1-10話 シャインだ

 ──輝くシャインを別の意味で読むとどうなる?


 菜瑠美の過去を知った俺は、母親の形見であったペンダントを俺に託された。『光の力』と同じく、菜瑠美の大切なものだ、大事に保管しないとな。

 俺はじっくりペンダントを眺め、触り続けていた。母親も所持していたという『光の力』と何か関係あるのだろうか? だが、今は深く考えないでおくか。

 そもそも、俺は普段から飾り物を付ける人間じゃないし、学校では持ち込み禁止の対象物だ。休日の時だけつけるようにして、学校にいる間はタクシーに乗ってた時までの菜瑠美と同じ、ポケットにしまっておこう。


「色々話してた内に、時間も経過していったな。そろそろ俺も家に帰って休みたい」

「わかりました……ですが、私はもう少しあなたと共にいたいです……」

「だったら、海浜幕張駅で今日は別れるか」

「そうですね、駅まで一緒に行きましょう」


 今日は漫画にあるような体験の連続で、身も体もボロボロだ。ここで帰っておかないと明日以降から体が持たなくなってしまう。

 帰ると聞いた菜瑠美は、何か愁いそうな顔をしていた。確かに高校の同級生であるが、クラスは別々であるため、授業が始まってからになると学校で会う可能性は限られている。

 クラスを決めるのは先生達だけあって、俺達ではどうにもできないことだ。今からでも、『お願いですから、天須さんと同じクラスにしてください』なんて柳先生に言ったら、まず怒られるだろう。

 今の瞬間も、2人揃って一緒にいたい時間が僅かでも欲しいと俺は思ってるし、菜瑠美も同感だろう。



◇◆◇



「お邪魔しました」


 菜瑠美の家から離れ、俺は海浜幕張駅まで菜瑠美と共に向かい、住宅街を歩いていた。

 それにしてもすごい家だった……同級生にこんな高級宅の人が他にいるのだろうかと考えてしまった。俺も将来はいい人間になって、菜瑠美のような品のある家に住めたらいいなと将来は考えた。もしくは菜瑠美と……。


「菜瑠美、またいいか?」

「なんでしょうか? つかさ……」


 海浜幕張駅に着くまでは、菜瑠美と話しとくか。他にも『力』以外のことも色々聞きたい。


「俺は先月まで愛媛県で過ごしていて、千葉県についてはまだわかってないんだ。幕張も綺麗な所なんだな」

「そうですか……私もしばらく日本を離れてたので、今の千葉県のことは私もよくわかっていません」

「日本を離れてた? 菜瑠美は帰国子女なのか?」

「はい……私が9歳の頃に雷太爺の奥さん、つまり義母の元で6年間アメリカに留学していました」

「そんなに滞在してたのか?」

「はい……ただ義母の仕事の関係で、高校は再び日本に戻り、今あなたと逢うまでに至ってます」


 菜瑠美は帰国子女だったか。通りで学校内のデータが少なかったわけか。


「ちなみにアメリカにいた時も、男子からモテモテだったのか?」

「その逆です……私がいた学校は女子生徒しかおらず、私自身が東洋人であったことから、同級生からは誰とも話していない日々が続いてました」


 意外にも、アメリカの女子からは好まれてなかったんだな。文化の違いもあるし、仕方ない所もあるか。

 日本に戻っても、川間さんが菜瑠美のことよく思ってなかったし、先輩男子達からも注目される美少女であるからか、女子からは意外と好感度低いのかもしれないな。


「ちなみに、アメリカで『2つの力』が覚醒したのか」

「いいえ……2月の頃は高校の準備の為、既に日本に帰国していました」

「偶然にも、誕生日に覚醒したんだよな?」

「はい……でも私……本当はこのような誕生日プレゼントを欲しくなかったです! どうして私なんかに、もう他界してる両親が持ってたか疑わしい胡乱な『力』を」


 菜瑠美は激白した。いきなり『力』を勝手に所持してしまったら、困惑するだろう。

 それと、両親が使っていたのを菜瑠美自身の目で見てもないし、本人も『力』に関しては覚醒した数日間は、ネガティブに見えても文句は言えない。


「でも今は違います。つかさとの出逢いで、この『力』を信じています……そして、私を狙う悪い人達と戦うことを決意しました」

「俺もだ。最初はキスに加えて、こんなよくわからない『力』を持ってしまったが、菜瑠美が戦うと決めた以上、継承者である俺も協力する」


 菜瑠美は、本来は争い事に興味がなさそうだ。だが、覚悟を決めた以上俺も共闘する以外に選択肢はない。


「最後にもう1つよろしいですか? つかさ……」

「どうしたんだ菜瑠美?」


 海浜幕張駅を目前に、菜瑠美は突然止まりだした。俺の右肩に触れ俺を見て、何やら黙りとした顔をした。


「私……あなたのこと……」


 これってまさか告白……? 知り合ってまだ半日も過ぎてないし、いくらなんでもするのが早すぎにも程がないか? 急すぎて俺はどうしたらいいかわからないぞ。

 だが、俺は告白される前に、何かの気配を感じた。


「菜瑠美危ない!」

「え?」


 菜瑠美の方向に紺色のガスが入った何かが、投げ込まれてきた。確かに出回ったものの、特別大きなものではなかったのだけは救いか。


「大丈夫か?」

「私は無事です……」


 なんとか、俺と菜瑠美は無事で助かった。しかしアウトレットも近いこんな華やかな場所に、何が起こったんだ? 幸い、周りの影響がなかっただけでもいいか。


「これは……手榴弾? この中にガスが入っていたのか?」


 投げられたのは、ガス入りの小さめなサイズの手榴弾だった。仕掛けた人間はまさか……?


「また会ったアルね王子様!」

「そして巨乳過ぎる可憐なお嬢ちゃん! だべ」


 煙が消え始めた所で、俺と菜瑠美の前に、再びファルとデーバが立ち塞がった。本日2度目のご対面だが、これ以上は御免だな。


「またお前達か!」

「もう私に関わらないでください……と言いましたよね」

「わしらは目的の為なら、どんな汚いことしてもやる主義なんでねアル」

「それにお前もだべよ王子様、あっ、逃げることしかできない弱者だっただべな」


 懲りずに菜瑠美をつけ狙うなんて、奴らの組織はまともじゃないぜ。

 しかも、逃げることしかできない弱者だと? 殴ったら停学になると言ったのは、何処のアルだべ野郎だよ?


「おい見ろアルよデーバ、あのクソ王子様に掛けてるものアル」

「これは俺達が探してきたペンダントだべよ、似合ってないにも程があるだべ田舎者! 俺達の方が似合うだべ」


 奴らに、ペンダントの現所有者が俺であることに気付かれた上に、似合わないとまで煽られた。加えて、だべ口調する時代遅れ野郎に、田舎者と言われる筋合いなんて全くない。

 ふざけるなよ……俺は奴らと違って菜瑠美に認められた人間だ。菜瑠美が似合ってると思うだけで、俺はそれで満足だ。


「いい加減にしろよお前ら!」

「つかさ? あなたまさか?」


 すまない菜瑠美、俺は我慢の限界だ。この『力』、試させてもらう。菜瑠美も俺の怒りを見て、さすがに否定はしないはずだ。

 朝は菜瑠美に護られたんだ俺は、今度は俺が護る番だ。


「お前らに見せてやる! うぉおおお!」


 俺は右手から『光の力』を解放させ、手を輝き出させる。もう俺は、菜瑠美を信じるしかない。


「あの王子様、いつからあんな『力』をアル?」

「もしかしてお嬢ちゃん、あの王子様を認めただべか?」


 奴らに対しての怒りは2度目だし、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。ファル・デーバ、お前らだけは許せない!

 俺は菜瑠美から、奴らが狙っていた『光の力』を譲り受けられたんだ。この場で駄目元でもいいから、使うしかないんだ。


「お前らシャイン死ねよだ!」──


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