2-10話(二章最終話) 今夜は……
──思ってないことを突然してくる、それが天須菜瑠美だ。
菜瑠美の
豊四季から受けていた洗脳が解けた塚田は、これ以上俺に危害を加えないことを宣言し、改心することとなった。
「これだけは覚えておけ影地令! 菜瑠美ちゃんを泣かせたら、この俺様が許せねぇ!」
「お前こそ、もう菜瑠美に告白なんてするなよ」
塚田は、菜瑠美を泣かせるなといいながらその場から去ったが、本当に改心するのかこいつ?
何だかんだ言って、塚田との因縁はこれで終わっただけで、俺は満足だ。
「菜瑠美、そろそろ闇の糸で縛られてる豊四季をほどいたらどうだ?」
「わかりました。まだ寝ている状態だと思いますが、ほどかせておきましょう……」
菜瑠美は両手ごと人差し指を豊四季に向け、闇の糸をほどかせた。後は寝ている豊四季を、学校まで連れて運ぶことだ。
だが、俺は運ぶのは無理だぞ。体重は俺と同等かもしれないが、身長が180cm越えてるからな。そして何よりも、戦いで疲れている。
こういう時に、誰か手を貸してくれる人なんているのか?
「よぉ、影地令くんじゃないか?」
俺と菜瑠美の前に、声に聞き覚えのある生徒がやってきた。それは、豊四季を運ぶにはうってつけの先輩であった。
「お、大和田さん?」
大和田さんだった。この時間に生徒会の会議を終えて、下校途中での遭遇だった。
武術の達人であるのだから、豊四季を運ぶのはうってつけだ。丁度いい時に来てくれたんだから、大和田さんに対して、しっかり説得しないと。
「どうしたんだ、こんなところで? ん……1人倒れている生徒がいるじゃないか。もしかして、君達はいじめをしたのか? 影地くん」
「誤解です。むしろ今ここで寝そべってる豊四季の方が、酷いことしたんだ」
「何っ? どういうことなんだ?」
寝ている豊四季を見て、俺と菜瑠美が何か悪いことをしたのではないかと疑っていた。むしろ、俺からすれば被害者の側なんだよ。今の状況だと、俺が悪いことしたと思われてしまう。
「今寝ている理由か……あまりに変態なこと考えていたあまりに、疲れはてて寝てしまったんだよ」
「影地さんの言ってることは本当です……これを見てください、私の履いているパンストを破ったのはそこにいる豊四季さんです。本当です……信じてください」
「これは俺が証人だ、菜瑠美の破られている所を、しっかりその目で見た」
俺と大和田さんの話し中に、菜瑠美が割り込んで入ってきた。どうやら豊四季に、パンストを破られたことを随分と腹を立てていたようだな。
豊四季が虹髑髏の一員であるのは、紛れもない事実だ。さすがに、俺の
「君達の事情はわかった。確かに、女子生徒に対してのわいせつ行為をするのは許せないな」
「お願いします……大和田さん」
「いいだろう、寝ている生徒は俺が学校まで連れていく」
「助かりました、ありがとうございます」
なんとか大和田さんを説得し、豊四季を学校まで運ぶようにお願いした。 俺と菜瑠美も再び学校に戻ることになるが、何か俺大事なことを忘れてたような……ま、俺がいないと、豊四季を退学させる証人がいないからな。
おっと、ペンダントはポケットの中にしまわないと。今の俺にとっては大切なものだし、うかつに付けたまま学校に戻ったら、しばらく没収されるからな。
「この事件も終わったか」
4日間続いた、俺宛ての誹謗中傷の手紙の一件は、単独犯の仕業であることが判明して、無事に解決した。犯人の豊四季も今は見ての通り、菜瑠美の怒りにより、今は睡眠状態のまま。学校着く前に目が覚めたら、3人で総攻撃だ。
それでもまだ俺は、学校にいる間でも油断はできない。豊四季以外にも、虹髑髏の探り屋はいるのかもしれない。奴らは人間の心を操れることもできる、恐ろしい組織だからな。
豊四季は、虹髑髏だと第1部隊の一員と名乗ってたな。部隊長もハイトのように強い上に、豊四季のような暗くて狂気そうな奴だろうな。
◆◇
「影地くん! あなた頭が痛くて、午後の授業休んだでしょ! 何故この時間に引き戻したの?」
「いや……それがもう大丈夫なんですよー。痛みがどっかに飛んでしまいました」
やはりというべきか、柳先生がまだ学校の中に残っていた。そういえば俺、2時間保健室で寝てたんだった。ここは言い訳するしかなさそうだ。
「校内の犯罪者を捕まえたんだし、見逃したらどうっすか。た……いや、柳先生。」
大和田さんまた柳先生のこと、おばさんと言いかけたな。仮にも俺は小テストの効果で、本当は授業受ける気は満々だったぞ。
「仕方ない、影地くん宛ての手紙の犯人を捕まえたから多めに見るわ。これ以上海神高に、退学者・停学者は出したくないからね」
「よかったな、令くん。柳先生もたまにはこういう所もあるんだぞ」
こうして、豊四季は1週間も経たずに誹謗中傷罪と準強制わいせつ罪で、退学と同時に少年院に送られることが確定した。
虹髑髏の一員であるし、俺と菜瑠美を何故狙うか聞きたかったが、校内にいる中では言えることができないよな。でもまだ奴らと接触できる機会は、多く巡ってくるはずだ。
「今度こそ、すぐ家に帰りなさい影地くん。もしくは耕ちゃんも付いていく?」
「俺は大歓迎だぞ、令くん」
「え……遠慮しときます」
確かに大和田さんとは、もっと一緒に話してみたい。でも今日は、昇降口前に待ってる菜瑠美と帰る予定だからまたの機会にしておきたい。
◇◆
「すまないな菜瑠美、ずっと待っててくれて」
「待つことに関しては全然問題ありません、つかさ……あなたの「光の力」は、まだまだ強くなるでしょう」
今度こそ俺と菜瑠美は下校した。謎の頭痛も豊四季の仕業だったとはいえど、俺の中ではまだ頭が痛いぜ。菜瑠美のこと考えすぎか?
やはり明日は、1日ずっと家で安泰かな。国語の小テストの結果がよくても、以降も油断ができない。
今日の小テストの成績を期に、また勉強し直すか。国語だけでなく、全強化をな。
「じゃあ俺帰るわ、また来週な菜瑠美」
気が付けば既に19時を迎えており、俺は菜瑠美に別れの挨拶をする。実際に俺は、午後保健室で休んだのだから、今は気持ちを落ち着きたい。
しかし、菜瑠美は何やらうるうるしい顔をしながら、俺の腕を激しく掴んだ。
「つかさ、今あなたに……1つお願いがあります」
「え?」
今度は一体何なんだ? また顔を少し赤くしちゃって。
とりあえず、お願い事だけは聞いてやろう。ただし、またキスだけはごめんだぜ、今度は『闇の力』も関係してくるからな。
「今夜は……私の家に帰らずに、つかさの自宅で一泊したい。いい……ですか?」
「は!?!?」
急に俺の頭が真っ白になってしまった。俺の家に一泊したいだと?
ありえない話だ。菜瑠美の口から、俺の家に行きたいと言うとは思わなかった。
確かに俺だって、菜瑠美と長くいたいさ。だが豪邸の菜瑠美の家と違い、俺の住んでる場所は家賃5万に、風呂とトイレが共同のごく普通のアパートだぞ。お嬢様の菜瑠美が、一泊するような場所なんかじゃない。
突然言われたから、昨日から家の掃除なんて全くしてないぞ。こんな大ピンチあってたまるかよ。
本当に天須菜瑠美は、口数が少なめな無表情で優しい性格なのに、破天荒な所あるよな。でも俺はこういう所、嫌いじゃない──
第二章・学校までも敵? 完
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