第二章 学校までも敵?

2-1話 ネクタイ結んで?

 ──俺が学校で待ち受けたものは、予想もしない現実だった。


 2019年4月10日4時5分

 俺は、海神中央高校一の美少女・天須菜瑠美の家で一泊している。

 菜瑠美との出逢いで、『光の力』の譲渡と、大きな宿命を背負うようになり、普通の高校生活を送ることはまず不可能になった。

 そもそも、知り合って今日で2日目にも関わらず、異性の同級生の家に泊まっている時点で、普通ではないのだが。


「んん、まだ4時なのか……変な時間に起きてしまった」


 昨日は入学式でのお偉いさんの長話や虹髑髏との戦いで、疲れは溜まっていたはずだ。ぐっすり寝れて疲労が回復できるものだと思っていたが、そうはいかなかった。

 それに今の俺は、あくまでも他人の家にいるわけだし、寝れる環境も違う。思えば、タクシー乗ってるあいだも少し寝てて菜瑠美に起こされたんだっけ。


「まだ痛みが残る」


 むしろ今は寝不足というより、精神的ダメージが非常に大きい。特にハイトの奥義・パラディドル・アバランチを喰らったのは、半日経った今でも痛みは鮮明に蘇っている。

 菜瑠美の家にいてこう言うのもあれだけど、体調不良で今日学校を休むことを視野にいれた。果たして菜瑠美に受け入れられるかどうかわからないけど。

 今は体の方が大事だ、虹髑髏が今日も俺を襲ってくる可能性もあり得る。誰が何と言おうと、俺は学校に行くのを辞退する。



◆◇◇



「暗かった部屋に灯りが……」


 どうやら俺は、また少し寝てしまったようだ。俺が寝ている間、部屋に灯りが付いていた。


「一体誰が、ん……ぶぶっ!」


 俺が目を開けた矢先には、はだけた長袖ブラウスに、白い薔薇模様のレースのブラジャーを付けた上半身姿の菜瑠美が、寝ていた俺のベッドの側に立っていた。

 運がいいのか悪いのかわからないが、丁度褐色のパンストを履いている瞬間に目が覚めてしまったため、かなり恥ずかしい顔をしている。こんなの吹く以外に、どうしようもない。

 

「あら、おはようございますつかさ……よく寝れましたか?」

「な、菜瑠美? っておい! 君、どこで着替えてるんだよ!」


 確かに朝の挨拶は重要だけど、俺からすれば"おはようございます"なんかじゃないとツッコミをいれたい。

 俺が起きた所で、下着姿から制服に着替えるとか、デリカシーがなさすぎるにも程があるし、俺にサービスを与えすぎだぞ。巨乳でもあるから、余計反則のレベルだ。


「よかったです……つかさ」

「何がだよ?」

「昨日のあなたのことを考えて、思わず体調を崩したかと思いました」


 こんな菜瑠美のエッチな姿を見てしまったら、体調不良なんて吹っ飛ばしてしまうわ。二度寝する前は、学校を休みたいと思った俺は何処へ行ったんだ?


「あのーつかさ……私の1つのお願い、聞いてもいいですか」

「こ、今度は一体何を?」


 菜瑠美が着替えている最中でのお願いだと? 少し顔が赤くなって照れてる表情だし、また見た目や性格に反した破天荒なことやりそうだから、俺は唾を飲んだ。


「つかさに……私のネクタイを結んでほしい」

「は?」


 冗談じゃない。普通だったら、こういう場面なら逆の立場なはずだぞ! それと、いきなり菜瑠美の方からネクタイ結んでくれと物申すか。


「おい菜瑠美……男が女のネクタイを結ぶのっておかしくないか?」

「いいから……結んでください……」

「仕方ない、高校生になって初めて定期的にネクタイを付けるんだから、上手くできる保証は全くないぞ」


 菜瑠美は、やや恥ずかしそうな顔をしていた。俺はどっかの奥さんかよ。まさか菜瑠美、自身が巨乳であること忘れてないか?


「これでいいか菜瑠美」

「ありがとうつかさ……いい結びしますね」


 なんとか胸に当てずに、菜瑠美のネクタイを結ぶことができた。もし胸に当ててもいいというなら、俺は遠慮なく当てにいってたがな。まあ今は怒られるだろう。

 こんなのカズキからは羨ましがりそうだな、あいつ菜瑠美のネクタイになりたいって言ってたし。


「つかさもはやく着替えてください……私は玄関にいるから」


 ここまで菜瑠美に対する影響力が、俺の中にあるなんてな。今日もまた菜瑠美の家で休もうと思ったはずが、何か元気が出てしまった。

 俺は体調不良を何処かへ飛ばしてしまい、学校へ行くことにした。俺を泊めてくれた菜瑠美に、感謝だな。



◇◆◇



 今日もまたタクシーに乗るとは。でも菜瑠美は何故、タクシー通学を繰り返してるんだ? 芸能人じゃないわけだし。

 いくら家が金持ちとはいえ、雷太さんや義母は反対しないのか?


「菜瑠美、君はしばらくタクシーで学校まで行くつもりなのか?」

「一応そのつもりです……」

「痴漢されるのが怖いからか?」

「そ、それは……確かに怖いです。そのリスクを避けるためにタクシーの方が安全かと」


 タクシーの中で、俺は何を言ってるんだか。菜瑠美自身も、胸の方を見ながら電車通学を拒んでいた。

 まああんな大きな胸と綺麗な脚してたら、高確率で痴漢されそうな、素晴らしい体つきしてるからな。それに、容姿端麗のおまけ付きだ。


「もし……私とつかさで電車に乗った場合、あなたは痴漢から守ってくれますか?」

「そりゃ当然のことだ、俺は君の実質的なパートナーだ」

「私をパートナーとして考えてるなんて……あなたなら私を守ってくれること、信じてます」


 今の質問は俺を試しているのか? 菜瑠美も真剣な目で見ていたし、そうとしか感じられない。

 痴漢なんて世間の敵だ。昨日のデーバみたいに、菜瑠美のような美少女にわいせつ行為するやる奴は、『力』を譲り受けた今の俺が許さない。

 でもこんなこと聞いたからには、菜瑠美は今後俺を家に来ることを歓迎してるということだよな? そうでなければ、俺を家に泊めさせないか。


 そろそろ学校に到着するが、いくら巻きぞいとはいえ、俺がタクシー通学してるのをかなり気まずく感じてしまう。


「菜瑠美、タクシーから降りた後は君とは離れたい。昨日のことを考えて一緒にいるのは気まずい。それに校門には、俺の担任がいるかもしれない」

「でもつかさ……私1人だけでいるとまた昨日みたいに、学校の人達からまた告白されます。私からすれば、つかさと一緒にいると助かります」


 2人の意見か別れてしまったか。今の時間ならまだ生徒達は集まってもないが、俺からすれば曲者が立ち塞がってる。


「柳先生がいなければ一緒に通学しよう。さすがにあの先生の前で、まだ菜瑠美と緒にいられたくない。この条件でどうだ?」

「つかさの条件次第ですね……わかりました」


 あのロリ顔三十路教師に捕まったら、今度こそ俺は説教されそうだ。先生達も菜瑠美の噂は広まってるだろう。



◇◇◆



「よかったですねつかさ……」

「と、とりあえず寿命が縮まずに済んだぜ……」


 校門には、まだ柳先生もいなかったし生徒達も多く集まっていない。俺は無事に、菜瑠美と共に下駄箱まで辿り着いた。


「次は放課後でも……ん、どうしたんだ菜瑠美?」


 菜瑠美のロッカーから大量のラブレターが入っていた。昨日の人気振りからすれば当然の結果か。


「私には今つかさがいます……このようなものは受け入れません」

「そうだな、少しはクラスメイトとも馴染めよ」


 一旦、菜瑠美と別れた俺も、靴を履き替える為に、4組のロッカーに向かった。さすがに菜瑠美と違って手紙なんて届いてないよなと思い、俺はロッカーを開いた。


「え? 俺のロッカーの所にも、大量の手紙?」


 俺のロッカーの所にも、菜瑠美に近い量の手紙が届いた。もしかして女子からのファンレターか? 

 俺は嬉しそうに中身をあけてみたら、それは現実を受け入れられないような文章が俺を待っていた。


「ふざけるなよこれ! 俺に喧嘩売ってるのか!」


 俺の元にはファンレターではなく、『死ね』や『菜瑠美ちゃんに手を出すな』などといった、多数の誹謗中傷の手紙ばかりだった。

 中には脅迫状も入っており、俺は手紙を丸め、書いた奴らにシャイン死ねと怒りをぶつけようとした。


 一体何故こんなことに……まさか昨日菜瑠美に振られた男子達に対する、菜瑠美のことを認めた俺への報復か?

 この学校には哀れな男達が多いんだな。そこまでして菜瑠美が好きで、俺を脅したいのかよ?

 悔しかったらこれを出して見ろよ、と言わんばかりに、俺は誰にも気づかれない程の小さな『光の力』を右手に出し、心の内に怒りを秘めた。


 別に、書いた奴らから嫌わても構わない。今この『力』が持っているからこそ、俺は菜瑠美に認められた1なんだよ──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る