1-9話 禁断の闇と光の存在
──正直、人生で一番緊張する時かもしれない。
雷太さんとの挨拶を終え、俺は菜瑠美の部屋がある2階へと降りた。
どうしてだろう……今俺のハートが凄くゾクゾクする。同級生の女子の部屋に2人きりでいるなんて、一生にない機会だし、気持ちは落ち着かせよう。
「ここが私の部屋です……」
菜瑠美の部屋は、青壁が映える1K程のワンルームであった。
中を覗くと白色の清潔なベッドや大型テレビ、パソコンが置いてある勉強用の机に本棚と、ここまでなら普通の高校生にありがちな部屋だ。
ただテレビなどでよく見る今時の女子高生として考えるのなら、派手な服装をはじめ、ぬいぐるみやアイドルのポスターといったものが見当たらない。部屋の雰囲気もピンクなど明るい色が多いが、この部屋は壁紙通り暗めな青色な印象だ。
本棚の中にあるのも文庫や辞典といった難しい本ばかりで、この歳で漫画や写真集などが一切ないなんて珍しい。
「意外と狭いんだな、広い家に反して」
「私にはこの広さで十分です」
「なあ菜瑠美! 部屋に入って2人きりになったんだから、先に俺から話させてくれよ! 君に対して言いたいことが大きく3つある」
「わかりましたつかさ……先にあなたの方から聞きましょう。私はベッドに座りますので、あなたは机にある椅子に座ってください」
まずは俺の方から色々真相を知りたい。しかし俺は強く菜瑠美に対して言ったのに対して、何故そこまで冷静なままでいられるんだ?
「1つ目はたしかに、俺は菜瑠美にキスされて『光の力』を手に入れた。だが、この俺が本当は性格が悪くかなりのド変態だったらどうしてたんだよ?」
「あなたには何かの光を感じましたので、性格が悪くは見えません。ただ変態……そう仰ってるつかさは変態じゃないのですか?」
菜瑠美の不敵な反論に俺は困惑した。俺が変態な訳あるかと思ったら、菜瑠美がベッドで寝た体勢になり、俺は菜瑠美の信じられない光景を目にする。
「は? 俺がハレンチなことに……ぶっ!?」
美脚も自慢である菜瑠美は、右足を大きく上げて、褐色のパンスト越しから覗く白いパンティーを堂々と見せてきた。
キスされた以上に、正気とは思えない菜瑠美の行動は、明らかにガン見せざるを得なかった。極めつけにパンティーの柄は、薔薇模様のレースが入った、非常にスケベなものだ。
よく考えたら菜瑠美、公園で奴らと戦ってた時、あんなエロいパンティー履きながら『闇の力』を使っていたのかよ。確かにあの時は見えそうな感じはあったけどさ。
「顔が真っ赤になって……こういうの好きでしょ……つかさ?」
「はぁ……マジか……」
これだけで脳内ダメージがでかすぎる。下手したら、唾や鼻血出てもいいくらいな衝撃的行為だぞ。
俺だけでなく、こんなの全人類の男子誰もが興奮するわ。嫌いといえる人間がいたら、今からでも連れて行きたい程だ。
菜瑠美の方も赤面になっていたが、ゆっくりと脚を閉じつつ普通の体勢に座り戻っていった。
「とりあえず、おふざけは終わりにしようか」
「私も少し……過激になりすぎてしまいました……」
菜瑠美の強烈な一面を見てしまい、俺はとりあえず気持ちを落ち着かせて、次の質問へと移ろうとした。
「2つ目はさっき雷太さんが2人の養子と言ってたが、菜瑠美は雷太さんの養子なのか?」
「はい……正確には私だけでなく、私の母も雷太爺に育てられました」
「母親も雷太さんに?」
「今のあなた同様、『光の力』を所有してた私の母が1歳の頃に、事故で祖父母が他界、祖父と親しかった雷太爺に引き取られました。ちなみに雷太爺は『力』の所有者ではありません」
まさか親子揃って雷太さんの養子だったなんて、なかなかにないケースだな。しかも菜瑠美の祖父母も若くして亡くしてるなんて。
雷太さんは『力』を持っていなかったか、ただ祖父をよく知ってるのであれば『光の力』はわかる範囲ではあるか。
「母が高校卒業後に雷太爺と自立、その後、有名大学を出た科学者の男性と知り合いました。わずか1年の交際で結婚し、翌年に私が生まれました」
父がエリート人間であることを聞いたら、一見玄関にあった写真のような笑顔みたいに、菜瑠美と両親は幸せそうな日々を送ってたと思えた。
「しかし父は私が1歳の頃、出張先のブラジルで事故死。仕事続きであった為、父の顔を見たのは一度もありません」
「顔すら見たことないのか?」
「はい……写真ですらも見たこともなく、私からすれば父は謎の人物です。父のことを知ったのは3歳の頃、母の教えでした」
父の顔を見ないまま、不慮の事故で亡くなるなんて。菜瑠美は父の人物想はどう思ってるのだろうか。
「ですが、菜瑠美という名前を付けたのは父です」
「そうなのか……実はな菜瑠美、俺も生まれて半年後に両親が離婚して、令の名前を付けたのは俺の元から離れた母なんだ」
驚いたことに、ここで名付け親に関して菜瑠美との意外な共通点があったとは。まあ俺の母はまだ生きてるかどうかわからんしな。
「先程の写真の説明をした通り、母は私が4歳の頃に病死。私も雷太爺に引き取られ、母に続いて2人目の養子となりました。今は雷太爺とその妻と共に生きています」
両親を若くして亡くすという重たい過去を持っていたら、笑顔なんてできっこないよな。金持ちだし本当いい養父に育てられたな。
「最後の質問でこれが1番聞きたいことだ、何故菜瑠美は『光の力』と『闇の力』を使えるようになったんだ?」
「この『力』は……2ヶ月前、私が15歳の誕生日に双方の『力』が使えるようになりました……何故覚醒したのかは私にもわかりませんが、この日から私の瞳が金色から紫色に変化しました」
これは悪い意味で願ってもない誕生日プレゼントだな。『力』が使えるようになったのは最近であるのに、奴らを倒せるくらいまで扱えるとは。
「『光の力』については雷太爺から過去に母が持っていたものと聞かされましたが、『闇の力』については……もしかしたら父が持っていたものかもしれません。私は父を信じてこの『力』を使うことを決意しました」
「でもさっき『闇の力』は、雷太さんが危険すぎる『力』と言ってたじゃないか」
菜瑠美の持つ『闇の力』の元の所有者が父だったのか、光と闇の所有者の間に生まれるなんて運命的なものだな。
「この『力』があったからこそつかさは今ここにいる、私は『闇の力』を所有して後悔はしていません。ですが、まだどんな『力』を秘めてるか私にもわからない」
確かに雷太さんに対して命の恩人と言ったくらいだもんな。『闇の力』をより自在に扱えても、もしかしたら雷太さんが最も恐れることがあるかもしれない。
「俺だって……最初はキスまでされて、こんなものは欲しいとは思ってなかった。だが今は、菜瑠美の過去を聞いてこの『力』が必要なものだと信じたい」
話を聞くまでは『光の力』を使えるか不安だった俺も、もう逃げ道はない。改めて菜瑠美の前で『光の力』を扱うようにできることを宣言した。
「私と今のつかさが持つ『力』は、本来戦う為に使うものではありませんでした……でもこのようなことになった上に、私はつかさを巻き込んだ……私はこの『力』を狙う人達と……戦うしかありません」
「同感だ。菜瑠美と出逢ったことは、今俺にとっては大きな宿命だ」
俺と菜瑠美はもう犯罪組織との戦いは避けられない。学校生活も確かに大事だが、いつ狙ってくるのかわからない。『光の力』を今の内に扱えないとな。
「最後につかさ……あなたにこれを渡します」
「まさか菜瑠美?」
菜瑠美は首に付けていたペンダントを外し、俺に渡そうとした。
「写真から察してたかもしれませんが、このペンダントは私の母の形見です……母が『光の力』を持っていたのであれば、今はあなたが持っていた方が適任でと感じました」
「そんなの無理だ、菜瑠美が大事にしていたものを素直に俺は受け取れない」
「つかさ……頭を下げて」
菜瑠美に頭を下げろと言われたばかりに俺は指示に聞いた。菜瑠美は直ぐ様、俺にペンダントを掛け始め、鏡を俺の方へと向けた。
「似合ってるわ……つかさ。未知なる光を持つあなたに今相応しいもの」
「そうか……俺にペンダントを渡したということは、『闇の力』しか今はない菜瑠美にはもう光というものがなくなったのでは?」
「いいえ……私にとっての光ならまだ1つ残ってあります。それはつかさ……あなたの存在です」
「俺が光……?」
なんかどこかで耳にしたような言葉かもしれないが、俺は菜瑠美の母の形見であるペンダントと『光の力』という大事なものを2つ譲られた。
菜瑠美に光の存在と言われた以上、俺は『光の力』を重要視しないといけなくなった──
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