第四章 わだつみ

4-1話 令和の幕開けは

 ──令和の幕開けが彼女の近くにいる、それだけで令和は俺の中で満足な時代だ。


 2019年5月1日

 俺は恋人となった菜瑠美と共に、カウントダウンで『0』と同時に言って令和を迎えるものだと思っていた。

 ただ現実は、令和になる寸前に菜瑠美が俺の隙を伺い、人生2度目のキスをされた。

 いくら恋人同士になったとはいえ、いきなり唇を奪うのは菜瑠美らしいとは言えるが、まず何か言うべきだったのではないのかと。


「んんん……」

「ちゅ……くちゅっ……んむ……ちゅっ……くちゅくちゅ」


 この前と比べてより丁寧に口を責めている。本当にキスをするのが2度目なのかと疑う程、菜瑠美はキスが上手であった、俺の主観ではあるが。

 万が一、キスをされるのはこれが最後になるのかもしれない。菜瑠美が頬から手を離すまで、俺は素直にキスされたままにしておこう。


「ちゅっ……すっ……」


 正直言えば、2度と離したくない程の長いキスだった。キスを終えた菜瑠美は、そっと俺の頬から手を離した。


「ど、どういうつもりだよ菜瑠美! こんな大事な瞬間にキスするなんて」


 俺から先に物申すか。キスされたのは確かに嬉しい、でも時と場合という物があるだろ。

 

「ごめんなさいつかさ……実はこのキス……ギリギリになってしまいましたが、私からあなたへの誕生日プレゼントとして唇を咬ましました」

「誕生日プレゼント? 今のが?」


 そういえば、まだ菜瑠美からプレゼントを貰っていなかったな。まさか、菜瑠美からのプレゼントが、人生2度目のキスになるとは。

 ギリギリの時間を狙いつつ、誕生日プレゼントを渡されて新時代を迎える。こんなの人生で1度きりだよな。


「菜瑠美! 今のキスで気になることがある」


 キスされたから、また何か俺の中に何かが起こりそうだと思い、菜瑠美に質問をする。

 初めて菜瑠美と逢った時、俺は菜瑠美からのキスで今の『光の力』を所有する能力者となり、今に至っている。

 だが一度、俺は菜瑠美との合体技・光と闇の結界を使い、僅かでも『闇の力』を扱えるものだと思い込んでいる。


「気になること……おそらく、あなたが気にしているのはこれのことですか?」


 菜瑠美は、手から軽く『闇の力』を俺に見せた。どうやら菜瑠美はまだ『闇の力』を使えるだけで、少しほっとしたぜ。


「私の持つ『闇の力』は……今のあなたが所有する『光の力』と異なり、簡単に譲渡できない物だと思います」

「そうなのか、変な質問して悪いな」 

「あなたが闇を扱えるのは……私といるときしか出せないでしょう。逆に今、私が光を使えるのもあなたがいるときだけ……」


 やはり、キスでの譲渡は1度きりか。さすがに2度目はありえないか。これは、菜瑠美が本当に愛情を込めてキスをした……と素直に受け入れるか。


「いよいよ令和になりました。つかさ……。私は……あなたが令和を代表する能力者になることを信じてます」


 菜瑠美から、令和は俺の時代にならなけばならないという使命が出されたか。言っておくが、


「そいつは違うな、菜瑠美」

「どういうことですか……つかさ?」

「俺だけでなく君もなるんだよ、令和を代表する能力者に」

「!? つかさ……」


 代表する能力者となれば俺1人だけに限ったことではない。俺と菜瑠美だけでなく、ここにはいない柳先生や大和田さん含めて俺達のチーム全員で令和を代表する能力者になればいいんだ。


「菜瑠美……俺は……虹髑髏やまだ見ぬ能力者を上回る存在になってやる」

「あなたが言うのであれば私も……そうならないといけませんね」


 俺と菜瑠美は、異能力者であるという強い思いを胸に秘め、令和という新しい時代を生き抜くことを決意した。

 菜瑠美だけでない、令という名付け親である母の分も含め、令和のために生まれてきた存在だということを。



◇◆◇



「そろそろ寝るか」


 令和を迎えて1時間が経過した。まだ1時間しか経っていないのに、既に令和の一生の思い出が出来てしまったな。


「あのーつかさ、寝る前に1つ宜しいですか?」

「今度はなんだ?」


 令和直前にキスまでしておいて、今度は何を言い出すんだ? 恋人になったからって、やりたい放題するのは別問題だぞ。


「へ?」


 すると、菜瑠美は俺の両手をしっかり掴んだ。今度は何をやろうというのか?


「つかさ……私とあなたは昨日から恋人同士です。私のベッドで……?」

「なんだと!?!?」


 いくら恋人になったとはいえ、菜瑠美は何をやらかすかわからないんだぞ。一緒に寝たいとは思ってはいたけど、令和初日という記念すべき日にやるものなのかよ。


「いいだろう、一緒に寝てやる」


 仕方ない、彼女からのお願い事なのだから、俺は了承しとくか。だが俺は、本当に菜瑠美と共に一夜を過ごせるのか少し心配した。


 とりあえず菜瑠美のデリカシーない行為はやってきませんように──

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