4-2話 彼女いる歴約9時間

 ──これは令和最初の試練なのか……?


 菜瑠美の頼みによって、俺は菜瑠美と同じベッドで令和最初の夜明けを迎えることとなった。

 過去に2度、菜瑠美と共に寝る機会はあった。どちらもまだ、菜瑠美と親しい関係ではなかったから、俺の方から別々の場所で寝ることを奨めた。

 家に泊まるだけでなく、告白やキスもされた上に同じベッドで熟睡か……本当に大丈夫なのか俺は? 朝起きたら昇天しないよな……。


「菜瑠美……君は制服で、しかもブレザーを着たまま寝ようというのか?」

「何か……問題でも?」


 ここは自身の部屋だといっても、菜瑠美は制服で寝るのかよ。たしかに1番見馴れてる服装は制服だけど、菜瑠美の巨乳がネクタイに挟んでる時点で反則スレスレなんだよ。



◆◇◇◇



「では、灯りを消します。おやすみなさい……つかさ」

「おやすみ。といっても、隣には君がいるけどね」


 部屋の明かりを消し、俺は菜瑠美と共に暗い部屋のベッドで一晩を過ごす。俺はある意味、令和最初のピンチを迎えようとしていた。

 同じベッドに寝るといっても、あまり菜瑠美の方には向けたくないな。何か嫌らしいことをしてきそうだし。

 とりあえず俺は、菜瑠美が見えない範囲で横向けでベッドに寝転んでいた。


「ああ……なかなか眠れないや……」


 俺は今、恋人とはいえども他所の家のベッドで寝るんだ。環境も全然違うし、眠れないのも仕方ないか。

 こうなれば、俺が深い眠りにつくまでずっと目でもつぶるか。たしかに今は暗いけど、菜瑠美が制服のまま寝ている姿は見てみたいが、ここは我慢かな。


「うーん……つか……さ……」


 菜瑠美が俺の名を口にした? たぶん、まだ起きていそうだ。だが今は、菜瑠美を見たら負けだと思ってる。

 この体勢のまま寝るのも、なかなか辛いな。これは、どっちが先に眠りにつくかの我慢比べになりそうだ。



◇◆◇◇



 菜瑠美の部屋が消灯してからしばらくが経った。俺は菜瑠美のことを考えたあまりに、全く眠れないまま時間だけが過ぎていった。


「まだ菜瑠美は起きているのか?」


 ここ数分の間、菜瑠美からいびき声すらしない。もしかしたら菜瑠美は寝たのか? 今なら、菜瑠美の方へ見ていいのか?

 いや、この前は寝たフリされて俺を驚かせた。2度と同じ手には乗りたくない。でも気になってしまう。

 思えば、今部屋が暗いのが唯一の救いだな。菜瑠美の気配はわかるけど、暗くてどんな感じで寝ているのかはわからない。なんか菜瑠美のことだから、下着姿で寝てそうだけど。


「今の俺は深い眠りにつきたい、それだけだ」


 ずっと眠れないまま、菜瑠美のこと考えただけで早朝を迎えたくない。菜瑠美は寝たと考えて、もう我慢比べはおしまいだ。



◇◇◆◇



「朝を迎えたか……」


 令和最初の目覚めだ。気付けば、今は9時15分だ。

 俺はなんとか無事に起きれた、菜瑠美は何もやってこなかったし、何はともあれな状況だ。


「肝心の菜瑠美は何処に行ったんだ?」


 ベッドには菜瑠美がいない……既に起きてるのか。部屋を見たら、制服がハンガーに飾ってあるから、別の部屋で着替えをしているのかな?

 ま、菜瑠美のことだから、また俺に刺激的なことをするのに違いない。菜瑠美がこの部屋に戻る間は、寝てるフリでもしてるか。



◇◇◇◆



「つかさ……まだ寝てるのですか?」


 寝てるフリをして数分が経ち、部屋から菜瑠美の声が聞こえた。悪いけど、俺はまだ寝てると思ってくれ。

 俺の予感としては、菜瑠美は下着姿……最悪全裸で中に入ったのかもしれない。今は目を開けてはいけないのはわかってるのに、どうしても気になってしまう。


「つかさ朝でしょ……起きなさい!」


 菜瑠美は俺の母親になったつもりか? 俺の肩を掴み、そのまま揺らし続けた。もしや菜瑠美、俺が寝たフリしているのを見抜いたのか?


「なんだよ菜瑠……しまった」


 思った以上に菜瑠美が強く揺らしたせいで、俺は目を開けてしまった。意外と菜瑠美は、強引な一面もあるんだな。


「おはようございます。しまった……とはどういうことですか、つかさ?」

「い、いやその……それにしても今の菜瑠美、すごい服着てるな」


 菜瑠美はゴスロリを着ていた。笑顔と感情を一切見せないその菜瑠美の姿は、まるでおとぎ話で出てきそうな人形そのものだ。

 頭の上には、両端に薔薇の付いたヘッドドレスを身に付けてる。美しい菜瑠美には薔薇がお似合いだ。

 上半身はフリルが多く入った黒色と白色の長袖のドレス、黒色のリボンも入っている。両手には白色の十字架の入った手袋も装着している。

 下半身は長くも短くもない黒色のフリルスカートに、白色のニーソックスを履いている。ここは部屋の中にも関わらず、靴を履いてるな。ヘッドドレス同様、薔薇の付いた黒色のローファーだ。


「この格好……男性の前に見せるのがつかさが初めてなので、緊張してます……似合って……ますか?」

「とてもかわいらしくてお似合いだ」

「あら……誉めてくださってありがとうございます」


 恥ずかしがっていた菜瑠美に対し、俺は誉めることしかなかった。

 菜瑠美は海神中央高校1の美少女だ、やっぱり美少女は何を着させてもお似合いだな。


「もしかしてつかさ……変なこと考えたりしてなかったですか?」


 今まで菜瑠美が俺にやってきたことを思うと、考えるに決まってる。

 とりあえず、服を着ていただけでも俺からすれば天と地ほどの差がある。ただ、ゴスロリは予想外だけどな。


「菜瑠美、つまり俺のためだけにゴスロリを着たのか」

「はい……ですが、真の目的が他にあります」

「え?」


 どういうことだ? 俺はもう少ししたらここから出て、俺の家に戻るつもりだぞ。


「せっかく今日は令和の初日です、つかさ……一緒にお外へ出ませんか?」

「な!? お、おい……これって俺とデートしたいというのか?」

「そうですが……何か?」


 菜瑠美の家に泊めてもらった後に、今度はデートを申し出たか。令和の初日から菜瑠美づくしになるなんて。

 突然デートしたいと言われたから、気持ちが全く落ち着いていない。菜瑠美と一緒にいる時間が増えたのは嬉しいけどな。

 明らかにデート用の服を着ている菜瑠美。一方俺は、替えの服こそ持って着たが、地味なTシャツとズボンしか用意していないぞ。


「わかった、一緒に出掛けよう。


 令和の初日から人生初デートするという、なんかどえらいことになってしまったな……ただ、菜瑠美とデートをするからには、彼氏らしい立場にしないといけないな──

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