3-19話(第三章最終話) 平成の間にやり残してたこと

 ──俺自身で令和時代を作る前に、再びその瞬間が訪れるとは。


 令和を直前にして、菜瑠美の口からと突然告白された。俺は頭の中がパニックとなっていた。

 一緒に令和を見届けたいから、菜瑠美の通知でここまで来たのに、もしかして本当は俺に告白するためだったのか?


「おい待てよ菜瑠美! 正気で言ってるのか?」

「はい……私は本気で言ってます」


 改めて確認したが、今は落ち着かないとダメだ。俺だって、菜瑠美に言いたいことがあったのに、告白なんかされたら余計ハードルが上がってしまった。こんなの見計らったとしか思えない。

 それにしても菜瑠美、俺がじっくり考えてる間でもよく落ち着いてられるな。


「菜瑠美……返事より先に、俺からも言っていいか?」

「どうぞ……」


 菜瑠美が本音で付き合ってくださいと言ったのであれば、俺はもう菜瑠美に対する気持ちを言うしかない。お互いに思ってることが本当であるならば。


「クラスも違ってたし、今までずっと言いたかったんだ。菜瑠美! 今まで……! !」

「つかさ……本当ですか」


 告白されたからには、俺も本音を言うしかなかった。菜瑠美に対して好意を持っていることと、俺自身も菜瑠美と付き合いたかったことだ。

 それに、俺の『光の力』には菜瑠美の『闇の力』が必要不可欠。ただのチームメイトのままでいたら、息なんて合うことができない。


「つかさ……あなたも同じこと思っていたなんて」

「ああ。嘘言ってるかもしれないが、今日は菜瑠美に告白する気持ちでいたんだ」


 両想いだったからか、菜瑠美は思わず涙を流していた。はっきり言ってしまえば、泣きたいのは俺の方なんだよな。男がこんな時に泣く場面ではないけどね。


「とりあえず拭けよ」


 俺は菜瑠美に、ハンカチを渡した。こういう場面に用意してよかったぜ。せっかく彼氏になったのだから、紳士的な一面も見せないとな。


「菜瑠美との関係は確かに今日で変わった。だが、学校にいる時は今まで通りな」

「それは私も承知です……これは、私とあなただけの関係」


 いくら菜瑠美と恋人同士となったとはいえ、学校生活ではより気を引き締めないといけない。

 俺自身は異能力を所持していること以外は、普通の生徒だ。女子生徒からの人気もボチボチある程度しかない。

 それとは反対に、菜瑠美はファンクラブが設立する程、校内ではカリスマ的な美貌と頭脳を持っている。菜瑠美の彼氏という立場になった以上、会員からは敵に回されることに間違いないが、お互いに黙っていれば良いだろう。


「校内だけの生徒に限らず、俺の身近な人物にもだ」


 カズキや川間さんといったクラスメイトは当然だが、チームメイトの大和田さんや柳先生にもまだ秘密だな。

 特に柳先生は俺達が付き合ってるの知ってたら、大問題になりそうだ。柳先生は独身だし、まだ彼氏もいなさそうだからな。


「令和……いや今から、私の彼氏として宜しくお願いします」

「ああ、俺の彼女になっても宜しく頼むぜ。菜瑠美」


 16歳の誕生日に起きた、人生初の恋人ができた瞬間である。いや、初ではなく菜瑠美で唯一にしたい。

 前までは、友達以上恋人未満とかではなく異能力者のチームメイト同士としか考えてなかった。結局の所両思いであったため、今日からは

 俺は、譲渡された『光の力』と託されたペンダント以外に、恋人の立場となった菜瑠美そのものも守る必要性が出てきた。

 菜瑠美と付き合うことは簡単なことではない。今や他校から噂のある程の美少女だ、俺が何としても菜瑠美を大事にしないとならないな。



◇◆◇



「令和まであと1分ですね」

「もうそろそろだな」

「つかさ……あなたの時代が目の前です」


 気が付いたら、今は23時59分を迎えていた。令和をチームメイト……いや恋人の家で過ごす。今の俺は幸せ者だな。

 "あなたの時代"か……菜瑠美にも言われたから、俺が令和を作るしかないな。


「菜瑠美、残り30秒になったら交互にカウントダウンしようか。そして、残り10秒になってから一緒にカウントダウンで」

「いいですね……それ」


 せっかく恋人になったわけだし、試しに息を合わせるとしよう。

 俺の提案に乗った菜瑠美もなんか嬉しそうな顔をしてる。笑顔こそ見せないが、その黙りした菜瑠美の顔が俺は大好きだ。


「30」

「29」

「28」

「27」

「26」

「25」

「24」

「23」

「22」

「21」

「20」

「19」

「18」

「17」

「16」

「15」

「14」

「13」

「12」

「11」


 俺は偶数、菜瑠美は奇数でそれぞれ秒読みをした。本当に、令和が刻々と訪れるんだな。


「10」

「9」

「8」

「7」


 ついに10秒前まで来たので、2人でカウントダウンの声を合わせた。もう俺は待ちわびて仕方ない、菜瑠美も俺の方へとしっかり見つめてくれてる。


「6……ん?」

「……」


 菜瑠美はカウントダウンを突然やめた。何故だ……一緒に言おうと承諾したのに、俺と一緒に『0』と言わないのか?

 菜瑠美が言わなければ、俺もカウントダウンをやめた。


「どうしたんだ菜瑠美?」

「つかさ……あなたに、がありました」


 やり残すことってそんなものあるのか? もう3秒前なのに、何が出来るというんだ?

 するとその瞬間、菜瑠美が俺の頬を手に添えて瞳を閉じた。


「ちゅっ」

「んん!?」


 嘘だろ? 残り2秒前という絶妙なタイミングで、俺にキスをしてきた。菜瑠美に手を添えられてるせいで、身動きが取れない。

 このやり口は、初めて菜瑠美にキスされた時と同じパターンだ。これは、裏を突かれてしまったな。

 たしかに、俺は菜瑠美との関係が変化した。だが、やり残したことがキスなのは、俺の誕生日プレゼントも兼ねてなのか?

 それにしてもこのキス、甘さと柔らかさを重ね備えている。こんなのたまったものじゃないぞ──


「んむ……ちゅ……ちゅっ……くちゅ……んむんむ……れろ……」


 2019年5月1日0時0分



 第三章・令和へ…… 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る