3-8話 海の一族
──新たな勢力の存在を知るとはね、しかも校内の中に。
2019年4月20日12時30分
今週の学校も、あと3時間で終わる。また今週も、俺の周りに何かが起こるかと思ったら、案外平和のまま過ぎていったな。警戒していた虹髑髏とも一切関わらなかったし。
先週編み出した、新技の
あいつ、俺のお願い事を親切に聞いてくれたし、本当に改心したんだなと。
「なあ令、君はゴールデンウィークの10連休中は何か予定あるのか?」
「別に、10日間全て決まってないよ」
俺は昼休み中、カズキと昼飯を食べながら、ゴールデンウィークの話をしていた。
そういえば今年は10連休だったな。しかもその間に、元号が平成から令和へと変わる、歴史的な連休だ。例年のゴールデンウィークとは全然違うんだよな。
あるとしたら、今年から俺は千葉県に移住してきたのだから、もっと千葉県の多くの場所を回ってみたいとこくらいかな。あとは、菜瑠美と逢うことと『光の力』の特訓だな。
「確か令って、誕生日が4月30日だったよな。平成最後の日でもあるし、令和が迎える瞬間を僕と君と絵美、駄目元でいいから菜瑠美ちゃんも誘って集まらないか?」
「確かにそういうのは嬉しいけど、その日はなんか1人でひとときを味わいたいんだ」
「そうか。令がその気なら、僕としては残念だ」
カズキに俺の誕生日も覚えられて、自主企画に誘われたことはありがたい。でもその日だけは、1人で落ち着きたいんだよな。
本当俺って、名前と誕生日が運命的すぎるな……。
◆◇
「影地くん、ちょっといいかしら?」
ホームルームが終わり、俺は帰宅しようとした所に、柳先生から突然呼び出された。
「なんですか? 柳先生」
「放課後にどうしても、あなたに話したいことがあるの。悪いけど、一緒に進路指導室まで来てくれるかしら?」
ここ一週間は、校内で悪いことなんて何もしてないぞ。菜瑠美とは少しすれ違っただけで、基本カズキと川間さんとずっといた。生徒からの悪評なんて全くないはずだ。
「どうしたんだい令、柳先生から説教かい?」
「説教ではないと思う。それに、柳先生に言われることに何の心当たりもない。すぐ終わるはずだよ」
「もしかして影地くん、裏で柳先生の悪口言ったのバレたんじゃないの?」
「そんなわけあるか川間さん!」
カズキや川間さんからは少々心配したが、4組の生徒全員の前に言ったことを考えたら、余程俺に何か大事なことを言いたそうだな。
今日は帰りに、菜瑠美と会う約束をしてるのにな。一応、"放課後に柳先生から呼ばれたので会うのに時間がかかる"と連絡をいれとくか。
「何してるの影地くん? 行くわよ!」
「は、はい」
でも、柳先生のあの態度からしたら、長話になりそうな気がしそうだな……。
◇◆
放課後、俺は柳先生と共に、進路指導室に連れていかされた。確かに、今まで何度も柳先には目をつけられていたけど、今回とばかりは何故呼ばれたか全くわからない。
教室で俺を呼んだ時もそうだったけど、柳先生は入学式の時からずっと俺の瞳を見続けていたんだよな。
それと、柳先生からにも俺や菜瑠美、虹髑髏以外の何か強い気を感じるのも事実だ。もし本当に柳先生が能力者であるのなら、先に俺の方から質問をぶつけてみるか。
「さあ影地くん、入りなさい」
「では、失礼します」
進路指導室に呼ばれたってことは、もう進路のことを決め合うとかじゃないよな。緊張しながら、教室の中に入るか。
「つかさ!」
進路指導室に入ったら、菜瑠美が本を読みながら、先に待機していた。
「菜瑠美! どうして君が進路指導室に?」
「実は私も……体育の授業の後に柳先生から、放課後進路指導室に来るよう、言われました」
菜瑠美までも柳先生に呼ばれていたなんて、あまりに意外だった。さっき俺が菜瑠美に連絡したんだから、自分も進路指導室にいると返信すればよかったのに。
「1週間振りだな、影地令くんと天須菜瑠美さん」
「大和田先輩……あなたまでもここに?」
菜瑠美と話していたら、後ろから大和田さんまでも進路指導室に入ってきた。
柳先生はこの3人を集めて、何を言うつもりなんだ?
「実はね、影地くんと天須さん。今日は耕ちゃんからの推薦で、あなた達を呼んだのよ」
「帰宅途中にすまなかったが、君達に確かめたいことがあってな」
「大和田さんが俺と菜瑠美に?」
柳先生ではなく、大和田さんから話したいことがあるなんて。なんだ、確かめたいことって?
最初に会った時こそ、大和田さんの方から何かあったら生徒会に来いと言われたけど、今の俺の方から特別に大和田さんと話すようなことはない。
しかも、今は菜瑠美だっている。菜瑠美の人気を受けて、生徒会入りのスカウトとかの話か?
「すいませんが……私の方から先に言わせて貰っていいですか?」
「いいだろう、天須さん」
複数名いる中で、菜瑠美から先に話しかけるなんて珍しいな。
どうやら菜瑠美も、柳先生と大和田さんの目を見ている。何かを感じたのか?
「柳先生と大和田先輩、あなた達は恐らく……海の一族の末裔ですね」
「!? ご名答よ。まさか天須さんが、私達の正体に気付いていたなんてね」
なんだよ海の一族って。俺と菜瑠美は、虹髑髏とはまた別の集団に俺は目をつけられるのか?
「天須さんがまだどんな能力を秘めてるか知らないが、何故俺達の存在を知った?」
「私の養父から、海の一族の存在を知り、海神中央高校に一族の末裔がいるという情報を聞きました」
「でも、何故私と耕ちゃんであることがわかったの?」
「他の校内関係者よりも強い気を感じ、もしかしたら大和田先輩と柳先生のことではないのでは……と入学式の時からと思いました」
雷太さんが菜瑠美に、海の一族のことを話していたのか。こんな大事な話、俺にも言ってくれればよかったのに。
菜瑠美もさすがだな、柳先生と大和田さんの正体を見抜いてたなんて。
「全ては天須さんの言う通りだ。君達も、特別な何かを持ってるようだな」
「はい……今は言えませんが、私とつかさも今は能力者……とまでは言っておきます」
「菜瑠美、そこまで言うか」
「影地くん」
「は、はい。俺も今は能力者です」
柳先生に変な目で注意されたから、カミングアウトせざるをえないな。
問題なのは、俺が能力者になった理由について聞かれることだ。『光の力』の譲渡方法が、菜瑠美からのキスだなんて、柳先生には口をさけてでも言えないぞ。
「とりあえず事情はわかった、君達の強さを確かめてみたい」
「というわけよ2人共。ここは学校だから無理なので、この後耕ちゃんの家に来てもらうわ」
おいおい突然すぎないか。俺と菜瑠美が能力者と知ったからって、今から大和田さんの家に行くのかよ。
それに、大和田さんは武術の達人だ。『光の力』だけでまともに勝てる相手ではない。
「悪いがお断……」
「私は行きます」
「っておい、菜瑠美」
本当に一族の末裔なのかわからないし、あくまでも俺との関係は先輩と担任だ。
すぐさま俺は、行くのを断ろうとした。だが、菜瑠美が付いていくと言ったあまりに、菜瑠美も行かせないように説得しようとする。
「つかさ……あなたも大和田先輩と柳先生から必要とされてるの。あなたも行かないとダメでしょ」
「……菜瑠美がどうしてもと言うなら、行くか」
「決まりね、私の車で耕ちゃんの家に行くから付いてきて」
逆に俺が菜瑠美に説得されてしまい、俺も大和田さんの家に行くことにした。
菜瑠美は軽く了承したけど、俺は柳先生と大和田さんが、本当に能力者であるとは思ってないぞ。
海の一族……一体どんな『力』の使い手なんだ? 虹髑髏とは何か関係があるのか?
新たな能力者の集団を知ったからには、大和田さんの家に行って、真相を確かめるしかないか──
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