2-5話 遠距離共鳴

 ──喧嘩とは別のもので再戦するとはね。


 2019年4月12日

 体育の授業か。俺は男子であるからか、同時刻に女子担当となる柳先生でないのが少しありがたい。3日だけで、何度も目をつけられていたわけだしな。

 身体能力こそ自身はあるのだが、それっきりだし、実際はあまり受けたくないんだよな俺。

 団体競技と球技が苦手であるし、何より例のバカと共に授業を受けることが特に問題だ。


「へへへ、また会ったな影地令! お前より俺の方が、運動できること教えてやるぜ」

「……勝手に言ってろ」


 俺達4組は、塚田がいる5組と共に授業を受けることになる。だが塚田、この時間が体育の授業だっていうのを忘れてないか? 

 昨日、菜瑠美に振られた上に、正直な気持ちで嫌いと言われた奴が何を言ってるんだよ。それで何故あんなにはしゃげるんだ?

 とにかく絡まれると厄介な奴だから、塚田とだけはすぐさま離れて欲しい。一昨日の私怨や昨日の菜瑠美の告白があるから、本気で学校から消えて欲しいぜ。


「5組の危険人物はまあ塚田だけでいいだろう。ん……なんだあの生徒は?」


 塚田以外にも、5組に少し気になる男子が1人いた。体操着を忘れたという理由で、見学扱いとなっているが、見るからに運動できそうにないオタク風の男子だった。


「なあカズキ。見学席にいる長身で細めの眼鏡の男子、すごく暗くないか?」

「令もあいつの暗い感じと思ったか。彼は豊四季とよしき裕太ゆうたと言って、僕の隣の中学校にいた男子だ」

「豊四季ってそんな話題になっていた男子なのか?」

「ああ。僕らの学校の中でもとんでもなく不気味な奴と言われ、近づくと呪われるという噂もあった程だ。」


 豊四季は他校でも、悪い意味で有名人だったのか。暗いキャラってあまり絡みたいタイプではないが、怪しい行動をやりそうな男子だから、少し警戒しないとな。



◇◆◇



「ではこれより、君達には50m走をやってもらう」


 体育最初の授業は50m走か。俺は瞬発力には自信があるし、一発目から得意分野で助かったぜ。

 最初が肝心だからな、俺が運動できるんだぞと証明したい。


「まずは先生の選抜により、4組から影地令」

「俺?」


 いきなり俺が走るのか。トップバッターだし、速く走れるお手本でも見せるか。


「5組から塚田武雄」

「おっす!」


 嘘だろ? あの五月蝿い塚田と競走すんのかよ、あいつとは『光の力』で懲らしめようと思ったのに。


「こいつは願ってもないチャンスだ、お前より先にゴールしてやるぜ」

「静かにしろよ塚田、走る前には集中したいんだ」

「おいおい考え事か影地令? もしやお前、菜瑠美ちゃんのこと妄想してんのか?」


 相変わらず騒がしい奴だな塚田は。こいつとだけは、共に走りたくないと願ったのに……ここは己の足を信じるしかない。


 塚田と共に走るからになったからには、全力で行くしかない。逆に手加減をしてゆっくり走ると、『お前力を抜いただろ』と塚田が煽ってくるだろう。

 スタートの合図をする5組の生徒も、小さな頼みだ。俺と絡みがないために、塚田に一方的な有利を取る可能性もありそうだ。

 俺はクラウチングに対して、塚田はスタンディングか。体勢も違うだけに、どうなるかわからなくなってきたな。

 

「位置についてー、よーい」

「へへへ」


 塚田の奴、走る前から挑発してきそう顔しやがって。この顔を今後できないような走りをしたい。


「ドン!」

「先は貰ったぜ!」


 しまった、最初は塚田にリードを許された。さすがにキックボクサーだけあって、瞬発力は高いな。

 それでも俺は必死に塚田を追いかける、だが40m過ぎても塚田を抜けることができない。


「これでも全力なんだ……ん? なんか知らんが俺、より速く走れそう?」


 ここまで来ながら、俺は何かの『力』が沸きはじめた。

 だがゴールまで後5mしかない、なんとか塚田にくらいついてはいるが、僅な距離の中で俺は抜けるのか?


「おおおおお!」

「なんだと?」


 俺は雄叫びをあげ、最後の最後で塚田と並ぶ瞬間にゴールの白い線を踏み入れた。


「はぁはぁ」

「ぜいぜい」


 2人はほぼ同着でゴールした。一体どっちが勝ったんだ?

 俺からはどっちが勝ったのか判断できない。これはタイムの発表次第だな。


「塚田武雄、6秒79!」

「おらっ、なかなかいいタイムだ」


 6秒8を切ってきたか、さすがに塚田も足速いな。俺はどうなったんだ?


「影地令、6秒77!」

「嘘だろ!? この俺が……負けた……」

「俺の……勝ち?」


 先生の発表により、僅か0.02秒の差で俺が塚田より先にゴールした。

 でもこれはただの授業の一環だ。1回塚田に勝利しただけで、素直に喜べる気分じゃないだろう。


 だが途中までは俺の劣性だったのに、最後の最後で競り合いでなんとか勝利できたのは何故だ。

 ひょっとしたら『光の力』に逆転の効力もあるのか? と手のひらを見つめた。まあ今は、多くの生徒達がいるから出せないけどな。


「おい影地令!」


 塚田のバカ、負けたのに偉い態度でかいな。もう無視だ、バカが移るだけだ。


「スピードでは今、僅かに俺様に勝ったと思ってるかもしれないが、喧嘩じゃてめぇに負けねぇ」

「……別にお前より上と思ってない」


 僅かなんかではない、0.02秒の差なんて同等に等しい。次塚田と走ったら、負けてるかもしれない。同等だと俺は思ってるさ、

 塚田の口車に耐えながらも、スタート地点に俺と塚田は戻る。

 ただ歩いてる時、グラウンドの近くにある科学実験室で、何かの人の気配を感じた。


「……菜瑠美?」


 間違いない。これは生物学の授業を受けていた菜瑠美が、俺を見ていたような感じがした。

 もしかすると僅かな差で塚田に勝てたのは、菜瑠美の『闇の力』による祈りで、俺を陰ながら見守っていた……のかもしれない。

 俺の光と菜瑠美の闇は一心同体なんだな。俺と菜瑠美が近くにいなくても、どこかで念いは共鳴している。これだけは断言したい。


 しかし歩く度に、菜瑠美以外の強そうで怪しい気配が感じた。この気配は一体……。


「……影地……令か……」


 ひょっとしてこれは豊四季の気配か……俺のことじっくり見てるしな。雰囲気的にも、菜瑠美とは違う闇を持っていそうな感じがする。

 あいつが何者なのか知らんが、呪いなんてしたら『光の力』で成敗してやる──

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