3-2話 菜瑠美とカズキ

 ──俺の家の中に、校内1の美少女が他の男子に知られたら、驚き以外に何があるんだよ。


 色々抵抗こそあったものの、菜瑠美を泊めることにした俺は、今までの人生の中で味わうことのないを体験していた。

 その最中に、私服姿のカズキが俺の家のインターホンを鳴らした。午後の授業を休んだ俺を心配しに来たのであったが、こんな時に来ちゃうのかよ。


「あいつ……何故こんな時に、状況がいくらなんでも悪すぎるぜ」


 カズキを家にいれるのは正直いいんだけど、まず菜瑠美を何処かに隠す必要性がある。


「わざわざ来てくれてありがとう。ちょっと今、手をつけられないことをしてるから、もう少し時間かかる」

「夜遅いんだからはやくしろよ」


 とりあえず、菜瑠美と相談しておいて、カズキに少し辛抱させるか。先に菜瑠美には内緒で、下駄箱に置いてある菜瑠美のローファーを、隠さないといけないな。


「つかさ……こんな時に誰なの?」

「それがな……前に少し話したと思うけど、俺のクラスメイトのカズキなんだ。君は今から彼が帰ってくるまで、この部屋で音をたてないで隠れてくれないか」


 さすがに、カズキを俺の部屋の中に入れさせる訳にはいかないな。きっとあいつも、菜瑠美のファンクラブに入っていそうだしな。


「つかさ……私も顔を出します。あなたの友達であるため、少し気になっていました」

「でもさっき、海神中央高校の生徒に興味あるのは俺だけと言ったよな?」


 菜瑠美は何を言ってるんだ? まさかカズキを取ろうとする気なのか?

 カズキは相当な女たらしだぞ。菜瑠美が中にいるなんて知ったら、カズキは失神してもいいくらいだぞ。

 よく考えたら、菜瑠美が好む感じじゃなさそうだな。俺とカズキの関係は、昔からの友達なんだから。


「菜瑠美が会いたいと言うのなら、仕方ない」


 仕方ないからカズキを、俺の家に入れるか。驚いても俺は知らないからな。

  といっても、僅かな時間しかカズキはいないだろう。ほんの少しだけの辛抱だ。


「せっかく来てくれたんだ、少し中に入ってくれ」

「では、失礼する……っておい令」

「どうしたんだカズキ?」


 玄関のドアを開け、カズキを家の中に入れた。しかし、カズキは何か異変に気付いた。


「君、どうして夜遅いのにまだ制服のままなんだ?」

「そういやそうだったな……実は家に帰ったらすぐ制服のまま寝ちゃったんだよ」


 まずはごまかしから入るか。本当は誹謗中傷の手紙を送りつけた犯人を捕まえて、一度学校に引き返したんだけどな。


「それに令はたしか、家族に女性はいないはずだよね。何故下駄箱に、女性用のローファーがあるんだ?」

「そ、それは……色々理由があるんだよ」


 さすがに俺の家族の事情を知るカズキが、今ここに女性用のローファーがあるのは怪しまれるよな……。

 少なくとも、俺ではなく菜瑠美がカズキを家に入れてくれと言ったのだからな。今の状況だと、俺が攻められても無理はない。


「今の君の家はどんな感じなのかな? ってえーー!?!?」


 カズキが入ったら、リビングに移って本を読んでいた菜瑠美を、5度見くらいした上に近所迷惑のような大声を出した。


「静かにしろ。隣の部屋にクレームかかったら、お前のせいだぞ」

「す、すまない」


 あまりの急な出来事で、カズキは興奮してしまった。俺の部屋の中に、海神校1の美少女がいることを。

 やはりカズキにも目が入ったのは、菜瑠美の豊満な胸だ。本を読んでいるだけにで揺れてしまう胸は、カズキはもう耐えられていない。


「ちょっと待てよ令」


 カズキが玄関前に俺を連れて移動し、菜瑠美には聞こえないように小声で話しかけられる。


「確かに校内でも君と菜瑠美ちゃんの噂が飛び立ってたけど、君の家の中に本当に菜瑠美ちゃんがいたなんて」

「詳しくは言えないけど、菜瑠美とはいいような関係になってる。俺を心配しに来た代わりに、俺の家に海神高の妖精がいることを、他の誰かに言うんじゃないぞ。当然川間さんにもだ」

「わかってるさ。こんなの知ったらまた君は柳先生からトラブルメーカーと言われる始末だし、僕もとばっちりを喰らってしまうよ」


 カズキに軽い取引をするか。交渉成立したのはいいが、本当に守ってくれるのだろうか……。カズキも菜瑠美を狙ってることに変わりはないし。


「あと、もう1つ聞いていいか令」

「ん?」


 今度は何を言ってくるんだ、俺がこの後にやることを言い出すんじゃないよな?


「まさか君、今夜はここで菜瑠美ちゃんを泊めて嫌らしいことするだろ?」


 半分正解で半分不正解だ。こんな安いアパートに、自らの意思で泊めようとするなんて、これっきり思ってないからな。

 それに、真夜中で高校生同士が性的行為なことしてたまるか。ま、菜瑠美側が俺達の年齢を忘れて、やりそうで怖いがな。


「そんな訳あるか、俺達はまだ15歳だぞ」

「それはそうだな。仕方ない、君を信用しよう」


 とりあえず説得したし、リビングで本を読んでいる菜瑠美と再び合流するか。


「すまないな菜瑠美、友達のカズキが来ちゃったもので」

「はっはっ……初めまして、菜……じゃなくて天須さん」


 鼻で笑うしかないぜ。カズキの奴、顔が赤面な状態で菜瑠美相手に、とんでもなく緊張してやがる。


「初めまして、増尾さん。影地さんからあなたのことをよく聞いています。私のことは好きなように呼んでください」

「僕のこと知ってくれてるのか、菜瑠美ちゃん。よかったー、僕が海神校の生徒で」


 オーバーなこと言うねぇカズキ。なんかもう、我慢できそうにないな。

 でも菜瑠美、カズキに対してそこまで嫌気を見せたないな。意外と気になったのか。


「私から、増尾さんに聞きたいことがあります……」

「何かね、菜瑠美ちゃん」


 菜瑠美の方から質問をぶつけるのか。くれぐれも、変な質問はするなよ。


「影地さんの昔から友人とお聞きしましたが、影地さんとはどのような少年期を過ごしていましたか?」

「少年期ねぇ……。令は昔からとにかく、運動能力が優れてた印象はあるな。だがな、女にはモテてなかったが」

「余計なこというな」

「わりぃ、令」

「そうですか……」


 カズキの暴露話を聞いた菜瑠美は、少し下を向いて控えめな顔をしていた。

 それに、俺とカズキが八幡浜にいた時の小学校の女子生徒なんて、指を数える程しかいなかっただろ。デタラメ言うんじゃない。


 なんだかんだいいながらも、菜瑠美とカズキが繋がっただけで、俺から見たら結果オーライだな。菜瑠美に少しでも、俺以外に興味持てる男子はいないとな。

 ただし、俺と菜瑠美が『不思議な力』の使い手であることを知らないままな。この『力』をカズキを始めとした、海神中央高校の生徒達に知れ渡る日も、そう遠くはなさそうだ──

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