3-12話 朱のレイラ Part2

 ──言っておくが、相手が女であろうと俺は容赦はしない。


 独自の扇子術に加えて、岩の能力『STYLE-R』を自在に扱い使いこなすレイラ。

 その圧倒的な強さで、かつての師でもある柳先生を苦しめる。

 とどめを刺される前に、俺はこれ以上柳先生がやられている所を見たくなかったため、勝手に割り込んだ。


「今そこで倒れてるババアに替わって出てくるなんて、あんたも今ここで始末するよ」

「気安くババアと言ってんじゃねーよ、だろ」


 何度も柳先生のこと、ババアと言うのも腹立つな。俺の心の中や大和田さんはおばさんだけで済むものの、30歳でババア呼ばわりされたら、柳先生も傷付いていそうだ。


「令くん。俺と天須さんは、たかこおばさんを俺の寺まで送りに行く」

「つかさ……私と大和田先輩が戻るまで、あの人レイラをやっつけて」

「耕ちゃん……天須さん……私の為に、ありがとう……」


 大和田さんは、柳先生を担いで寺に向かった。菜瑠美は、制服が結構濡れてるから満足に戦えないからか、大和田さんと柳先生に付いていった。


「みんな、後は俺に任せてくれ」


 どうやら、俺だけになってしまったが、4人分の『力』を持ってる気分のつもりだ。

 俺だって本当は、柳先生を心配しに一緒に行きたいさ。だから俺は、なんとしてもここでレイラを倒す。

 菜瑠美達はもう大和田さんの寺に行くだけだから、これで安心だろう。


「おいおい。まだ虹髑髏一のスタミナを誇る、このスグル様を忘れてもらっては困るぜ」


 工作員の1人・スグルが、菜瑠美達の行く手を阻もうとしていた。

 さっきから見ないと思ったら、ここで俺達の行動を見計らってたのか。本当、しぶとい奴だ。


「あなた……まだいたのですね」

「スグル、あんた逃げたこと思ったらずっと隠れてたのね。さすが私の部下だね」

「レ、レイラ様に褒められた。俺は、今そこでおんぶされてる女に流された、同僚のタクヤやユウジとは違うんでね」


 レイラに褒められたからといって、浮かれてるなスグル。おまけに、柳先生のラフ・ウォーターを受けた同僚の2人より上だと思ってるのかよ、なんかおめでたい奴だな。


「お前達はもうおしまいだ。体力自慢の俺からすれば、俺1人で問題な……は?」


 菜瑠美達を倒すことに自信満々なスグル。だが、菜瑠美はスグルに闇の糸をかけていた。


「何だこれは? 縛られてるのか俺は?」

「どうですか、私のこの糸は? 例えあなたが体力自慢を自称しても、これを受けたらしばらく動けなくなるでしょう」

「俺がこんなもので……ふぁっ……」


 スグルは闇の糸に縛られ、深い眠りについていた。菜瑠美の技に2度受けるなんて、スグルはある意味幸せものだな。

 菜瑠美の制服は濡れた状態だけど、闇の糸は手だけを使うから、平気でできたのか。


「ぐぅ……ぐぅ……」

「こいつはもう寝ている。今のうちに行こう、天須さん」

「はい、大和田先輩。つかさ……後はお願い」


 菜瑠美達は、今度こそ大和田さんの家へと向かった。菜瑠美はこういう時には、助かる存在だぜ。

 スグルを眠らせた菜瑠美を見て、レイラは怒りだしていた。


「くぅぅう、天須菜瑠美! スグルを眠らせてー、絶対許せない」

「待てよレイラ、今のお前の相手はこの俺だぜ。菜瑠も狙いたいのなら、俺を倒してからにしな」


 レイラが本気モードに入ったが、俺も本気モードだ。菜瑠美の敵は、俺の敵でもあるからな。


「では影地令の首を頂いてから、天須菜瑠美の首も頂くことにしよう。それっ」

「ちっ」


 先制攻撃と言わんばかりに、レイラは俺に扇子を投げてきた。今はかわすしかなさそうだ。

 まずは、レイラの隙を伺うか。だがレイラは、予備の扇子を一体何本持ってるんだ?

 扇子を大量に隠し持ってることを考えたら、レイラは恐らく俺がかわしていく最中に、ガイザー・ストーンを撃ってくるはずだ。


「あんたは今かわすことしかできない、こちらから行くよ」


 レイラの方から一気に俺に近づいてきた。チャイナドレスの裏地に隠し持っていた扇子2枚を取りだし、ガイザー・ストーンを使う体制に入った。


「しまった! 裏を突かれたか」 

「残念ねぇ。いくよ、ガイザー・ストーン!」


 まさか近距離で、ガイザー・ストーンを撃ってくるなんて……遠距離から出す技と思ったばかりに、俺の読みが外れたか。


「ぐはぁっ!」

「さっきはあんたの技で砕かれたけど、今回はもろに当たったねぇ!」


 俺はレイラのガイザー・ストーンを、体全体に受けてしまう。なんて威力だ、正直立ち上がれるかどうか怪しい。


「期待外れにも程があるよ、虹髑髏に反逆してるあんたがこんなに弱かったなんて」

「うっ……」

「ではとどめだ、影地令!」


 レイラはまたしても扇子を俺に当てに来た。しかも、今まで投げてみたものと比べて、格段と回転速度が上がっている。本当にこの一撃で、


「これまでか……すまないな菜瑠美……大和田さん……柳先生……」


 立ち上がるか怪しい俺は、避けるのことも困難だ。これは、レイラの強烈な扇子に確実に仕留められる。

 菜瑠美、大和田さん、柳先生、そして俺。4人分を背負って戦ってきたのに、1人の女相手にここで俺は、倒れてしまうのか。


「では死になさ……何?」


 後ろから、レイラの扇子に負けない速さの何かが、通り過ぎていった。その何かは、レイラの扇子に縛り付けた。


「なんなの、この薄暗い色の糸は?」

「こっ、これは闇の糸?」


 菜瑠美の技である闇の糸が、縛られている扇子を上空まで投げつけていった。俺は強力な扇子に、当たらず済んだのか。


「はぁっ……はぁっ……間に合いましたね、つかさ」

「菜瑠美! 来てくれたのか!」


 俺はすぐ後ろを向き、菜瑠美の姿を確認した。なんとか俺は、絶体絶命の中で間一髪、菜瑠美に救われたようだ。

 菜瑠美は、濡れてた制服から替えの服に着替えていた。しかしその服は、露出度があまりに高すぎる格好であった。巨乳であるせいで、余計反則的に見えてしまう──

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