2-3話 理想の先輩

 ──頼りがいのある先輩と遭遇した。


 職員室に向かう途中、菜瑠美を狙っている隣のクラスの暴君・塚田武雄に突然、喧嘩を仕掛けられてしまう。

 塚田がバカだからか知らんが、自慢の塚田スペシャルを受ける前に、1人の男子生徒が俺を止めに入ってきた。 


「なんだお前? 俺達の喧嘩に入ってくるなよ……お、大和田おおわだ耕士郎こうしろう?」

「ほぉー。それに歳上の人間に対して、お前や呼び捨て呼ばわりか?」


 俺と塚田の間に割り込んで入ってきたやや体格の良い生徒は、2年生の大和田耕士郎さん。入学式の時に、在校生代表として挨拶をした、生徒会の副会長だ。

 まさか学校内で権力のある先輩が、俺達の揉め事を止めに入るなんてな。


「お前は、俺がジムに通っていた時に知人から、『海神校の大和田は強すぎる』と語り草になってたんだ。まずは、その足を離せよ」

「随分と有名人になったな俺も、今年の新入生に、こんなろくでなしが入ってきたとはな」


 大和田さんは、その場で塚田の足を離した。さすがの副会長だけあって、校内暴力はしてこない。


「ここは学校だ、君を相手にしてる場合ではないんでね。その1年生から離れて、自身の教室に戻れ!」

「ちっ。覚えてろ影地令、次はお前を潰す!」

「お前みたいなタイプのバカとは、二度と関わりたくない」


 大和田さんの一喝により、キックボクシングを極めたあの塚田が恐れ、捨て台詞を吐きながらこの場から去った。

 俺は塚田スペシャルを受けずに済んだのはいいが、もうあんなバカと関わるなんて御免だぜ。


「大丈夫か令。それにしても、相変わらずとんでもない奴だな塚田は」


 喧嘩を見ていただけのカズキもひやっとしていた。お礼を言いたいのは、隣にいるこの人だ。


「俺達の揉め事を止めに入って、ありがとうございます」

「別にお礼なんていいさ。俺は生徒会役員である以上、当たり前のことをしただけだよ。影地令くん」


 俺の名前を知っているのか……菜瑠美と共に、俺もすっかり1年生の中では有名人になったようだ。

 大和田さんはすごい威圧感を持っていた。でもこの青い瞳……誰かに似てた気がするな。


「影地くん、またあなた何かやらかしたの……ちょっと、耕ちゃんまで?」


 現場が騒がしかったからなのか、柳先生まで現場まで現れた。どうやら、柳先生が大和田さんのことをあだ名で呼んでいるから、学校以外での顔見知りなのか?


「彼がが言ってた、新しいクラスの生徒ですか? 噂通りのいい顔してますね」

「耕ちゃん! あなたいくら私の甥だからといって、校内で私のことおばさんと呼ぶのはやめなさいと、あれほど言ってるでしょ!」

「すまない……校内で禁句であるとすっかり忘れてしまった」

「次おばさんって言ったら、あなたの立場の座を剥奪よ」


 柳先生と大和田さん、親戚繋がりだったのか! 通りで2人の目がそっくりだったということか。にしても柳先生が若く見えるから、姉弟に見えても不思議でもないな。

 なんか、大和田さんが柳先生のことをガチでおばさん呼びをして、心の中で思わず笑ってしまった。

 とりあえずほっとしたのは、大和田さんは俺に強い敵視を持っていなかったことだ。副会長に好感を持てなかったら、心の痛みをより強くしてしまう所だった。


「影地令くん。もし今日みたいな喧嘩事があったら、いつでも生徒会まで来てくれ」

「令、なんか巻き沿いになってすまなかった。僕も先に教室に行く」


 大和田さんとカズキとは一旦ここで別れ、喧嘩を見ていた生徒達はそれぞれの教室へと戻っていった。

 今日も俺は、柳先生に目をつけられてしまった。だが今回は、突然俺に手を出してきた塚田が悪いんだ。俺は何も悪くない。


「影地くん、威勢の良い生徒に絡まれて……さっきのが私の生徒だったら、即退学にしてたわよ」

「ですが、大和田さんが来てくれたら助かりました」

「まああいつは正義感は強いし、2年生ながら海神校最強の男と唱われるからね」


 柳先生の話によると大和田さんは、空手・ボクシング・太極拳・ムエタイ等、10種以上の格闘技を修得している武術の達人で、学年の成績も、常に上位に位置する文武両道でもある。

 生徒や教師からも支持も厚く、次期生徒会長候補と噂される程だ。誰もが認める、海神中央高校最強と言われても文句はない。間違いなく大和田さんは、俺の理想の先輩だ。


「はい、影地くん。何故このようなこと起きたの? あなたにも害はあるはずよ」


 俺は今回、完全な被害者なんだが、勝手に害悪扱いするなよロリ顔三十路教師。それはともかく、しっかり説明しよう。


「柳先生、これを見てください。上履きのロッカーに置いてあった、俺への手紙です」

「これって脅迫状じゃない? どうしてこんなことが起きたの?」


 これ以上に誹謗中傷の手紙をなくしたいためにも、重大な事態だけ隠して菜瑠美の名前を柳先生に出すしかない。


「昨日菜瑠……じゃなかった、7組の天須さんと一緒に帰ったせいだけで、このような手紙が続出しました」

「天須さんねぇ……何か校内で噂のすごく胸の大きい女子生徒らしいね」


 柳先生は自身の胸を気にしながら、菜瑠美のことを思い浮かべていた。察しがいい柳先生は、俺に変な目を見せてきた。


「まさかあなた、天須さんに泣かせたりしなかった?」

「お、俺が女の子にそんなことするわけない」


 実は泣かせてるんだよな……俺と菜瑠美は学校だけでなく、犯罪組織にも狙われてることも。


「まあいいわ。この手紙に関しては、上からにも報告するわ」

「ありがとうございます! 柳先生」

「影地くん、気を取り直して。ホームルーム始めるから席つきなさい」


 さすがに生活指導者でもあって、こういう時の柳先生はしっかりしてるんだな。

 しかし、ホームルーム中に気なんか戻せるのか俺は? 昨日のこともあって、ストレスが限界に等しい。

 今回の塚田だけに限ったことではない。菜瑠美を好意に持つ一方で、俺を敵視する同級生がまだ数人出てくるはずだ。4組の中にだっているのかもしれない。

 後、気になるのが昨日ハイトが言っていた、この学校に虹髑髏の探り屋がいるということだ。塚田以外にも、無駄に俺を敵視する奴こそ、怪しまないとな。


 明日からは授業が始まる。科目によっては、他のクラスの生徒達と共に受けることもあるから、移動中はいちゃもんつけられないように気をつけないとな。


 天須菜瑠美の心を掴めているのは、海神中央高校の生徒でも虹髑髏の奴らでもない。この俺・影地令だということを──

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