3-9話 追手

 ──柳先生と大和田さんの秘密を知ってしまった以上、俺と菜瑠美も色々明かさないとな。


 俺の担任である柳先生と、その甥にあたる生徒会副会長の大和田さんが、海の一族と名乗る能力者であることを、菜瑠美の口から明かされる。

 武術の達人でもある大和田さんから、俺と菜瑠美の強さを試したいと言われ、大和田さんの家に向かうことになった。

 よく考えたら帰宅途中に、1年生の男女と2年生の男子が、教員の車の中にいるなんて、普段ならあり得ない話だ。


「生徒3人が教員の車に乗るって、他の校内の関係者達に怪しまれないですか?」

「大丈夫よ。車に乗る前に、誰もいなかったでしょ」


 そういう問題ではないと思うのだが、俺には抵抗がありすぎるぞ。もしこれが大和田さんの家ではなく、柳先生の家だったら、菜瑠美から説得されても何があっても断ってた。


「君達に興味が沸いた理由の1つとして、この前退学となった豊四季が寝ていた時に、何か君達にを持ってると感じたんだ」

「私とつかさの『力』を察したということですね」


 大和田さんは先週の時点から、既に俺と菜瑠美のことに気付いていたのか。あの時は『力』を使い終えて、結構時間が経過していたのに。


「いきなりで申し訳ないですが、今から私の持つ『闇の力』を少し見せます。つかさも『光の力』を見せて」

「あ、ああ。わかった」


 菜瑠美に出せと言われたため、俺と菜瑠美は手のひらに眠るそれぞれの『力』を、柳先生と大和田さんに見せつけた。

 車の中にいるから、ほんの僅かしか出せないけどな。どんなものか見せるだけなら、これくらいで十分か。


「まさか……君達が本当にこんなものを持っていたとは」

「これがあなた達の『力』……影地くんはで、天須さんはをしてるわね」


 大和田さんは俺と菜瑠美の『力』を絶賛し、車を運転していた柳先生も、その『力』を釘付けしていた。


「そういえば影地くん。あなた入学式の時、遅刻ギリギリで来てたわね。それって天須さんと何か関係があったの?」

「そうです。入学式の前に菜瑠美と逢って、今の『力』を手に入れました」


 さすが柳先生……入学式の遅刻回避のことを突っ込んできたか。これはもう、隠し事はできなさそうだ。


「つかさが巻き込まれた理由は全部、私にあります!」


 菜瑠美が俺と柳先生の話に、割って入ってきた。まさか菜瑠美……譲渡方法は俺にキスをしたって言いそうだな。


「私は入学式の前に、豊四季さんと同じ組織に属する2人組に追われ、誘拐されそうになりました。そんな私を救ってくれたのがつかさでした」

「へぇー、影地くん正義感あるのね」

「さ、さすがに同級生の女の子を、ほっておくわけにはいかなかったからな」

「元々、『光の力』も私の物でしたが、特殊な手段を使って、『光の力』をつかさに譲渡しました」


 菜瑠美は、少し顔を赤くして俺を見てるな。キスを特殊な手段と置き換えて言っただけで、俺はすごくホッとした。

 さすがに運転中の柳先生の耳にキスをしたなんて言ったら、驚きの反動で事故を起こしそうだな。



◇◆◇



「着いたわよ、影地くん」

「ここが……大和田さんの家の入口?」

「どうやら看板から見た限りでは、お寺みたいですね」

「そうだ、俺の実家は寺だ。すまないが、もう少し歩くぞ」


 海神中央高校から車で約20分、俺達は大和田さんの家の入口に到着した。

 入口と言っても、この先にはまだまだ距離のある通路だ。仕方ない、もう少しの辛抱だ。


「久しぶりに来るわね、この場所」

「俺が赤ん坊の時から、ずっと俺の家で修行をしてきた。今も学校帰り、に毎日修行している」

「耕ちゃんは高校を卒業したら、この寺の後を継ぐ予定だものね」


 毎日修行をしていれば、海神高最強と他の生徒から言われても文句はないよな。既に、将来が決まっているのも羨ましい限りだ。


「どうしたんだ菜瑠美?」

「……後ろから、何かが来ます」


 俺達は、大和田さんの家の長い入口を潜ろうとするが、菜瑠美が何かに気が付いたようで一瞬止まっていた。

 でもこんな静かな場所で、人の気配も全く感じないし……一体何が来るんだ?


「皆さん、危険です!」


 菜瑠美の合図によりわかったが、この道は車両の通り抜け禁止であるのに関わらず、突然赤色のトラックが俺達に向かってきた。


「いきなり何なの?」

「こんな所にトラックが突っ込むなんて、前代未聞だぞ」


 トラックは俺達を引く寸前に急ブレーキを踏み、乗っていたヘルメットを被った男3人がトラックから降りてきた。

 男達は、プラモデルらしきマシンガンを俺達に向けてきた。


「そこまでだ。影地令、天須菜瑠美、海の一族の末裔共。貴様らは、我ら虹髑髏の幹部の命令により、学校から出た時から追跡してきた」


 よりによって虹髑髏が、俺達の車を尾行していたなんて。それに、誰もがおもちゃだとわかるものを向けるなんて、こいつらの精神年齢は子供か?


「どうやら、俺達をずっと車で追いかけたようだな」

「私達のことを尾行してきたなんて、とんだ悪い子ね。あなた達が生徒だったら、即退学処分よ」


 俺達を学校から尾行してただけあって、本気で狙ってきてるようだな。なんて奴らだ。


「今ここで、貴様ら全員を始末する。俺達と同じ第1部隊の探り屋・豊四季を少年院に行かせたのだからな」


 豊四季の敵討ちって訳か、しかも束で来やがった。奴らは3人だし、こっちは4人。人数だけなら俺達の方が有利だ。

 だが今の俺は、奴らを倒す気でしかない。俺1人で2人相手にしてもいいくらいだ。

 戦闘体勢に入ろうとした俺だが、大和田さんが俺と菜瑠美の前に手を出してきた。


「いいや、ここは俺とたかこおばさんにやらせてくれ。俺んちに迷惑かける奴は、誰であろうと容赦しない!」

「耕ちゃん、その言い方は……ここは学校じゃなかったわね。教師になってからこの『力』を使わなくなったけど、今はやるしかないわね」

「それに令くんと天須さんの前で、俺達海の一族の強さを見せつけたいしな」

「でも……今は、俺達の方が人数的に不利だ。これじゃ2対3になってしまう」

「つかさ……今は2人に任せて、私達は下がりましょう」

「仕方ない……俺は2人がピンチになった時に、駆けつけるか」


 準備万端だったのに、大和田さんに止められたし、菜瑠美からも下がれと言われてしまう。ここは大和田さんと柳先生に任せよう。

 海の一族はどれ程の強さなのか、拝見するのもいいか。だが大和田さんと柳先生。俺の光と菜瑠美の闇があることだけは、覚えてほしい。


 俺達4人の『力』で、奴らを大和田さんの家から追い払ってやる──

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