかよ、意地でもこいつらを刑務所に送らせたい。

 俺は元々、菜瑠美とデートの予定だったんだ。あんなが菜瑠美なんかと一緒に遊んでたまるか。


「菜瑠美たんは今まで私が襲った女の子の中で、桁違いに美しい。どうだ菜瑠美たん? 私と一緒に来ないか」


 こいつ、七色の一員であると同時に、タクシーの運転手が言っていた連続美少女襲撃事件の犯人なのか? 奴の菜瑠美に対する態度を見たら犯人なのは間違いなさそうだ。

 今まで虹髑髏所属の変態はデーバや豊四季がいたが、アナーロは今までの2人より遥かに上回る変態だ。


「誰があなたみたいな人に……私は……

「大嫌い? 私は菜瑠美たんのような美しい子、大・好・き」


 普段無垢な菜瑠美だが、この怒りはまず出ないだろう。いや、アナーロがヤバすぎるだけなのか。


 翠のアナーロ、俺も奴の態度と行動に怒りしか感じられない。しかし、今の俺は部下の姉妹によって身動きがとれない。

 ここは、菜瑠美がアナーロを退治してくれ。こんな奴、菜瑠美の闇の餌食になってしまえ──

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