1-8話 初めての光

 ──暗い過去を背負いながらも、良い人に育てられたじゃないか。


 海浜幕張の住宅街を歩いている俺は、菜瑠美に従い、彼女の自宅へと向かっていた。昼の真っ平に2人で一緒にいる為か、周りからカップルだと思われてないかを、少々心配した。

 ただよく考えると、今日初めて逢った同級生に助けられてキスまでされるし、学校帰りに話があると言われ、タクシーに強制的に乗られて自宅まで招くなんて、鶴の恩返し以上にあり得ない話だぞ。


「着きました……ここが私の家です」

「ここが君の家か……随分いい所に住んでいるんだな」


 驚いたものだ。住宅街の中でも一際目立つ、菜瑠美に近い髪色をした薄い水色の外壁に、2台分の車が入るガレージ付き、広そうな感じもする3階建ての一軒家だった。俺が住んでる家賃5万のアパートと比べ、豪邸すぎて羨ましい限りだ。

 学校の同級生で、異性の人間である俺が、こんな所に踏み込んでいいのかと疑問を感じた。いくら菜瑠美に強制的に来られたとはいえ、他人の家に入るのにはあまりに抵抗がある。


「入るわよつかさ……」

「お、お邪魔します」

「あっ、私の家は土足厳禁です……そこにあるスリッパを履いてください」


 強引に連れて来られても、今の俺は来客者だからな、菜瑠美の言う通りに靴はしっかりしまってスリッパに履き替えるか。

 玄関はかなり広く、高級感のあるステンドグラスや、複数の像が飾っており、菜瑠美の雰囲気ともあった風景だ。

 なんか比べるのもあれだが、家の中を改めて見ると、格安で部屋掃除もなかなかしない俺の家とはえらい違いだ。

 今後機会があって、俺の家に菜瑠美を招待するなんてできっこないな。スケールが明らかに違いすぎる。


「菜瑠美はどこの令嬢なんだよ、ん……これは?」 


 俺は玄関に置いてある、大人の女性と女児が写った1つの写真が気になった。

 写真の下には"2007.12.25"と記載されている、11年半前の写真か。時期と服装からして、幼稚園のクリスマス会の時だな。


「なあ菜瑠美、玄関にある写真なんだがこれは君が3歳か4歳の頃だよな? 小さい時の姿も可愛いじゃないか」

「はい、この写真は私が大事にしてるものの1つです」


 右側の小さい子は、雰囲気的に菜瑠美であることはすぐわかったが、この時の菜瑠美は、瞳が紫色でなく金色に輝いてる。

 それに今の菜瑠美と違って、笑顔でピースしている、とても嬉しそうだ。昔は明るい性格だったんだな。

 左側の女性は、髪色は金髪ながらも、顔付きが今の菜瑠美と瓜二つだ。しかも首には、タクシーの時から菜瑠美が付けているのと同じペンダントが……。


「左側は菜瑠美の母か?」

「そうです……これは、写真から3ヶ月後に24歳の若さで病死した私の母親と共に最後に撮ったものです」


 こんな美人な母を、病気で若く亡くしてるなんて、菜瑠美は悲しい過去を背負ってるんだな。つまりペンダントは形見という訳か。

 通りで今は、笑顔を見せずに口数も少ないわけか。俺もそうだが、片親を若くして離婚したり亡くなったりするのは、あまりに複雑すぎるよな。


「まずは3階に行きます、会わせたい人がいます」


 会わせたい人? 母が既に亡くなっているとなれば父か祖父母あたりな気がするが、近親者であるなら菜瑠美と共に入学式に行けたのでは?

 とりあえず、菜瑠美の指示によりその人に会いに、3階まで上ることにした。それにしても本当すごい家だな、階段の両端には複数の絵画が飾ってある。


「失礼します」


 3階に到達した俺と菜瑠美は、階段付近にある大きな部屋に待機していた。この中には誰がいるんだ?


「帰ってきたのか、菜瑠美よ」


 ドアの前には、白髪で髭の生やした、厳格そうなお爺さんが現れた。部屋を覗くと絵の具や筆、紙切れが散乱していた。


「ただ今戻りました、雷太爺」

「制服姿も凛々しいな菜瑠美よ、ん……そちらの少年は?」


 このお爺さんの名前は天須あます雷太らいた、本業は日本でも名の知れた画家で、常にこの部屋に居たきりで絵描きする日々を過ごしている。

 雷太さんが俺の方向へと見た。あまりに強面な雰囲気で怒ると、本当に怖そうだった見た目な為、少々怯えてしまった。中身がいい人であると嬉しいのだが……。


「私から紹介します……彼は影地令さん。クラスは違いますが、海神中央高校の同級生であり、私の命の恩人です」

「命の恩人っていいすぎじゃないか……俺の方こそ菜瑠美のことは、命の恩人だよ」


 菜瑠美の方から、命の恩人と言われるとはな、俺だって奴らの双晶氷柱が当たる前に、菜瑠美から守られてなければ俺は死んでいた。俺からしても、菜瑠美は命の恩人だ。

 自己紹介された後、雷太さんが突然、俺の目の方をじっくり見つめようとした。


「むむっ、君影地令と言ったな。君の瞳は我輩の2同様、金色に輝いているではないか? 菜瑠美よ、まさかこの少年に『光の力』を与えたのか?」


 まさか雷太さんもこの『光の力』を知っているのか? 菜瑠美の一族は誰もが持つものか?


「はい、私は彼に唇を咬まして『力』を与えました。でも私は彼を信頼してます」

「なんと……1回限りである菜瑠美の母譲りの『力』を、一切無関係の少年に与えたとは」


 俺の手に眠る『光の力』は、さっきの写真にいた菜瑠美の母親のもので、俺は同じ『力』を受け継いだという訳か。


「しかし雷太爺、私は入学式の時に悪い人達に追われていました、そんな私を救ってくれたのがつかさでした。しかしつかさは特別な『力』を持たないごく普通の人間で、悪い人達に殺される所でした」

「ほう、そんなことがあったとは。で、菜瑠美はこの後どうしたんだ」

「本当はこんなこと言いたくないのですが、私の力に眠るもう1つの『闇の力』を解放させました」

「菜瑠美……あの『力』は危険すぎるとあれほど言ったのに」

「でもこの『力』を使わなければつかさは今頃……」


 やはり、菜瑠美が使っていた『闇の力』は禁断なものであったか。雷太さんも恐れる程であるから、相当怖いものなのか。

 菜瑠美がもしあの場で『闇の力』を使用してなかったら、今頃俺はここにいない。


「影地令君、菜瑠美から『力』を受け継いだのであるならば、君の手を見せてくれないか?」

「俺の手か? 今は何も起きてな……ん?」


 雷太さんの頼みにより、俺は右手を出した。そしたら俺の手から再び輝きだした。今は家の中であるから、強く輝いてしまうと部屋が荒らされてしまう。


「つかさ、祈りの構えをして!」


 俺は、菜瑠美が公園のベンチで使ってた時を思いだし、両手で祈りの構えを取りはじめた。すると『光の力』の強い輝きが時間が経過する度に、縮小し続けていった。


「はぁっ、なんとか止まった」

「つかさ……本当に私が持ってた『光の力』が渡ったのね」

「うむっ、我輩も無理をいってすまないな」

「気にしないでください、俺もこの『力』を試してみたかったです」


 初めて自らの手で『光の力』を使用したが、なんて強力なものなんだよ……。まずは『力』を制御するのが課題になりそうだ。


「雷太爺、後は私の部屋でつかさと2人きりで話したいです」

「ああよかろう、我輩からもこれから宜しくといいたいな影地令君」

「こちらこそ宜しくお願いします、雷太さん」

「失礼しました、ではつかさ……2階にある私の部屋へ」


 雷太さん思ったより、良さそうな人みたいだが、本当に怒らせたりしたら怖そうだから気をつけないけとな。雷太さんの絵画の収入があるからこそ、今菜瑠美は裕福な日々送っているのが羨ましい限りだ。


 さていよいよ俺は菜瑠美との2人きりになる、俺にだって菜瑠美に言いたいことは沢山ある。

 雷太さんとの話で何か気にかかったのが、養子に2と言ったことだ。もし菜瑠美が本当に雷太さんの養子であるならもう1人は誰になるんだ?──

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