第三章 令和へ……
3-1話 お泊まり
──菜瑠美との一晩を過ごすことが、俺にとっての大人への階段を上りそうだ。
菜瑠美の口から、今夜は俺の家に一泊したいともの申され、俺は頭が混乱状態になっていた。
いくら俺宛ての大量にあった誹謗中傷の手紙の犯人が見つかっても、菜瑠美は1週間足らずで、校内に100人以上の会員数を持つファンクラブが発足されている程の人気者だ。
もしも今菜瑠美が、俺の家に泊まってるなんて校内の生徒に知れ渡ったら、今度こそ俺は袋叩きにされるぞ。
「お、俺の家に泊まりたい……のか?」
「だめですか……つかさ?」
「突然言い出すし、いきなり無理がある。それに、雷太さんも心配するんじゃないのか?」
「雷太爺に関しては、既に連絡取っているので問題ありません」
こんなのお断りだ。確かに俺は、菜瑠美の家に行ったことはあるけど、あれは菜瑠美が無理矢理連れていかれたようなものだ。ケースが全然違う。
まさか菜瑠美、俺が学校で柳先生達と話してる間に、もう俺の家に泊まる魂胆だったのかよ。雷太さんにも連絡したくらいだしな。
菜瑠美なんて、今制服しか用意してないだろ。おまけに、パンストもまだ豊四季に破られたまま履いてるし。しかも俺の家の中に、菜瑠美が好みそうな服なんてないぞ。
「そうですか……あなたが、そんな人だとは思いませんでした」
「突然言い出すのはちょっとな、あらかじめ言っておけば問題なかったのだが」
菜瑠美は諦めかけていたが、また俺を試しにこんな質問したのか? まあ俺も菜瑠美と一緒にいたいわけだから、話も多く語りたい。
ここで断ったら、菜瑠美へのイメージが下がりそうだしな……。もう俺はどうなってもいい。
「仕方ない、泊めてやる。但し、俺からも条件がある。朝になったら帰ってほしい」
「その条件で大丈夫です……ありがとう、つかさ」
条件さえ飲んでくれれば、それでいいか。明日は、本当に1人で家の中で休日を過ごしたいからな、
ただ俺が今気にすることは、菜瑠美が思わぬ行動を出しそうで怖い。
菜瑠美の家にいた時に、平気な顔して俺の前でパンスト越しのパンティーを見せた時は、さすがに目を疑ったわ。今でも印象に残るから困ったものだ。
さらに翌日の朝には、起きるそばからブレザーを半着衣のままパンストを履いたりもしたからな。
何かしら俺を興奮させそうな行為をやりそうだから、今日も警戒しないとな。
◇◆◇
「ここが俺の住んでるアパートだ」
「アパートに……足を踏みいれるのは初めてです」
俺は菜瑠美と、全く違う環境で育ってきていたんだ、驚くには無理もないか。それにこのアパートは家賃5万円だからな。豪邸の菜瑠美とは大違いだ。
「ここ、204号室が俺の住んでいる部屋だ。都合よく、父はここずっと出張続きで今はいない」
「それでは……お邪魔します」
本当に父が出張続きの仕事に転勤したのは、俺にとっては救いだぜ。まだ父が帰ってきても、今は菜瑠美の存在は秘密にしておこう。
だがいつ帰ってくるかで、状況が変わってきそうだ。なかなか連絡が来ないのが難題か。
「少し部屋の片付けするから、悪いけど菜瑠美は玄関で少し待っててほしい。女の子に汚い部屋なんて紹介できないしな」
「わかりました。あなたの部屋、どんな所か楽しみにしています」
楽しみって言われてもな。ごく普通の部屋ですよっと。それに、異性の家にいることだけは知ってもらいたい。
菜瑠美に片付けを手伝ってもらうのも考えたが、女の子を泊める側だからさすがに無理がある。
確かに、一緒にやれば菜瑠美が玄関で待機してる時間は短くなるがな。今回は遠慮しておこう。
加えて、見られたくないものだってあるからな。いくら相手が菜瑠美とはいえ、プライバシーに関わるものはしっかり管理しなくては。
「とりあえずこのあたりまでにしておくか、一番問題なのは……」
俺は寝室に移動した。この家にはベッドが2つあるのだが、菜瑠美は父のベッドで寝させるつもりだ。女の子を泊めるんだから、綺麗なベッドにしなくちゃな。
ベッドは隣同士に置いてあるが、まさか菜瑠美……俺が寝てる隙に、俺のベッドに移動してきそうだな。菜瑠美のことだから、やりかねないぞ。
これで家の片付けは終わった。後は菜瑠美を呼ぶ為に、玄関へ向かった。
「片付け終わったぞ菜瑠……なっ!?」
部屋の片付けを終わった途端に、菜瑠美が突然狙ったかのように、俺の前でパンストを脱いでいた。他に誰もいないからいいが、ここは玄関の前だぞ。
「俺の家で、いきなり何してくれるんだよ菜瑠美!」
「これくらい脱ぐことは……問題ないでしょ?」
相変わらず場所をわきまえないな菜瑠美は、俺にサービス与えすぎだぞ。そんなに俺のことを変態だと思わせたいのか?
こうしてる内に菜瑠美は、鞄の中に入っていた予備の褐色のパンストを履き替えていた。当然のように、俺の前で堂々とな。
「私の準備はできました」
「そ、そうか……それじゃ入るぞ」
「では……失礼します」
俺はまだ心の準備が出きてもないのだが。まあ、綺麗に部屋を片付けしたわけだし、俺の部屋に入れさせよう。
「どうだ? 俺の部屋は?」
「結構、良い場所ですね」
良い場所と言っても、水色の清潔なベッドや大型テレビ、パソコンが置いてある勉強用の机とここまでなら菜瑠美の部屋と変わりはない。
菜瑠美の部屋になかったのは、ゲーム機やトレーニング機種、漫画本と結構あるがな。あいにく俺は男なんでね。
学校で会うことなんて滅多にないし、2人で部屋の中にいるのは珍しい。菜瑠美が7組の中でのことについて、話してみるか。いい情報を聞き出せるかもしれない。
「そういえば菜瑠美、国語の小テストは100点満点だったらしいね。頭いいんだな」
「私にとっては……簡単な問題でした」
簡単……だと? 俺なんて74点だったし、全体を見て90点以上は3人しかいなかったぞ。
そういえば菜瑠美は帰国子女でもあったな、もっと偏差値の高い学校に入れる素質があっても、家族の関係で海神中央高校に入った可能性もあるか。
「ちなみに、7組の生徒とは話してるか?」
「いいえ……海神中央高校で興味あるのは今の所つかさ、あなただけです……最近私のファンクラブができたらしいですが、一切眼中にありません」
相変わらず、俺以外の生徒に興味ないのか。ファンクラブを無視できるって、ある意味ですごいメンタルしてるな。
「つかさ……誰か来たみたい」
「ん? もう21時前過ぎてるが、一体誰が来たんだ?」
俺の家からチャイムが鳴った。菜瑠美と一緒にいるというのに、こんな夜遅くに誰だろう? 今日は通販や出前も頼んだ覚えもないし、無視しとくか。
一応、玄関を覗こう。もしかしたら、知っている人かもしれない。最悪虹髑髏かもな……。
「おーい令ー。今日の君、午後の授業休んだから心配しにきたんだ」
カズキだ。玄関のドアを叩きながら、俺がいるか確認している。
確かにカズキと川間さんには、俺の家を教えてはいたが、よりによって今このタイミングで来るのかよ。
いや、菜瑠美が無理矢理泊めてくれと言われたのが元凶だけどさ、俺からしたら、都合が悪すぎなんだよ。
こういう時はどうすればいい? いくら友人とはいえ、今日はアパートから追い出すしかないのか──
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