3-17話 誕生日プレゼント

 ──また1つ、歳をとってしまった。


 2019年4月30日

 平成最後の日だ。何らかの偶然なのか、俺は今日で16歳の誕生日迎える。

 いくら誕生日と言っても、今の俺にとっては特別な日とは思っていない。母がすぐに離婚したというのも理由の1つだがな。


「今日も特訓と勉強だな」


 虹髑髏を、俺の『光の力』を使って潰すこと、これが俺の最大の目的だ。今まで以上の強さを今日手に入れることが、今の俺にとっては誕生日プレゼントだと思って構わない。

 それと、大和田さんのチームにも誘われたんだ。より強くなって、俺がチーム1の実力者にならないといけないしな。

 勉強の方も、10連休が終われば中間試験が近づいている。今のうちに勉強しとかないと、良い成績が残せない。


「今日は先に勉強かな、ん……通知が」


 勉強を始める前に、机の上にあったスマホが鳴っていた。

 この着信音は菜瑠美用にしてるから、菜瑠美からか。菜瑠美の方から来るのは割と珍しいし、通知だけ先に確認するか。


「"誕生日おめでとうございます……つかさ。良ければ……令和になる瞬間を、私の家で見届けませんか?"」


 そういえば、松戸で特訓した時の道中で今日俺が誕生日だって言ったな。

 それよりも、菜瑠美の方からまた家に誘ってくれた上にまた一晩泊めてもらえるなんてな。確かに菜瑠美と共に令和を迎えたいから、特訓と勉強をある程度した後に家に向かうか。


「"了解。夜から行く"っと」


 今は菜瑠美に返事を返しておこう。本来、特訓と勉強をするつもりが、急に菜瑠美のことばかり考えてしまった。


「菜瑠美に会うのは夜なんだし、今は勉強に集中だ……ん? カズキからも来てる?」


 勉強を再開しようとした中で、今度はカズキからも通知が届いていた。

 たしかあいつ、今日俺が誕生日であることを覚えていたし、どうせ祝福のメッセージだろうと思って再びスマホを確認する。


「こっちも確認しとくか……は? "今から絵美と共に令の家に向かってる。今日君は予定空いてたよな"だと? あの2人、もうすぐここに来るのか?」


 カズキの奴、また都合悪い時に俺の家に来るなんてな。さらに今回は、川間さんも一緒だ。

 確かにこの前、誕生日の日は1人でひとときを過ごしたいと言ったのに、結局この日に俺と会いたいのかよ。カズキは友達思いだよな本当に。


「断るわけにはいかないし、許可しよう」


 仕方ない、カズキと川間さんも今の俺にとっては大事な友達だ。今日は特訓と勉強をやめて、2人を俺の家に迎えよう。

 今は急ピッチで、着替えや掃除をしておかないと駄目だな。カズキと川間さんはもうすぐ来るから、綺麗な家であることを心掛けないと。

 


◆◇



「俺の誕生日によく来たな。カズキ、川間さん」


 カズキと川間さんが、俺の家に到着した。急に来たためか、家の片付けは100%終わってないんだけどね。


「結構いい所に住んでるじゃん」


 そういえば、川間さんは家の中に入るのは初めてだったな。これでも、家賃5万円のごく普通のアパートなんだけど。


「へへっ、改めて誕生日おめでとう令」

「影地くん、ワタシからも誕生日おめでとう」

「ありがとう、2人共」


 愛媛にいた頃、カズキしかまともな友達いなかったから、このように誕生日を祝って貰えるのは初めてだな。


「実はな令、僕達から君に誕生日プレゼントを用意してあるんだ」

「影地くんは今、なんか色々事情があるみたいだから、少しでも勇気づけるためにね。26日は学校終わった後、すぐ帰っていったし」


 プレゼントか……2人のことだから、安物なんじゃないかな。

 その日の放課後は既に特訓漬けだったな。俺と柳先生は、君達にはまだ知らない大きな運命に巻き込まれているんだよ。

 今の瞬間は、気晴らしという形で楽しんでおくか。


「色々迷ったんだけど、僕からはこれを」


 カズキの鞄から大きめな箱を取り出し、箱に包んであった紙を破いてから、俺に渡した。


「これは靴? しかも、すごく動きやすそうだ」


 カズキからのプレゼントは、有名ブランド品の灰色のスニーカーだった。靴の所持数が少ない俺にとっては、このプレゼントは非常にありがたい。


「本当かカズキ? こんないい靴貰って」

「いいってことよ ま、僕の誕生の時にプレゼントを渡すんだぞ」


 この借りはしっかりカズキの誕生日に返さないといけなくなったな。その分と同等な価値の物をな。


「ワタシからはこれ、カズキと比べたら安物になるけど」


 川間さんからは、レジ袋ごと俺にプレゼントを渡した。中身が薄そうだし、カズキよりは安物かな? 

 俺は、レジ袋に入っていた中身を取り出した。


「これは、令和Tシャツ?」


 川間さんからのプレゼントは、大きく令和の文字が入った白色のTシャツだった。


「影地くんの下の名前は令と書いてつかさと読むから、迷わずこれにしたの」


 発想からして川間さんらしいな。今すぐにでも、このTシャツを着たいところだ。


「ありがとな。カズキ、川間さん。大切にする」


 いい友達を持った瞬間だった。カズキと川間さんには、感謝の気持ちしかはない。

 祝うだけなら、メッセージだけでもできる。だが、わざわざ誕生日プレゼントまで用意してここに来たんだ。


「ちゃんと大事にしろよな令。これは僕達の自腹なんだからな、高校生の身分でなかなか買えないぞ」

「ワタシ達からのプレゼントに、ひどい汚れでもつけたら許さないからね」


 そんなことするわけないだろ。そもそも、父以外に誕生日プレゼント貰うことなんて初めてなんだから、大事に扱わないといけないな。



◇◆



「じゃあな令、いい16歳にしろよ」

「やっぱり影地くん、そのTシャツお似合いよ」


 そろそろ、カズキと川間さんが帰ろうとしていた。令和Tシャツ、確かに俺もお気に入りになってしまったな。

 誕生日関係なしに特訓と勉強をするつもりが、気が付いたらカズキや川間さんと楽しい時間を過ごすことになった。


「だが、今日のお楽しみはまだ終わっていない」


 たしかに、カズキや川間さんからは思いもしなかった誕生日プレゼントを貰った。しかし、今日の最大のイベントは、菜瑠美の家に行くことだ。

 ひょっとしたら、菜瑠美からも誕生日プレゼントがあるかもしれない。俺はそのような妄想をしていながら、菜瑠美の家に向かおうとした。


「平成もあと数時間で終わるな」


 いよいよだ。ついに、がもう少しで訪れる。

 高校に入る前は、1人で迎えるものだと思っていた。それが、俺の持つ『光の力』の譲渡者である同級生の菜瑠美と共に、なんて──

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