3-18話 2人きりの中で……

 ──元号が変わる寸前、菜瑠美から衝撃過ぎる一言が耳に届いてしまう。


「平成終了まであと3時間か」


 21時を過ぎ、令和が刻々と近づいていた。俺は、菜瑠美からの通知により、菜瑠美の家で令和を迎えることになった。

 時間の指定もなかったから、別に今日中なら何時に着いてもいいと思った。そのために、本来やるつもりだった特訓と勉強を出掛ける前にやり、少し磨きをつけた。


「今日カズキから貰った靴でも履くか」


 既に令和Tシャツは着ているが、カズキからの灰色の靴履いて行くか。せっかく貰った誕生日プレゼントだし、菜瑠美にも見せてやりたい。

 もちろん、ペンダントも付けていかないと。『光の力』にも関わる物だし、何より菜瑠美から託された大切なものだ。


「俺は今日、菜瑠美に大事な事を言いたい。


 今まで、菜瑠美に言いたかった事が1つ俺にはあった。俺からすれば、あまりに重要なことだ。

 ただ、クラスも違うからなかなか学校で菜瑠美と会う機会もなかったし、何よりも計画的に言う自信がなかった。だから、

 


◆◇◇



 俺は海浜幕張駅に到着した。気が付いたら、既に22時を回るところだった。

 駅周辺は、外で令和を迎えようとする人が多く集まっており、夜にも関わらず賑わっていた。


「3週間振りにここへ来たのに、ずっと前に感じるな。前に来た時と比べ、この『力』がどんな物なのか理解できた」


 俺は手のひらを見つめながら歩き、3週間の中で起きたことを、菜瑠美の家に着くまで心の中で振り返っていた。

 入学式直後に菜瑠美から無理矢理、海浜幕張駅が最寄りの菜瑠美の家に連れて来られ、『光の力』を扱いこなすことを決意した。

 その後、虹髑髏の存在を知ったと同時に、ハイトに惨敗した。以降、俺はハイトの言っていた『令和を代表する能力者』という言葉が気にかかり、強くなることを重点的に考えていた。


「本当、時が経つのは早かったり遅かったりするな」


 俺はまだ、『光の力』を完璧に使いこなせてるとは言い難い。対虹髑髏との成績としては、工作員には優勢だったが、幹部の2人には実質的に劣性だ。

 

 令和が目の前なのに、令和に対する意気込みや虹髑髏を潰すこと、そして菜瑠美との関係ばかり考えちゃうな。そんな思いで、俺は菜瑠美の家に向かっていた。



◇◆◇



 菜瑠美の家に到着した。ここで令和になる瞬間が訪れるから、色々と緊張してきた。とりあえず、チャイムを鳴らすか。


「はい……天須です」


 インターホンから菜瑠美の声がした。なんか、これだけで緊張が半端なく、俺は腹に手を抱えた。


「俺だ菜瑠美、夜になってしまったけどね」

「つかさ……少し待っててください」


 少し待っててか……また菜瑠美のことだから、俺を興奮させることやるんじゃないのか? もしかしたら、例の露出度高い戦闘服でも着て来るんじゃないのか。


「お待ちしてました、つかさ」


 菜瑠美が玄関のドアを開けた。だが、菜瑠美は今家にいるというのに、海神中央高校の制服を着ていた。


「遅くなってすまないな……でも、何故制服なんだ?」

「あなたといる時は……制服でいた方が私にとってはいいの。それに、今日中にあなたが来てくれただけ……私は嬉しい……」


 なんだかんだ言いながら、俺の中では制服姿が1番見慣れてるからそれでいいか。

 それに、女の子に対する誘われ事はしっかり守らないとな。今では同じ能力者のチームに所属してるし、好感度は下げたくない。


「あとつかさ……そのTシャツ、お似合いですね。令和という文字は、あなたに相応しい」

「ありがとう菜瑠美、これは友達からの誕生日プレゼントなんだ」


 川間さんから貰った誕生日プレゼントが、菜瑠美からも高評価なんて。改めて、川間さんには感謝だな。



◇◇◆



「部屋も少し変わったな」

「変わった所に、気が付いたのですね」


 菜瑠美の部屋に着いたら、この前来た時と比べて少し印象が変わっていた。

 部屋全体がやや明るめになり、机の下にはトレーニング機種が加わっていた。菜瑠美もやっぱり、虹髑髏を倒すために雷太さんに頼んで買ったのかな?


「私……嬉しいの。この家でつかさと2人きりでいることが……」

「2人きり? 今日雷太さんは家にいないのか?」

「はい……雷太爺もまた、画家の集まりで令和を迎えるとのことなので、今日はいません」


 雷太さんは家にいないのか……この前会った時と比べ、『光の力』を制御できる所を見せたかったから、少し残念だ。

 この家は今、俺と菜瑠美しかいない。言いたいことがある俺にとっては、チャンスなのかもしれない。

 しかし、本当にここで言っていいのか? ずっと考えたら、あっという間に令和を迎えてしまいか。

 だが、俺は男だ。勇気を振り絞るしかないし、後戻りはできない。


「あのさ、菜瑠……」

「つかさ! あなたに言いたいことがあります。そのために、今日あなたをここに呼びました」


 俺が菜瑠美に言いたいことがあったのに、菜瑠美の方も俺の名前を呼んできた。

でもどうしたんだ菜瑠美、大きな声をだして。


「いいだろう、君の方から先に言ってくれ」

「わかりました」


 いわゆるレディーファーストというものだ、先に菜瑠美から聞こう。菜瑠美がいるから、俺は今ここで一晩過ごすからな。

 菜瑠美は一呼吸置いた、間違いなく大事なことだろう。


「つかさ……私と……?」

「は!?!?!?」

「当たり前ですが…………」


 嘘だろ? 言いたいことって告白かよ。菜瑠美はいつも以上に、顔が真っ赤だ。 

 こんなの心臓がバクバクだ。まさか、菜瑠美の方から告白してるなんて。

 令和を前にして、いくらなんでも告白は予想外だ。俺はこの場面をどう切り開いたらいいんだよ──

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