3-3話 こんな時にどうしたら

 ──普段とは何かが違う夜であることは、俺も承知している。


「また来週な、令、菜瑠美ちゃん」

「来てくれてありがとな、カズキ」

「これからも宜しくお願いします、増尾さん」


 俺の家に訪れていたカズキが帰っていった。まさか俺からではなく、菜瑠美の方からカズキを入れてくれと申し出たのだから、一時はどうなるかわからなかった。

 でも、2人はまあまあな関係になりそうだ。ただ、今回知り合ったことにより、本気で菜瑠美を狙いに出そうだな。


「増尾さん……あなた程ではないですが、いい方ですね。友達であるあなたをよく心配してくださるなんて」

「まあな、学校もクラスも同じだと知ったのは、入学式の時だけどな」


 菜瑠美もカズキの評価は割と高いな。でもさっき菜瑠美、と言ったから、受け入れる男子はやっぱり俺だけ……なのか?


「正直な話、私も4です……7組の男子生徒達は一方的に私を狙う人ばかりで、好感が全く持てません」

「まあ言ってしまえば、俺だって菜瑠美と同じクラスになりかったよ」


 7組は塚田程ではないが、菜瑠美からの評判が悪い男子ばかりなのか。それに対して、平和な4組の生徒になりたいと言って貰えるのはありがたいな。


「それに4組の柳先生。体育の授業の担任でもあるのですが……優しいですし、私のことすごく気に入ってるらしいです」

「へ、へぇー。そうなんだ……」

 

 そりゃ柳先生は推定Aカップの貧乳だし、推定Hカップの菜瑠美を気にしているのは当然だ。

 だがな、柳先生は俺には厳しい上に、ああ見えても三十路のおばさんだぞ。怒ると怖いから、菜瑠美も気をつけな。


「そうだ、俺からも菜瑠美に願い事がある」

「つかさからの願い事ですか……お聞きしましょう」


 菜瑠美は少し嬉しそうだ。菜瑠美ばかり色々されっぱなしが続いてるから、俺の方からも1回は聞かないとな。

 入学式の日には、菜瑠美の家に無理矢理連れていかれてるし、今も菜瑠美を俺の家に条件付きで泊めているんだ。

 俺だけでなく、菜瑠美にも関わっているお願い事だ。駄目元でもいいから交渉してみよう。


「俺は日曜日に『光の力』の特訓をしたいから、ここから少し離れた場所に行くんだけど、菜瑠美も一緒に付いてきてくれないか?」

「私にとっては『闇の力』の特訓……ですか。日曜日は丁度予定が空いていましたし、つかさと一緒に行きたいです」


 菜瑠美は承諾してくれた。俺と菜瑠美の目的は学校生活を満喫することではなく、だからな。

 奴らが、いつ俺と菜瑠美を狙ってくるのかわからない。その為には、一定の強さを持ってないと到底無理だろう。


「ちなみにつかさ……場所はどちらでやるのですか?」

「練習するには丁度いいような場所が、千葉県にある」


 俺が『力』の特訓場所として選んだのは、千葉県松戸市にある、21世紀の森と広場だ。

 ネット上で千葉県の公園を調べた所、入園無料で入れる上に、東京ドーム11個分の広さがあると載ってあるこの場所に、スポットライトを当てた。


「ここだったら、海神中央高校の生徒や虹髑髏と遭遇することが少ないと思った、どうだ、一緒に行くか?」

「松戸市ですか……千葉県についても詳しく知りたいですので、一緒に行かせてください」


 決まりだな。あくまでもデートとかではなく、特訓する為に2人で行くことだけは頭にいれないとな。

 21世紀の森と広場の最寄り駅は新八柱駅だから、俺と菜瑠美の最寄りを考えて、待ち合わせ場所は西船橋駅にしとくか。


「では、西船橋駅9・10番ホームの府中本町方面のエスカレーター付近に、10時集合な」

「了解です。つかさ……日曜日は宜しくお願いします」

「あとあまり派手な格好はするなよ、菜瑠美は髪の長さと胸の大きさが際立っているからな」

「わかってます……つかさだけにわかる変装をして来ればいいんでしょ」


 俺だけにわかる変装ねぇ……。まだ制服姿しか見たことないし、菜瑠美の私服がどんな感じなのかは気になるがな。


「色々つかさと話すことができましたし、そろそろ寝たいです」

「なんか俺も、眠くなってきたぜ。でも菜瑠美、父のベッドを貸すのだから、制服で寝転ぶのはお断りだ。服を用意してやるから、その間シャワーを浴びてくれ」

「わかりました、私が入ってる所……覗かないでくださいね」


 誰が覗くか。俺はやるべきことが沢山あるから、そんな暇ないんだよ。

 まずは菜瑠美に着させる服選びだ、俺とそこまで身長差がないのが、救いだな。

 俺のファッションセンスがあるかわからんが、青色の半ズボンと桃色の長袖シャツを用意しとくか。似合うかどうかは、着てみないとわからない。


「菜瑠美、風呂場前に、上着とズボンがかごの中に入ってるから、出たらそれに着替えてくれ」


 とりあえず服装選びは終わった。俺が用意した服を、菜瑠美がどんな着こなしをするのか楽しみだな。 菜瑠美が風呂から出た後は、俺も続けて入りたいから、その間に今日の国語の復習でもしとくか。

 いくら今日の小テストが74点でも、この家の中に満点を出した菜瑠美がいるんだ。俺も菜瑠美に近づいてやる。

 

「見て、つかさ……」


 どうやら勉強中に、菜瑠美が風呂から出たようだ。俺は勉強を中断して、初めて制服姿以外の菜瑠美の方へと見た。


「結構似合ってるな、菜瑠美」

「そうですが……私このようなラフな格好着るのが初めてなので、少し恥ずかしいです……」


 俺の服を借りているからか、恥ずかしいというのもやや納得だ。でも、一定の評価は貰っただけでも俺は満足か。


「つかさ……私は先に寝ます。おやすみなさい……」

「おやすみ、菜瑠美」


 菜瑠美が眠りに就いたか。これで少し安心できたし、俺もシャワー浴びて今日は寝るか。

 明日の朝に菜瑠美は一旦帰るけど、明後日は菜瑠美と松戸市で特訓か。菜瑠美との楽しみは増える一方で、『光の力』の使い加減も考えないとな。



◇◆◇



「ふぁぁぁーあ、朝か」


 2019年4月14日8時15分

 俺は、高校生として初の休日を迎えた。昨日はなんか色々あったから、よく眠れたのかな? でも気持ちのいい朝は素晴らしい。


「ぐぅ……ぐぅ……」


 隣の菜瑠美は……まだ寝ているか。それにしても、菜瑠美のぼやけた寝顔も可愛いな。丁度いい時間だし、俺の方から起こしてみるか。


「菜瑠美ー、そろそろ起きる時間だ……ぶっ!?」


 布団をめくったら、菜瑠美はブラジャーとパンティーだけの下着姿のみで寝ていた。

 菜瑠美は相変わらず、とんでもないことやらかしてくれるな。もし菜瑠美が男であるなら、すぐにでもこのアパートからつまみ出すぞ。

 この甘い俺が貸した、青色の半ズボンと桃色の長袖シャツは足の隣に隠してる。どうせなら下着姿のままで寝ると言っとけよ。


 俺はこんな時にどうすればいいんだよ。菜瑠美に気付かずに布団をかけ戻すか、それとも耳元で菜瑠美を起こすかだ。

 お願いだから菜瑠美。俺の家の中でも、刺激的な行為をするのは勘弁してくれよ……俺の精神的ダメージがきつすぎる──

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