2-6話 突然の痛み
──突然発生するものは、恐ろしいことである。
2019年4月13日
今日で高校生最初の1週間が終わる。明日は初の休日なのだが、どうするかそこまで考えていなかった。
もしもあるとすれば、海浜幕張まで行って菜瑠美と会って、誰もいなさそうな場所で互いの『力』の特訓をするかのだな。これは菜瑠美の了承次第だがな。
ただ、今日中にどうかしたいのは、未だ俺の元に何件も届く、この誹謗中傷の馬鹿げた手紙だ。
いつどこで何が目的で送り続けているのか、未だ理解できない。今日こそ、放課後は残り続けて、犯人を取っ捕まえてやる。
3限目が始まる前に5組の生徒同士が、とある話をしていた。しかも愚痴のような感じで。
「今日、あの塚田が欠席するとはね」
「なんかあいつ、7組の有名人・天須さんに振られたせいで、他の女子からの好感度も下がったらしいな」
「塚田はもったいないよな、キックボクサーで将来食べていけたのに、あんな性格だから嫌われたりするんだよ。あっはっはっ」
塚田の奴、今日学校休みなのか。これ以上関わりたくないし、もうどうでもいいか。他の生徒に愚痴言われるのは無理もないか。
あのバカ、一昨日菜瑠美に振られたことだけでなく、昨日の50m走で俺に負けたショックがあるんじゃないか? 確かにかなりの負けず嫌いだし、あり得ない話ではない。
でも、今日塚田がいないだけで、少し廊下が平和になりそうだ。無理に騒ぐこともあるからな。
そんなことより、今は塚田よりも一昨日の国語の小テストが帰ってくる日だ。
何だかんだいって、ほぼ閃きで答えていたから、高得点の自信はない。結果が帰ってくるこの日が、地味に怖かったりもする。
別に俺は、学年の中で勉強が1番になろうとなんて、更々ない。ここにいるカズキや川間さんより少し点数が高ければそれでいいか。
◆◇
国語の授業が始まった。俺が高校生になってから本当に、頭がいいのか悪いのかがわかる時が、刻々と訪れる。
「授業を始める前に、一昨日の小テストの結果を返すぞ」
続々と出席番号順に結果を返された。中には手に頭を抱える生徒も何人かいたから、点数がよっぽど悪かったんだろうな。
「次、影地令!」
「はいっ」
ついに俺の名前が呼ばれた。いくら小テストで枠を全部埋めても、本当に低かったらどうしよう……。
「なかなかだな」
「え?」
なかなか? 結構よかったのかと、点数を見たら74点だった。
しばらくは何も勉強してなかった俺が、ここまで取れたのは上出来だろう。
「君はもう少し頑張りなさい」
「はーい」
どうやら川間さんは、かなり点数悪かったようだな。空欄も目立ってたし彼女の性格もあるから、点数を聞くのは控えた方がよさそうだ。
「何の予習もなしでの小テストの中、4組のクラスの平均は63点だ」
63点か……まあまあな点数だな。俺もこれくらいの点数だと思ってたが、平均より11点高かったなんてな。
「ずば抜けて高い生徒はいなかったが、低すぎる生徒もいなかった。私が受け持っているクラスの中では、最も大小が少ない結果となった」
そういう発言をしたと言うことは、もしかして俺はクラスの中では上の方では? と勉学に自信を持ったが、まだまだ油断してはいけない。
これはあくまでも運河先生からの、高校生になった俺たちへの挑戦状だ。
「だが他のクラスの中で、この小テストが突発だったにも関わらず、100点満点の生徒が1人出ている。そこまでなれとは言わないが、中間試験ではもっと学力が上がっていることを期待してるぞ」
こんな一発勝負な小テストだったのに、満点出した天才がいるのかよ! 正直、ここよりももっと偏差値の高い高校に行けただろ。
満点がいたことを考えたら、今の俺の良いと思った74点が霞んでみえるな。勉強にも力を入れないと。
◇◆◇
少しでも学力を上げるために、今日の俺の昼休みは図書室で過ごすことにした。
図書室へ向かう途中で、掲示板の中に今日返ってきた小テストの成績上位者の張り紙が貼ってあった。満点者もいるみたいだし、立ち寄ってみるか。
「こっそり下の方に、74点だった俺の名前があるな」
意外なことに、俺の名前も掲載されていた。俺が勉強できる証と思ったが、その喜びはすぐに消えてしまう。
「ん……"100点・天須菜瑠美"?」
正直、声が出る程驚いたぜ……満点を叩き出したのが菜瑠美だったとはな。可愛い上に勉強もできるなんて、これはファンクラブの会員数はまたもや急増しそうだな。
改めて思うと、菜瑠美の部屋は難しい本ばかりだったし、勉強できるのは当然の結果か。
菜瑠美が頭脳明晰であるのなら、俺に勉強を教えてほしいぜ。
これでまた俺にとっての目的が1つ出てきた。それは勉強で菜瑠美に勝つことだ。今は無理なことかもしれない……でもいつか必ず追い付きたい。
「ん……? なんだ?」
どうしたんだ急に……いきなり俺の頭がズクズクッと痛くなってきた、一体どういうことだ?
こんな緊急事態では、今は図書室ではなく保健室に行こう。こんな急に痛むことなんてあるのかよ? ふざけるな。
◇◇◆
「影地くん、私がこの時間空いていたことに感謝しなさいよ」
保健室についた俺だが、そこには天敵の柳先生が待ち構えていた。
あいにく、本来の保健教師は午後に予定が入っていた為に、養護教諭免許も持つ柳先生が、代理に勤めてた訳だ。
「すいません柳先生、急に頭痛起こしたりして………」
「あなたもしかして、授業をサボる魂胆じゃないでしょうね。私にはわかるのよ」
「そんなことないですって」
「まあいいわ、5限目はベッドで落ち着いていなさい」
今はそうでもなくなったが、あの痛みは尋常ではなかった。こんなこと勃発に起きることなのか?
痛みが起きる前はいたって平常だったのに、正直いってしまえば何がなんだか俺も全く理解できない。
もしかしたら『光の力』に隠された能力が……だが右手が輝いてない為、自身の『力』の影響ではなさそうだ。
あーあ、カズキや川間さんはともかく、菜瑠美でも来てくれないかな……全員授業中だから無理か。そもそも俺は入院患者じゃないか。
仕方ないから、柳先生の通りに、この時間はゆっくりしてるか──
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