4-3話 波乱のデート

 ──人生初デートなのに、何が起こるかわからないものなんだな。


 菜瑠美が部屋から出ている間、俺は寝ているフリをしていた。菜瑠美に揺らされて、目を開けたらゴスロリ姿の菜瑠美が俺の前に立っていた。

 まるで、人形のようなその美しい姿は圧巻そのものであり、思わず興奮してしまった。

 そんな菜瑠美から、デートしようと誘われた。菜瑠美との関係も恋人に変わったし、突然の発言だったとはいえど断る理由もない。


「何よりも菜瑠美の願いだ、こういう日もあっていいか」


 ゴールデンウィークの10連休中は当初、中間試験に向けての勉強とを虹髑髏を潰すための特訓だけで埋まっていた。

 昨日だって本来は勉強と特訓をするつもりが、俺の家にカズキと川間さんが来てくれたし、菜瑠美が家に来てほしいと通知が来たから今に至ってるしな。

 菜瑠美と付き合うことになったのも正直予想外だったし、昨日に続いて良い息抜きになりそうだ。


「この前と目的が違うのも、頭に入れないとな」


 先月、松戸市で菜瑠美と一緒に行った時は特訓が目的だったし、関係も同級生といった感じだった。

 今回は正式にデートと菜瑠美の口から言ってるし、昨日からとはいえどれっきとした恋人関係だ。


「ちなみに、何処まで行くんだ?」


 そういえばまだ、何処に行くか聞いてなかったな。場所選びも重要なんだよな。さすがに船橋駅周辺だと、学校の人達と会う可能性が高い。

 何よりも、菜瑠美はゴスロリ姿だ。あんな姿を密告されたら、余計注目される上に俺と付き合ってる所がばれてしまう。


「千葉駅周辺です。私がまだ訪れてない場所を……つかさと一緒に行きたい」


 千葉駅の方か、俺もまだその辺は行ったことないし、何があるかもわからないな。これは、着いてからのお楽しみになりそうだ。

 とりあえず、デートの目的は楽しむことと菜瑠美を援護することだな。デート自体が初めてだから、知らないことばかりにはなるとは思うけど。



◆◇◇



「では行きましょう……つかさ」

「ああ、今日も宜しくな」


 ついに始まった菜瑠美との人生初デート。俺は菜瑠美の家に出る前から、緊張と不安に集中していた。

 プライベート姿を意識した菜瑠美のゴスロリ姿に対し、俺は予備の服で構成されたとんでもなく地味な格好だ。周囲の目から、だと見られそうだな。


「きゃっ」


 玄関の段差を降りようとした瞬間、菜瑠美は足を滑らせて転倒してしまう。

 せっかく俺だけのために、可愛らしい服着てるんだ。特にドレスの白い部分に汚れがついたら、余計目立ってしまう。


「菜瑠美、立てるか?」

「つかさ……はい」


 ここは俺が倒れてる菜瑠美に、救いの手を差し伸べるか。彼女が困っている時は、彼氏がエスコートしないとな。

 この前のように、両手で俺の体に飛びつきそうな感じがしてきたが、菜瑠美はゆっくり手を俺の方に出した。


「ありがとうございます……つかさ」

「お礼はいらない、恋人として当然なことをしただけだ」


 菜瑠美は惚れ込んだ顔をしながら、俺の手を掴んだ。こういうことを普段から行わないと、菜瑠美を庇ったり護ったりすることなんて到底できない。俺しか今、できないのだから。


「つかさ……手を繋ぎましょう」

「おいおい……ほらよ」


 たしかに、デートではよくある展開ではあるけどね。俺と菜瑠美は、手を繋ぎながら海浜幕張駅まで向かった。

 菜瑠美のちょっとしたピンチから始まったが、なんとか幸先の良い出だしとなった。

 


◇◆◇



 海浜幕張駅付近に到着した。だが菜瑠美が向かおうとした先は、駅前ではなくタクシー乗り場だった。


「乗りましょう……つかさ」

「おい菜瑠美、デートでもタクシーなのか」

「そうですが……」


 千葉駅までの交通手段はタクシーか。そりゃゴスロリを着た容姿端麗の巨乳美少女が、電車の中にいたら大パニックになる。

 菜瑠美は少し心配してそうな顔してるが、心配するのは俺自身もだけどな。菜瑠美を狙う人間にとって俺を見たら、あまり頼りそうにないややチビ男だと思われそうだし。


「彼氏なのに借りてばっかだな……」

「何か言いましたか? つかさ」


 菜瑠美の家が金持ちでなければ、こんなデートはできないよな……今回もタクシー代は菜瑠美が払うわけだし、俺からは何も言えないか。

 彼氏である俺が、お金を払わないのは人間として恥ずかしいな。今日の内に、菜瑠美に何かおごらないといけないな。


「そこの人形のような可憐なお嬢さん」

「私……ですか?」


 運転手が菜瑠美に話しかけてきた。まさか、運転手まで菜瑠美の美少女っぷりに目が入ったか。これは、ナンパするんじゃないだろうな。


「ここ最近、千葉県内でお嬢さんのような10代の女の子を狙った事件が数件出てるんだ。お嬢さんは今まで乗せてきた乗客の中で1番可愛いから気を付けな」

「大丈夫です……私を狙う悪い人は隣の方が護ってくれます」

「それは言い過ぎじゃないか菜瑠美」

「つかさ……あなたは今私の何なのですか?」


 どうやら、最近の千葉でこのような事件があるのか……平成の内に捕まらなかっただけあって、令和で捕まってほしいな。

 犯人の主な標的は若い少女のようだが、これは菜瑠美も標的の対象だ。普段の制服姿や今のゴスロリ姿を見たら狙い出すかもしれないし、その場合は俺が取っ捕まえてやる。


「俺からすれば、運転手のあんたも怪しいよ」


 こういう話をしたというなら、運転手も怪しいと見た。見た目だけは判断してはいけないと言うが、見るからに若い少女が好きそうだし。



◇◇◆



 乗車から15分が経ち、俺と菜瑠美を乗せたタクシーは稲毛付近にいた。

 あいにく、国道14号線と357号線の重複区間が渋滞しており、なかなか進まない状態だった。


「お2人さんすまないね、混んでいて」

「別に問題ありません、特別急いでるわけではないので」


 令和初日ということもあって、一般道路の交通量もすごいものなんだな。俺も今日を楽しめばいいという訳だし、千葉駅に着くのは何時でもいいと思った。

 少しづつ前に進むと、破損車とパトカーが停まっていた。事故が原因で道路が混んでいたのか?


「令和の始まりを迎えたのに事件や事故だなんて、相変わらず日本は物騒だな」


 事故は本来ならあってはいけないものだが、ここは待つしかなさそうだな。タクシーの拘束時間が長くなるけど。

 少しづつタクシーが進む中、前列で信号の交差点を待機中でパトカー数台が、赤色のオープンカーを追っていた。


「ん? あれはまさか……レイラ?」


 俺はあの車の形を忘れたりはしない。乗車席も朱色の三つ編みをした女性が1人で乗ってたから、レイラで間違いない。


「つかさ……レイラが関わってるということは」

「おそらく、虹髑髏の仕業だ」


 この事故がまだ把握できてないけど、奴らか関わってるとなれば放っておくわけにはいかないな。

 虹髑髏め、自分らが令和の主役になりたいつもりでいるのかよ。奴らの好きにはさせないな。


「つかさ……どうしますか?」

「こんなの答えは1つしかないだろ」


 今日は菜瑠美とデートの気分だったのが、一瞬にして目的が変わったな。

 例え恋人同士になっていても、俺と菜瑠美の目的はあくまでも虹髑髏を潰す、それには変わりはないんだ──

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