2-9話 光と闇の結界

 ──手を合わせただけなのに、まるで俺も『闇の力』を使えるんじゃないのかと予感がした。


 菜瑠美に手を貸せと言わんばかりに、俺は手を差し伸べた。

 出して少しした瞬間、俺と菜瑠美が出した手の上から、輝くようで暗く見えるような、結界のようなものが出ていた。


「なんだこれは? まるで俺の光と菜瑠美の闇が、混ざり合わせている」

「これが本当のことだったなんて……つかさ、今のあなたが持つ光を試させてもらいます」


 黄色と紫色に染まる、光と闇の結界が何を意味しているのか、俺にはまだ理解できていない。菜瑠美が光を試すといわれたら以上、菜瑠美の闇を信じこむしかない。


「くくく……何をするかわからないけど……面白いことが起きそうだ……塚田くん……一方を狙え」

「わかってるさ……2人の恋仲……これでおしまいにしてやる……」


 塚田がミドルキックを繰り出してきた。だが、光と闇の結界を貼っただけでは、どうしようもないぞ。一方狙うと言っても、明らかに俺の方向で蹴ろうとしている。


「つかさ! 手を離して」

「え? せっかく結界を作ったのに?」


 こんな状況の中で沈着の菜瑠美が言った言葉が、手を離せだと? せっかく結界を使ったというのに、どういう意味なんだ?


「仕方ない、菜瑠美の指示に聞くか。菜瑠美なりの秘策があるはずだ」

「うらぁああ!……なっ?」


 塚田が俺に突っ込むまでに、蹴ろうとしていたミドルキックの足が、俺と菜瑠美が作り出した光と闇の結界の中に入り、塚田ごと結界の中に入っていた。


 確かに俺の『光の力』も重みあるものだったが、菜瑠美の『闇の力』はそれ以上に強い重みが感じたことを。


「つかさ、塚田さんは今、結界の中で封じられてます。あなたは今、豊四季さんに技を」

「わかった菜瑠美」


 これは絶好のチャンスだ! 菜瑠美に嫌らしいことをしておいて、豊四季を許すわけにはいかねぇな。


「豊四季! 今ここで、お前の汚いよこしまな心を成敗してやるぞ!」

「ひぃぃぃい……影地くん待ってくれよ……」

「お前は虹髑髏のくせによ、悪いが言い訳無用だぜ豊四季! 受けてみろ、雷光十字ライトニングクロス!」


 走りだしてから高く飛びあげた俺は、素手でなくかに輝く光で、雷光十字を豊四季に喰らわせる。

 見た目から暗い上に、邪悪な性格である豊四季をしばくには、輝かせた方がいいだろう。あくまでも同級生だから、素手にすると俺が学校にいられなくなるからな。


「くそぅ……だがボクも虹髑髏の一員なんだ、ここでキミなんかに……なっ」

「これは、菜瑠美の糸?」


 悪あがきをやろうとした豊四季だったが、その瞬間に菜瑠美の闇の糸で縛られ、拘束されていった。


「菜瑠美、一体何を?」

「暴行が駄目であるなら、今はこうするしかありません……」

「影地くんだけでなく、天須さんまでも……うぅっ……」


 豊四季の奴、なんか眠りだしたぞ。菜瑠美の闇の糸には相手を縛ることだけでなく、眠らせる能力も持っているのか?

 こんな悪夢みたいな糸に縛られたら、相手も困惑するだろうな。おっと、今は感心してる場合じゃないな。

 虹髑髏の一員であるからか、豊四季にも何か奥義でもあるかと思ったら、使われずに済んだし、全ては菜瑠美に全部持っていかれたか。


「私の糸に縛られたら、豊四季さんのよこしまな心はずっと消えるでしょう……しばらく眠らせて起きます」

「菜瑠美、こんなことしていいのか?」

「今はそうした方がいいでしょう……目が覚めたら、虹髑髏の事情に、詳しく聞き出しします」


 とりあえず、豊四季に関してはこの辺りで終わらせておこう。

 豊四季のポケットの中には、俺宛ての誹謗中傷の手紙が、大量に入ってあった。これで学校まで連れていかせて、証拠も十分揃ってあるから、後は退学処分だな。


 もう1つの問題は、消えた結界の中に閉じこもっていたこのバカだな。今は草むらの下で、ぐっすり寝ていた。


「ぐぅ……ぐぅ……」


 どうやら、塚田も洗脳から解けたようだな。このバカ、意識を戻したのは俺だと知ったら驚くだろうな。でもいつまで寝てるのもあれだし、起こすか。


「起きろよ塚田、早く立ち上がりな」

「ん……俺は豊四季に会ったっきり、何も覚えてな……て、てめぇは影地令! また今日も会うとはな」


 どうやら正気に戻ったようだな。俺はどうでもいいんだが、仮にも塚田とは同級生だ。


「塚田、まずは俺の話をよく聞け。お前はな、今そこで縛られて寝ている豊四季に操られていたんだ」

「なんだと! 俺がこの不気味野郎に」


 塚田も段々事情がわかってきたようだ。でも塚田が、俺の言うことを素直に受け入れるなんて、意外だな。


「そういうことだったのかよ! 豊四季! てめぇはここでぶっ飛ばす!」

「待てよ塚田、まず落ち着けよ!」

「うらぁああああ!」


 自身を利用されていた豊四季を許せないとばかりに、塚田は激怒した。

 菜瑠美の闇の糸で縛られている豊四季に対し、蹴りかかろうとして無理矢理起こそうとした。

 俺は注意をかけるが、今の塚田に聞く耳など全くない。もう塚田のボルテージは最大だ。


「やめてください塚田さん!」

「菜瑠美ちゃん?」


 塚田の愛する菜瑠美の声により、豊四季を蹴りかかろうとした塚田の動きは止まった。菜瑠美に惚れているからやめたのか?

 でも菜瑠美も何故だ? 塚田のことは嫌いだし、豊四季に対してはパンストを破かれるという酷い目に遇われたというんだ。何故ここで止めにはいるんだ。


「確かに豊四季さんは、洗脳された塚田さんはもちろん、私やつかさに対しても酷いことをやりました。でもここで、塚田さんが豊四季さんにとどめを与えたら……塚田さんも豊四季さんと同様、学校を退学されますよ」

「なっ……?」


 菜瑠美の優しい心と必死の説得により、塚田の心が大きく揺れていた。まだ1週間すら経っていない高校生活を、終わりたくなく感じたのかもしれない。


「豊四季は俺に調子こいたことをしやがったが、ここは菜瑠美ちゃんの言う通りだ。とどめを刺したいのも山々だが、今ここで豊四季を殴る理由なんて全くなかったぜ」

「わかってくれればそれでいいのです……」

「現役時代にはシャークと呼ばれた男が、ゴールドフィッシュに変わったもんだな塚田」

「てめぇは黙ってろ」


 塚田もまた、1人の海神中央高校の生徒であることを実感し、豊四季に殴ることをやめた。菜瑠美は塚田のこと嫌ってるけど、心から菜瑠美に感謝しろよ。


「おい影地令!」

「まだ俺に不満あるのか」


 おいおい塚田の奴、まさか最後に俺を八つ当たりするのかよ。正直言ってしまったら、一生豊四季に洗脳されたままでよかったんじゃないのか?


「いや、その……今までお前を攻め続けて悪かった。菜瑠美ちゃんがお前を受け入れる理由がわかったし、お前がいなければ、ずっと豊四季の下僕になっていたかもしれんしな」

「本当に信用していいのか?」

「俺改心するよ、今からもう影地令に対して喧嘩売ったりしないからさー。菜瑠美ちゃんも何か言ってよ」

「……やっぱりあなたは嫌いです」

「ったく、仕方ないからお前を信じよう」

 

 まさか塚田の方から、謝罪の言葉を聞くとはな。これ以上俺に危害を与えないと自ら宣言し、改心することを決意した。

 それと、塚田はバカだし多少は信じない部分もあるが。菜瑠美も相変わらず、険しい顔で塚田を見ているし、直接塚田を嫌いと言ったな。

 いくら改心しても、菜瑠美から見たら好感度は変わらないだろう。


 塚田の洗脳が解かれたとはいえ、たった今塚田や豊四季と戦っている時に、1つ引っ掛かることあった。

 俺は『光の力』しか扱えないはずが、菜瑠美の持つ『闇の力』と共に手を合わせた時に、難なく合体技の光と闇の結界を使えることができ、闇を上手に扱えることができた。


 お互いの持つ『力』は、対となるものだと思い込んでいたが、使思った、例えその『力』が禁断の物だとしても──

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