2-2話 シャーク塚田

 ──何か、キックボクサーのやべー奴に絡まれた。


 海神中央高校2日目の登校は悪夢にしかすぎなかった。俺の下駄箱のロッカーには、大量の誹謗中傷の手紙が入っており、書いた奴らへの憎悪がたまらなかった。

 今日は学校に来て正解だったな。もし体調不良で菜瑠美の家で休んでいたら、明日以降の誹謗中傷の手紙がもっと増えて、俺自身もさらにエスカレートしてたかもしれない。

 まずはこの紙を柳先生に見せよう。但し、菜瑠美と一緒にいたことだけは隠しておかないとな。

 激しい怒りを現してる俺に、後ろから肩を叩かれた。もしや手紙を書いた奴かと、警戒を抱いた。 


「おはよう令」

「影地くん! 昨日のことはしっかり聞かせてもらうわよ!」


 なんだ、誰かと思えばカズキかよ。驚かせやがって。

 しかも川間さんも一緒だ。昨日、俺と菜瑠美を追っていた怒りは、まだ収まってなさそうだ。


「2人とも、昨日は挨拶できずにすまない」


 先に2人には謝っておこう。まあ、本当に悪いのは勝手に連れていった菜瑠美だから、俺は何も悪くないけどな。


「そうだ令、昨日君が菜瑠美ちゃんと何処かに行った後、校内では君に対する批判が高まってたぞ」

「その事なんだが……カズキと川間さん、これを見て欲しい」


 俺は2人の事は信じていたから、誹謗中傷の手紙を見せた。受け入れたくないけど、これが俺の学校内に対する生徒の評価だ。

 

「何よこれ……確かにワタシも影地くんに念を持ってたけど、これはひどい」

「この手紙を、すぐ柳先生に見せるのか令?」

「ああ、俺は今後いじめに遭われるかもしれない。このような事態が2度と起きないよう、まずは担任に見せないとな」


 柳先生は正直いって苦手だけど、この手紙を見せたら教員が一斉に動くだろう。いじめまで発展したら、学校の大問題だ。


「俺は教室の前に、先に職員室に行く」

「待ってよ令、僕も行くよ」

「じゃあワタシは先に教室に行ってるね。影地くん、カズキ」


 別にカズキも着いていく程じゃないだろ。だがもし俺1人で行ったら、庇える人がいないから逆に助かったかもな。



◇◆◇



「なぁ令、そろそろ俺にだけ話してくれよ。君は入学式前に、菜瑠美ちゃんと逢ってたのか?」

「まあ色々あってな、昨日は菜瑠美を見てないと、嘘を言ってすまなかった」

「別に構わないさ、なんか昨日の令と菜瑠美ちゃん、すごい訳ありだったし」


 俺とカズキは職員室に向かう途中、昨日のことを心配していた。八幡浜にいた時と変わらず、優しいなカズキは。でもさ、菜瑠美のネクタイになりたいと言ってた変態は誰だよ?


「実は俺さ……菜瑠美に……なんだ?」

「大丈夫か令!」


 カズキに俺と菜瑠美との秘密を語っている途中、俺の前に1人の男子生徒が現れた。だがそいつは、突然俺を殴りかかろうとした。


「お前かー! 校内のアイドル・天須菜瑠美ちゃんに対して、いい気こいてる影地令っていう野郎は? 1年5組最強の俺様が許せねーな」


 なんだ、この態度悪そうなスポーツ刈りの痩せ男は? しかも菜瑠美の名前も出してきた上に、殴ろうとした直後にガンまでつけてきやがった。まじでシャイン死ねだな。

 こんなのを、恋のライバルとも思いたくもないぜ。


「お前は一体何なんだ? まさか俺のロッカーに手紙置いた奴か」

「手紙ぃー? 何の事かなー?」

「恐ろしい奴に目をつけられたな令、あいつは塚田つかだ武雄たけお。キックボクシングの15歳以下フェザー級で無類の強さを誇り、"シャーク塚田"と界隈から恐れられ、中学時代では有名人だった男だ」


 カズキの情報によると、塚田はキックボクシング界では、かなりの強者のようだ。


「だがあいつは、手加減無用な強さと気性の荒さが故に、次第に対戦が組み込まれなくなり、キックボクシング界から追放同然のような扱いを受けていた」


 せっかく頂点を極められる実力を持っていながらも、色々勿体ない奴だ。礼儀さえも知らなさそうだしな。

 何せ、初対面の俺に対していきなり喧嘩売ってくるなんて、どう見ても危険人物だから相手にしない方が無難だな。


「へぇー、お前見るからに頭悪そうだ」

「あぁーん影地令? 今お前、俺のことを頭悪そうだと言ったろ。ふざけるな」


 俺に頭悪そうと指摘された塚田は、ワンツーパンチからのラッシュを仕掛け出した。2日目の高校生活で、早速暴力行為かよ?

 変な奴相手に手なんか出したくない俺は、塚田のラッシュ攻撃を次々と避けていった。

 

「逃げてばっかいないで、まともに戦えよ影地令!」


 こいつ、停学処分になるのが知らないのか? こんなんで、菜瑠美がお前なんかを惚れるとでも思っているのかよ。

 ハッキリ言ってしまえば、塚田は本当にか? 


「へへっ、壁際までもつれ込んだぜ。これで俺の必殺コンビネーション、通称・塚田スペシャルで、シャーク塚田様の本当の怖さを思い知らせてやる」


 学校内で暴力振るうような能無し相手に、菜瑠美に認められたこの『光の力』を見せつけたいが、こんな所では使えない。

 しかも喧嘩事を駆け付け、俺達の周りに生徒達が集まり、騒ぎが拡大している。


、お前自身が悪いんだぜ!」

「くそっ。俺はこんなバカに」

「令! 友人がピンチの中、僕は見ているだけなのか?」


 何がだ? 笑わせるなよ、お前みたいなバカで粗暴な奴が、菜瑠美に興味を持つ訳ないだろ。

 俺はカズキも見ている中で、仕方なく塚田スペシャルを受けるハメになるのかよ……。まあ、相手がバカなんだし、停学になってしまえば俺は万々歳だけどな。大人しく蹴られても、構わない気で俺はいた。


「校内で喧嘩事はよくないなぁ」

「えっ?」


 俺の前に1人の男子生徒が現れ、塚田スペシャルを難なく両手で受け止めた。どうやらこの生徒、正義感強そうだし、校内での喧嘩を許せない感じでいるな。


 また誰かに助けられるなんて、メンタル弱いままだな……。菜瑠美に対する風評被害がここまで遭うなんて──

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