3-16話 チーム 後半
──このような機会は滅多にないし、俺達はもっと強くなれるかもしれない。
放課後、大和田さんに話があると呼び出された俺と菜瑠美は、虹髑髏に対抗するチームを結成するための誘いであった。
3日前、確かに大和田さんは俺達に協力するとは言った。そこから、チームにまで発展するとはな。
「俺もたかこおばさんも、君達と同じく能力者だ。俺達だけのチームがあってもいいだろうと思い、今日君達を改めてチームに迎えたいと思った。リーダーは俺が務めさせてもらう」
今となって、海の一族である柳先生と大和田さんは、利害が一致している仲間同士。それに、能力者としての経験も俺より上だ。
「俺はその誘いに乗ります、大和田さん」
虹髑髏を潰すためにも、信頼できる仲間も必要だし、強力な『力』を持つ者が1人でも欲しい。
さらなる強さを手に入れる絶好の機会であると感じ、俺はチームの加入を決めた。
「令くんは了承か、菜瑠美ちゃんはどうする?」
「私の本音としては……私とつかさ以外の人に、虹髑髏への関わりは控えたいと思いました。ですが、海の一族も今は虹髑髏にも狙われています」
菜瑠美の言ってることは正論だ。元から虹髑髏に命を狙われている菜瑠美と、菜瑠美を庇った俺以外に被害者を出したくないと思っている。
「つかさと海の一族が一緒にいるのであれば……私も……入らせてください」
「決まりだな。改めてチームにようこそ、令くん、菜瑠美ちゃん。まあ具体的なチーム名は決めてないけど、今はその必要はないだろう」
菜瑠美もチームに加わることが決まり、これでメンバーは4人か。
ま、結成したばかりだし、他に校内に能力者がいるかどうかもわからない。この人数が今の俺達にとって妥当な人数だな。
「ところで大和田さん、今日学校を休んだ柳先生は大丈夫なのですか?」
チームの話も重要だが、柳先生のことも心配だ。柳先生もチームの一員であるのだから。
「俺はあの後に、たかこおばさんの家で一泊した。その時に頭を抱える状態が続き、俺にしばらく学校を休むと告げた」
「でも……何か後遺症とかあったりしませんか?」
「大丈夫だ。たかこおばさんは、君達が思っている何倍以上に強い女だ。数日したら学校に戻るはずだ」
柳先生は、俺より倍も生きてるわけだし、体力・精神・能力者としての強さも俺より全然上だ。大和田さんが、学校に必ず戻ってくると言ってるならば、俺もその言葉を信じるか。
「このチームは、既に始動してると思ってくれ。俺からは、以上だ」
「俺からも、宜しく頼むぜ。菜瑠美、大和田さん」
「チームでも、宜しくお願いします……つかさ、大和田先輩」
チームか……確かに、2人よりも3人、3人よりも4人いた方がずっといいし、海の一族達と特訓できるのはプラスでしかならない。
それと、令和になってから大和田さんと手合わせするのも、既に決まってるしな。まずは、大和田さんと並ぶ強さを求める必要性があるな。
「いくらチームとは言っても、誰が一番強いか決める必要はあると俺は思った」
チームに加入しただけしか、俺はまだ行なっていない。俺が後に、このチームを牽引する存在になっていることを。つまり、チームのNo.1にも俺はなりたい。
◇◆◇
2019年4月26日
平成最後の学校だ。今日が終われば10連休が始まり、その間に元号が平成から令和へと変わる。
「しまった、遅刻する」
俺はよりによって、寝坊してしまった。身なりは整えたが、髪型はややボサボサだ。しかし、時間がないから、このまま行くか。
遅刻は避けるためにも、俺は駆け足で学校へ向かった。あと15分で、校門が閉まってしまう。
「今日こそ柳先生は、1年4組に戻ってくるのだろうか?」
走ってる間に、柳先生のことを考えていた。昨日まで、3日連続で休んでいるから余計心配する。
それに、今日休んでしまったら10連休が挟むため、半月も学校にいないことになる。こんなに、柳先生を見ない日が続くとも俺は思ってなかったしな。
「とりあえず、まだ走っとくか。ん? 俺の前にタクシーが停まろうとしている」
俺が走っている途端に、菜瑠美が丁度よくタクシーから降りてきた。珍しいな、菜瑠美も遅刻寸前に登校するとは。
「つかさ、おはようございます」
「おはよう菜瑠美、今日は遅いな」
「道路がいつもより混んでました……それで、この時間です。間に合う時間だけましですが……」
通学の道中で、菜瑠美と遭遇するのは実は初めてだったりするんだよな。俺は寝坊で菜瑠美は渋滞と、別々の理由だとはいえ、今は学校に急がないと。
「このままだと……私とつかさは遅刻してしまいます、急ぎましょ……つかさ」
「そうだな」
相変わらず、菜瑠美が走る時の胸の揺れが凄いな。これだと、胸を見たいがために平行して菜瑠美と走りたくなる。
でも今は、胸なんて見てる場合じゃない。このままでは、初めて高校生での遅刻になってしまう。
「菜瑠美、俺が先に立つ」
菜瑠美は足が速くない。遅刻を回避するには、俺が先頭に出るしか頭になかった。
そのため、俺は菜瑠美の手を掴んで、自慢の脚力で校門まで走ることにした。
なんか、入学式の下校時を思い出すな。あの時は、菜瑠美の方から強引に腕を掴まれて、川間さんに追いかけられそうになってたな。
「つかさ……」
「菜瑠美ももう少し頑張ってくれ……校門はもうすぐだ」
とにかく俺は、遅刻だけは避けたい。特に菜瑠美は、優等生でもある校内1の美少女と言われているんだ。ここで遅刻扱いされては、菜瑠美のイメージが下がってしまう。
「菜瑠美、ついて来れるか?」
「はい」
入学式の時同様、俺は全速力で校門まで駆け抜けた。今回は、菜瑠美のおまけ付きだけどな。
「俺達、遅刻から免れたようだ」
なんとか俺と菜瑠美は、校門が閉まる前に潜り抜けた。
今日も、校門には柳先生はいない……本当に、半月も学校を休むのだろうか?
「あら、2人ともおそろいのようね」
俺と菜瑠美が下を見て疲れている中、聞き覚えのある女性の声がした。俺は、すぐさま上を向いた。
「入学式以来の遅刻寸前に登校したようね、影地くん。それに、天須さんまで一緒とは」
柳先生だった。どうやら、俺と菜瑠美が来るのを見計らって、裏に隠れてたようだ。
「柳先生! 学校に戻っていたのですね」
「あなた達が来ると思って、私は校門の裏で隠れてたのよ。でも、私の復帰初日で遅刻するなんて、見損なったわ」
遅刻間際になってしまったのは、申し訳ないと思っている。それでも、俺からすれば柳先生が校内に来ているだけで全然違う。
「よかったですねつかさ……これでいつもの1年4組に戻りますよ」
「本音としては、レイラに対する憎しみはまだあるけど、いつまでも休んでるわけにはいかないしね。チームの加入のことも耕ちゃんから聞いてるし、今日からまた宜しくね」
「ああ、柳先生」
ついに柳先生が、6日振りに海神中央高校に戻ってきた。朝の校門には柳先生がいないと、違和感がある。
今の立場は生徒と教師の関係であると同時に、能力者チームのメンバー同士だ。
今日みたいに、遅刻しそうになったらチームから追放されそうだから、もう寝坊はしないように気を付けるか。
おっと、まずは1年4組にある俺の机に座らないと。数分したら、俺はまた柳先生と教室で会うのだから──
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