3-15話 チーム 前編

 ──クラス全員が戻って来るのを待っている、俺はそう思う。


 2019年4月23日

 俺は普段通り、学校に向かっていた。しかし、3日前に逃げられたレイラに対する不満と憎しみが、まだ残っている。

 土日もずっとレイラのことを考えながら、1人で地道に『光の力』の特訓をしていた。


「ん? 校門に柳先生がいないのか……」


 普段なら、登校時の校門には柳先生がいるはずだ。しかし、今日は3年生の学年主任が代わって校門に就いている。


「すいません、今日柳先生はどうされたんですか?」

「君は確か、柳先生のクラスの生徒だね。柳先生は体調不良になったらしく、数日の間は学校を休む連絡が入っている」


 柳先生が今日校内にいない? もしや、レイラのことを引きずっているのか?

 さすがに、元教え子から負傷したためか、当分メンタルは回復できそうにないもんな。事情を知る俺からすれば、納得の欠勤だ。

 柳先生とレイラが戦っていた時を思い出しながら歩いていたら、後ろから1人の生徒が俺の頭を叩きつけられた。


「よお、影地! 今日のお前、なんか元気ねーな」


 誰かと思えば塚田か。塚田の方こそ、今日はやけにご機嫌だな。俺と違って、なんかいいことあったのか?


「いつも校門にいるお前の担任のクソババアが、今日いねーな。女体育教師の癖に、熱でも出したのかー」

「お前、なんて暴言吐いてるんだ。それはいくらなんでも言いすぎだぞ」

「俺様からしたら、あんなのだ」


 塚田の奴、柳先生にとんでもないあだ名付けやがった。本人の前で言ったら、今度こそ退学処分だな。

 確かに塚田は、何度も柳先生に注意されたのを見たことあるけど、あのレイラですらそんな暴言を言わなかったぞ。


「そういや影地。この前、俺様が教えたキックの精度はどうなった?」

「とりあえず良好な感じだ」


 新技の雷光回転に関しては、上手くレイラには通用できていたし、現時点では良好と思っていいか。


「頼むから、特訓したその蹴りを見せてくれよー。お前の強さを拝見したいぜ」

「それは無理だ、ここは正門だぞ。今ここでやったら、変に注目されるだろ。ついでに、柳先生にひどいあだ名付ける奴には余計見せたくない」


 塚田の奴、豊四季に洗脳された後は性格丸くなったと思ったら、隠れて柳先生の悪口言うとはな。呆れてしまったぜ。



◆◇



「柳先生は、体調を崩したという連絡が入り、しばらく休日することになった。彼女が戻り次第、4組は私が代理で担任する」

「あの柳先生が……休み?」

「嘘でしょ……一体何があったのかしら」


 数日の間、俺達のクラスは代理の先生が行うことを告げた。柳先生は、元気で真面目な印象がクラスメイト達にあるために、教室全体がざわついた。

 体調不良でしばらく休むと説明されたが、4組内で唯一事情を知る俺にとっては、早く柳先生が戻ってきて、このクラスをまとめてもらいたい。


「ねぇ、影地くん」

「何かな? 川間さん」


 朝のホームルームが終わり、川間さんが後ろから俺に手をついてから、俺に話しかけてきた。


「影地くんは、柳先生のいないこのクラスについて、どう思う?」

「そ、そりゃいた方がいいさ。柳先生以外の1年4組なんて、考えられないからな」


 俺は、レイラにやられそうになった時の柳先生のことを思い出した。"海神中央高校の校門を守ったり1年4組の担任をするのは、他に誰がするんですか"……と。


「おいおい令ー。クラスの中で、柳先生の欠席を一番喜んでいるのは君じゃないのかー?」

「違うな。それは否定させてもらう」


 俺と川間さんの間にカズキが、笑いながら入ってきた。悪いけど、今は喜べる立場じゃないんだよな。


「影地くんはよく柳先生に注意されてるし、先週の金曜日の放課後にも呼び出されてたよね。ここで、本音をいいなさいよー」

「本当に柳先生のこと戻ってほしいのにー」


 川間さんは相変わらず、こういうことには敏感だな。

 まあ俺としては、この2人だけには能力者同士の争いに巻き込みたくないな。

 いずれは、俺と柳先生か持つ隠された秘密は知ることになるとは思うけど。


「ん……スマホが。カズキと川間さんすまない、一旦席から離れる」

「わかったよ。但し、授業には遅れるなよ」


 制服の裏地にしまっていたスマホのバイブが鳴っていた。この時間に来るのは珍しいが、誰からだ?

 俺は授業が始まる前に、スマホを確認した。

 

「大和田さんからだ。何々、"放課後屋上に来てくれ、令くんに話がある"か」



◇◆



 俺は放課後、大和田さんから来た通知通りに、校内の屋上へと向かった。

 本来なら、一般の生徒が屋上の出入りが許されていないが、よく屋上の使用が許可されたな。さすが大和田さんは、生徒会副会長と言ったところか。


「通知が来たのだから、大事な話であることに違いない」


 先輩からの呼び足しなのに、何か緊張するな。俺は1度深呼吸しながら、屋上のドアを開けた。


「来ましたよ、大和田さん。あれっ?」


 開けると、そこには誰もいない。呼び出されたのだから、先に来てると思っていた。


「俺はここだぞ、令くん」


 後ろから、大和田さんの声がしていた。さすがに呼び出した本人が、屋上にいないのはおかしいよな。


「大和田さん、話って……なっ」


 後ろを見た瞬間、制服姿ではなく戦闘服姿の菜瑠美が大和田さんの隣にいた。俺は完全に、菜瑠美の方へと目を向けてしまった。相変わらず、戦闘服は反則だ。


「な、菜瑠美も来てたのか」

「はい……私も、大和田先輩に呼び出されました……」

「それよりも、いくら屋上に俺達しかいないからって、巨乳アピールするような格好を学校でしてくんなよ」

「つかさが喜びそうかなと思って……あえてこの格好で来ました」


 もし屋上に、俺達以外の誰か来たらどうするんたよ? 普通の女子高生がレオタードなんて、なかなか着ないぞ。


「役者が揃ったから、話させてもらうぞ」


 さてと、本題に移ったか。俺と菜瑠美を屋上に呼び出したのだから、重要なことを言うだろう。


「3日前、君達を船橋駅まで送った後に、俺とたかこおばさんで相談したことについてだ。俺と令くんと菜瑠美ちゃん、そしてたかこおばさんとで、虹髑髏討伐チームを結成したいと思う」

「チーム……ですか?」


 チーム? 柳先生と大和田さん、もしかして部活動や同好会とは関係ない、俺達だけの秘密のチームを組もうと言うのか?──

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