27.女騎士とエロ本
やぁ諸君。ごきげんよう。
私だ。リファレンス・ルマナ・ビューアだ。
故郷ワイヤードで死んでしまい、紆余曲折を経てこの異世界「日本」に転生。そこに住む一人の青年をマスターに迎え、彼の家の自宅警備員として新たな人生を歩み始めた者だ。
突然だが、私は今非常に錯乱している。
今こうしてモノローグを冷静に綴っていられるのが不思議で仕方がないくらいだ。
「あぅゎわわぅぅぇ……」
この通り、声の方はもうからっきしダメだ。まともな言葉を発せない。発しようとしても解読不能な音声に変換されてしまう。
一体どうしてこんな事になったのだろうか。
いや、原因はわかってはいるのだが、どうして私がこんな目に遭わなければならないのか。その理不尽とも言える因果のせいでどうも腑に落ちない。
「リファさーん。まだおトイレお時間かかりそうですかー」
コンコン、と私の目の前の最後の砦とも言うべきドアがノックされる。
私は一瞬肩を震わせたが、その扉を隔てた向こう側にいる人物が誰かを再認識し、冷静に対処する。
「まだだ! 何度も言わせるんじゃない!」
「でも、もう掃除してないの
ああもう、こんな一大事の時に邪魔をしおってからに……。
この声の主はクローラ・クエリ。我が主、マスターに私と同様仕えている奴隷だ。
いつもと変わらないのどかな昼下がり。
本日マスターは昼前から近所のカフェに仕事にでかけ、クローラは日課である家の掃除の真っ最中。
かく言う私は……さっきからこうしてトイレに篭っているわけだ。かなり長いこと籠城しているものだから、こうして彼女から急かされているのである。
私は苛つきを抑えきれず、喚くように言い返した。
「わ、私は今強敵と戦っているのだ! 神聖な騎士の戦いにいちいち口出しするな!」
「排泄が聖戦なんて、ワイヤード騎士団の気品もショボくなったものですねぇ」
「う、うるさい! とにかくもうちょっと待て!」
扉の向こうからため息が聞こえ、足音が遠ざかる音がするのを聞き取ると、私は安堵の息を吐く。
ふぅ、行ったか……やれやれ。
ある程度ともに暮らしてきて親近感が芽生えてきたのか、最近の彼女はやけに平然と毒を吐くようになった。こっちの威厳もまるで通用しなくなってきてるし……気が滅入る。
別に私は好き好んでこんな狭い場所に閉じこもっているわけではない。かといって、腹痛だとか便秘だとかで用を足すのに時間を取られているわけでもない。
まさに出るに出られない、という現状である。
それもこれも……。
「全部コレのせいだ……」
私はその「出られない原因」の数々を心の底から恨みながら睨みつけた。
端的に言えば、それは雑誌だった。
雑誌とは――まぁ出版物の一種で、定期的に刊行されている購読を前提とした読み物だ。
この世界は多種多様な書物が溢れており、どれも興味深いものばかりだ。
私が一番好むのは、中でも「漫画」と呼ばれる絵と字の混合体のようなもの。マスターの家にはそれが沢山置いてあるため、暇な時はよく読んでいる。
今手にしている雑誌は、その漫画が掲載されているものである。
それがなぜトイレなんぞにあるのか。普通だったら書庫や本棚に収めておくべきもののはず。あまりにも場違いすぎる。
だが……今はそんなことを気にしている場合じゃない。私が困惑し、混乱し、驚愕している理由はそんな理由ではない。
結論を言おう。その漫画雑誌は……。
「な、なんなのだこの破廉恥な内容は~ッッ!!」
どの作品も一糸纏わぬ女性が、男性とくんずほぐれつ。
絡み合い、乱れ合い、喘ぎ合うものばかりであった。
もよおしたからトイレに入って。
紙が切れていたから、補充しようと背伸びして壁の戸棚に手をかけ。
中に見慣れない小さな箱がある事に気づき。
何気なく開けてみたら、そこには漫画があったので。
どれ読んでみるか、と軽い気持ちで頁をめくったらこれである。
用を足すどころの話じゃない。こんなの見せられたら誰だって慌てるに決まってる。
しかも一冊や二冊じゃない。箱に入っていた十数冊、その全てが「そういうもの」だった。
やけに艷やかな笑みを浮かべる女が表紙に描いてあるから、何か変だなとは思っていた。だがよもやこんな過激なものだったとは……。
「……こ、こんな……こんな……」
目に映るもの全てが肌、肌、肌……。
ぱちゅ、ぬちゅ、くちゅ、と液体を擦り合わせる擬音語。
あんあん、と狂ったように同じセリフ……。
そんなのがひとしきり続いた後、最後に男側が果てて終わり。
ヤマも、オチも、意味も、何もかもが皆無。純粋に行為だけが全編に渡って描写されるのみ。
なのに……なぜだ……なぜこうも目が離せないんだ……。
意に反するように、手が勝手に頁をめくっていく。次のシーンへと早く急がせるように。
確かに私は漫画は好きだ。だが……だが違う、こんなのは漫画ではない!
私の知ってる漫画というのは……こう、なんていうかカタルシスがあって、緩急があって。ある時は役に立ち、ある時は涙を誘う……そういうもので……。
性行為の描写が今まで読んできた中に全くなかったわけじゃない。だがそれはほんの数コマだったり、セリフだけでほのめかされてたりするだけで……けっして話のメインだったわけじゃない。
だから、そこだけ丸ごと抽出して濃縮したようなものが漫画なんて断じて認めん。うまく言えないが、とにかくこれは違う! 違うのだ!
そうさっきから自分に言い聞かせているのだが……気がつくと、すでにもう五冊目を読み終えてしまっていた。
くっ、このリファレンス一生の不覚……! 誇り高きワイヤードの騎士が……女を
だいたいマスターもマスターだ! こんなものを隠しておいて一体どういうつもりだ!
そもそもこういった雑誌が存在してる事自体にも驚きだが、マスターがそれを所持しているという事実が私を何より動揺させていた。
何のために、何を目的として作者はこんなものを描き……何のためにマスターはこれを購入した?
悩めど悩めど答えは出ない。
出ないけど、雑誌は読む。悔しいけど読んじゃう。
「まったく、何なのだこいつら……バカの一つ覚えみたいに恥ずかしげもなく……」
ぺらっ。
「おいおい、大の大人が乳房にしゃぶりつくなんて。赤ん坊じゃあるまいし……って女にもそうツッコまれておるではないか。バカか……」
ぺらっ。
「なっ……乳房だけでなくそんなところまで舐めるだと!? 信じられん、どうかしてるんじゃないかこの男は……」
ぺらっ。
「ば、ばかばかっ! そんなにはげしくちゅーなんかしたら、こどもができてしまうではないかっ! そうなったらせきにんとれるのかこのばかぁ!」
こんこん。
と。
再度ドアがノックされる。
「リーファーさーん?」
低く、冷たく、脅すようなクローラの声。
虚を突かれて漫画の登場人物よろしく変な声が出そうになった。
バクバク言う心臓を抑えながら、私は大声で、
「クソっ、なんだ! 今いいところなんだから邪魔をするなっ!」
「トイレでいいところってどういうところですか……」
「も、もうすぐでかいのが出そうってことだ!」
「大便だけにですか」
「アホンダラ! 奴隷とはいえ女が大便とか平然と言うもんじゃない! 恥を知れ!」
「クソっ、とか仰る方の口から出たセリフとは思えませんね」
ぐぬぬ、口の減らない奴め……これでは集中出来ないではないか。
だがこちらは身動きが取れない状態……追っ払う戦法はもうこいつには通用しないだろう。
かくなる上は……。
「ちょっとー、リファさーん。後どれくらいかかるか見積回答だけでもしてくださーい」
「……」
「あのぅ、聞こえてますか? 返事ぐらいしてくれません?」
「……」
「もしもーし、いくら私でも怒りますよー?」
「……」
無視。
この手に限る。
よくよく考えればヤツの言うことなんか気にする必要など無かった。うるさい虫が飛んでいると思えば楽なものだ。
そして、虫は放っておけばそのうちどこかに行く。そういうものだ。
「……」
ほーら、静かになった。
さて……早く続きを読まねば。
ガチャガチャ……ガチャン。
とそこで扉越しに何か音が聞こえたのを私は耳ざとく聞き取った。
間違いない、これは玄関の鍵が開錠される音!
この家の鍵を持っているのはマスターのみ。ということは……帰ってきたというのか!?
バカな、今日は夕方まで仕事だと言っていたではないか。話が違うぞ!
ダメだ、クローラならまだしもマスターが相手となると敵うはずがない。
絶体絶命。どうする、リファレンス・ルマナ・ビューア! 潔く降伏するか……。
いや待てよ。もとはと言えば、マスターがこの破廉恥な雑誌を隠し持ってたりするからではないのか。これさえなければ、私がこんな八方塞がりな状況にはならずに済んだはず。
事の発端がマスターだとすれば、負い目を感じることなどないはず。私が責められるいわれはないのだ。
むしろ私にはこれらについて彼に問いただす権利がある。半ば強制的にいかがわしいモノを見せつけられたのだ。尋問する理由としては十分だろう。
私は雑誌を束ねて胸に抱え、長い間閉ざしていたトイレのドアを開け放つ。
そして――。
「マスター! この雑誌は一体何なのだ!? こんな破廉恥な漫画を所持するなんて、見損なったぞマスター!」
と、勢いよく外に飛び出して……。
固まった。固まらせられた。
当たり前だ。
だって玄関には、帰宅したはずのマスターがいなかったのだから。
そこにいたのは……素肌にエプロン、頭に三角巾と言う出で立ち。手にはコロコロ転がすタイプの掃除器具を持った、私と同い年くらいの女性。
クローラ・クエリ、ただ一人だった。
「……なっ」
開いた口が塞がらなかった。手から力が抜け、抱えていた本がドサドサと床に落ちる。
クローラは冷ややかな目つきでそんな私を睨みつけている。
「な、え? あれ? あの、マスター……は?」
「……」
クローラは動揺するこちらの問いかけに無言で答えた。
玄関のドアの鍵を、後ろ手に内側からひねることで。
ガチャガチャ……ガチャン!
全くさっきと同じ音が部屋の中に響く。そこでようやく私は理解する。
「クローラぁ……。謀ったな……貴様ぁ!」
「最初に謀ったのはあなたです」
悪びれもせずに言うと、彼女はコロコロをステッキのようにくるくる回し、その先端で私の足元にあるものを指した。
「で、それはなんなんですか」
「あ」
あえなく敵の誘いに釣られ、籠城戦は私の敗北をもって終結したのである。
○
「『あーん、あなたのここすごくかたぁい』」
「……」
「『いや……次はあたしがしてあげるのぉ……あなたを気持ちよくさせたげたいのぉ』」
「……」
「『ああっ、ダメェ……抜いちゃやぁ~ぁ。ずっと……ずっとあたしの中にいてぇ~』」
「もういいだろ! いつまで音読する気だ!」
耐えきれなくなって私は耳をふさいだ。
反対にクローラは完全な無表情で、その漫画のセリフを淡々とさっきから読み上げている。
信じられん。黙読だけでも顔から火が出るほど恥ずかしかったのに、声に出すなんて……。
「ま、どういう本かは大体わかりました。確かに本棚にある書物とは違った趣向のもののようです」
クローラは雑誌を閉じて傍らに置いた。全く動じていない。なんだか私が過剰に反応しているだけみたいではないか!
「で? どうするんです、これ」
「ど、どうするって……」
「言うのですか? ご主人様に」
「……」
改めて訊かれると、筆舌に尽くしがたい思いに駆られる。
さっきは衝動任せに失望したとか言ってしまったが……やはり性急が過ぎただろうか。
クローラはそれらを見てもマスターに関して何か言及するわけでもないし……一体こいつはどう思ってるんだろうか。
「マスターは……なぜこんなものを買ったのだろうか」
「?」
「隠しておいたということは……自分だけがこっそり読みたいと思ったからなのはわかる。だけど……どうしてそこまでしてこれを手に入れたかったのかが、私はよくわからないのだ」
「……それでさっきからお悩みになっていたというわけですか」
三角巾を外して畳みつつクローラは言う。
「私にはなんとなくわかる気はしますけどね」
「何! どういうことだ」
「リファさん、漫画を読んで面白いですか?」
「そりゃもちろん」
「なぜです?」
こちらとしてはなぜそんな質問をいきなりしてくるのか聞きたい気持ちだったが、ここは素直に答えておくことにした。
「まぁ、物語の世界に実際に入り込んだような気持ちになって高揚したり。カッコいい登場人物を身近に感じられてすごく共感したりできるから……かな」
「それですよ、まさに」
「は?」
「自分も漫画の中の人物になりきって、同じようなことをやった気になりたい。物語の流れを追体験したい。ご主人様もリファさんと同じ目的でこれをお読みになっていたのでしょう」
「……それってまさか」
「そのまさかですよ」
肩を竦め、どうってことないような反応を示した後。どうでも良さそうにその女奴隷は言うのだった。
「その雑誌の作品と同じように、女性とまぐわいたいという欲求がご主人様にあるということですよ」
言葉を失った。
嘘だろ……あのマスターが……そんな……。
信じられない、信じたくない。ワイヤードでごまんといた婦女暴行犯に買春客、女たらし……そんな人間のクズどもと同じことをマスターが考えてるなんて。
「何言ってるんですか。ご主人様だって一人の男性ですよ。そういうことをしたいと思うのは普通では?」
「お前こそ何を言うか! そんなのは一部の下衆だけだ! それとマスターを一緒にするなど、愚弄しているのと同義! それ以上の侮辱は許さんぞ!」
私は立ち上がって、素早くベッドに立てかけてある我が愛剣を取り、柄に手をかけた。
だがそれを見てもクローラはただため息をつくだけである。
「一部の男性しか生殖本能無いんだったら人類は滅びますよ……」
「あ? なんだって?」
「リファさん……子供ってどうやってできると思ってるんですか」
「な、なんでそこで子作りの話が出てくるんだ!?」
今日のこいつはおかしい。なんこう何の脈絡もなく突拍子もない事を……。
だが当の本人は大真面目で回答を無言で促してくる。
私は観念して、下唇を噛みながら小さめな声で。
「それは……その……ちゅーすればできるんだろ」
「……」
「なっ何だそのシラケ顔は! お前が言わせたんだろうが! というかこの話と何の関係があるんだ!?」
「わかりましたもういいです。私が間違ってました。この話はやめましょう。ハイ、やめやめ」
一方的に会話を打ち切られた。終始こいつのペースに乗せられてる気がする。私、騎士なのに……。
「まぁ確かに、リファさんの言う通りご主人様はそういった方達に比べれば誠実で、謙虚なお方ですよね」
再び、クローラは雑誌を手にとって開きながら言った。
「身寄りのない女を二人も家に住まわせて、世話をして、食べさせてくれる……その上で『これ』ですから」
「? どういうことだ」
意味がわからず、私が眉をひそめてるとクローラは更に続けた。
「もしワイヤードの男性だったら、その見返りとして身体を許すことを強要してくるでしょう。私達は今ご主人様なしでは生きていけない……その弱みを握られてるのと同じ。それを利用してこないわけがありません」
「……」
「でもご主人様は……一度も私達に手を出してこない……その理由がこの雑誌なのですよ」
「……は?」
クローラにとっては答えを提示したつもりなのだろうが、かえって私の頭を混乱させるだけだった。
彼女は本の表紙をつまらなそうに見つめながらなおも謎解きを続行した。
「さっきリファさんが言ってたように。漫画を読んでそれを同じ体験をしたような気分になる。気分になって満足する。つまり……実際にそういった行為をしたいという欲求を『これ』で満たしているのです」
「誠実で謙虚って、お前もしかして――」
私が言うと、その先のセリフが既に伝わっているかのように彼女は頷いた。
「そうですよ。誠実で謙虚とは……私達を絶対に性欲の処理相手として見るまいというご主人様のご意思のことです」
「……」
私はベッドに腰掛けて剣を膝の上に置いた。
確かにその理論は筋が通ってるし……そうと仮定すれば色々と辻褄が合う節もいくつか思い当たる。
だが……それは結局マスターがワイヤードのクズどもと同じ……「女を犯したい」という欲求を持っていることになってしまう。
でもそれを実際に行動には移さず……必死で抑え込んでいる。私達のために。
じゃあこんな本を買ってたのは……私達のせい? 私達が、マスターと同棲しているから? だから……。
「……」
「大丈夫ですか? すごく思いつめたような表情してますけど」
「……やっぱりやだ」
「え?」
私は両手で自分の肩を抱きしめて呻くように言う。
「マスターは、そんな人じゃない……。私達にいつも優しくしてくれる……いろんなことを親切に教えてくれる……。だから、たとえ抑えてようがいまいが……そういう事を考えてるだなんて思いたくない」
「……リファさんは少し勘違いをしてるようですね」
「え?」
「この本読んで……気づいたこと、ありませんか?」
「……気づいた、こと?」
そんなの……ただの行為の垂れ流し以外に思うことなんて無い。……無いよな?
「わかりました。ではもう一度読み聞かせて差し上げましょう」
「なっ!?」
こほん、とクローラは咳払いして、こちらが制止する暇も与えずにその過激な漫画の音読を再開した。
まずい、今度こそ恥ずかしさで頭がどうにかなってしまう。耳をふさいでやり過ごすか……。
などと対策を講じようとするが、時既に遅し。その卑猥なセリフが音声となって私の鼓膜を震わせていた。
「『大丈夫……怖くないよ』」
「……え?」
「『優しくするから……俺、お前が嫌がるようなことしたくないし』」
「……」
「『ねぇ、気持ちいい? 俺も、すごく気持ちいいよ……』」
……あれ?
なんだろうこの違和感。さっきまで読んでいた内容に間違いはないはずだが……声に出して聞かされると……何か引っかかるものがある。
そんな私をよそに、クローラはなおも漫画を読み上げ続けた。
「『はぁ、はぁ……俺、もうお前のことしか考えられないよ』」
「……」
「『絶対に幸せにするから……約束する』」
「……」
「『もうイクよ……いいよね?』」
そこで一時停止して彼女は本から顔を上げて私をまっすぐ見据えた。
そして、その続きであろう言葉を、静かに言い放った。
「『好きだよ』」
「……っ」
聞き入ってしまっていた。
破廉恥なはずなのに。下賤な欲望の塊でしかない作品のはずなのに……。
さっきトイレで読んでた時もそうだ。どうしてそんな下劣なものと決めつけていたのに、夢中になってしまったのか……。
その答えは……。
言わずともわかってる、というようにクローラは微笑んだ。
「この物語の一連の行為には……男性の女性に対する思いやりがあるということです」
「思いやり……」
「その証拠に、男性達は女性を気遣ったり、優しく抱きしめたりしてるじゃないですか」
「……確かに」
「そんな人達が、ワイヤードの男性達と同じような存在だとはとても思えません」
言われてみれば、女性を無理やり押さえつけたり、口汚く罵ったりというような描写は一切なかった。
もしそんなものがあったら、きっと読むどころか怒りのあまりに本を引き裂いていただろう。
だが、内容は全てがその真逆……。私が引き込まれていったのは、そういう話だったから……?
「だ、だがこの男どもがそういう演技をしているだけかもしれないぞ。そうやって油断させてから……という魂胆の可能性も無きにしもあらず」
騎士は何事にも疑ってかかるのが常。犯罪や暴動、反乱を未然に防ぐために考え過ぎるということはないのだ。
「そうでしょうかねぇ……」
でも奴隷はそれをやんわりと否定した。そして開かれた頁のワンシーンを見つめながらつぶやく。
「でもこの女の人達……すごく嬉しそう」
「……え?」
聞き返すと、クローラが雑誌を取って私に見せてきた。
目の中に飛び込んできたのは、やはり行為中のシーン。女が男に犯されていることに変わりはない。
……はずだったのに。
『あたしも……気持ちいいよぉ! もっと、もっとしてぇ』
『あたしも……あなたが好き……大好きぃっ!』
『お願い……あたしをあなたの……あなただけのものにしてっ!』
あれ……。こんなセリフだったっけ……?
よくよく読んでみたら……女側のセリフは「犯されている」者のそれとしてはあまりにも不自然だった。
恍惚な表情を浮かべ、頬を染め、目をとろけさせて……自分から男を求めている。それだけでなく、そうすることを懇願しているみたいだ。
ワイヤードでは……犯された娘達は、皆苦しそうで、悔しそうで、悲しい顔でいたのに……それとはまるで違う。
そしてトドメと言わんばかりに、大きなコマで女が矯正を上げる場面。私は大きく目を見開いた。
『ふぁっ! あなたの……いっぱい中に注がれて……幸せだよぉっ!』
……。
かぁー、と私の耳元が熱くなっていくのを感じた。だがそれは先程までの恥ずかしさによるものではなかった。
それは……まさに……「自分がその物語を追体験してる」ような気分だった。
「理解できましたか」
クローラが私の顔を覗き込みながら訊いてくる。
「私達の世界では、仰る通り女性を力づくで犯そうという人ばかりが目に付きました。ですがこちらでは、このようにお互いがお互いを強く求め合うがゆえに行為をするというのが一般的なようです」
「……」
「どちらも『男性が女性を抱きたい』という欲求が根底にあるのは同じですが……そこには必ず『女性も男性に抱かれたい』という欲求も存在しているということです」
つまり。一方的な性欲の発散ではない……いわば一種の……共同作業。
マスターがしたいことがそれなのだとすれば……彼の望むことは――。
私達にもまた
……。
「……えええええええ~!?」
ようやく理解したものの、私の頭からは危うく煙が出そうになった。
バカな……私は騎士だぞ! そんなことをしたいと思うわけがなかろうが! 身体を許せと言うだけでなく、こちらの心情にまで注文をつけるとは勝手にも程があるッ!
「リファさん、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! お前は何でそうも飄々としていられるのだ!」
「だから何度も言ってるじゃないですか。ご主人様はそれが叶いっこないと思ってるからこれに頼っておられるのですよ」
「……ん?」
若干物憂げな表情になって、クローラは語り始めた。
「私達とはこんな関係になってはいけないと同時に、なれるはずがない……つまり『
「……」
「ご主人様はお優しい方です。私達の意向を無視することはしたくない。私達を傷つけたくない。だからこの漫画のようにお互いを求め合った上で――という
……。
こんなふうに……なるはずが、ない。
こんなだらしなく口を開けて、よだれを垂らして……それでも男の顔をまっすぐ見つめて……ひたすらに愛を訴える。
私が……そうしたいと……望むと?
ありえない……よな?
私は誇り高くて……堅実で……誠実で……忠実な騎士。帝国兵に志願した時から、ただ目の前の敵を粉砕することだけが役目になった。
そんな私が……マスターに……男に抱かれたいなんて思うはずが……。
大体、これは漫画の中の話。実際に人がどう思うかなんてそれこそ別の話ではないのか。
「私は……この漫画の女の子達の気持ち、わかる気がします」
「……どういうことだ」
「だって、こんなふうに優しく抱きしめられて好きなんて言われたら……自分もその人のこと好きになっちゃうかもしれないです。きっとそれが……女としての本能なんじゃないかなって」
「……」
「想像してみてくださいよリファさん。ご主人様が同じようなことをしてくれたら……って」
「マスターが……」
私の肩に手を回して抱き寄せて、頭や背中を撫でる……。
そんな抵抗できない私に顔を近づけてきて、耳元でそっと囁く……。
「おいリファ……帰ったら玄関の鍵はちゃんと閉めろって言ってんだろ」
「リファ……ゴミ箱シュート外したらちゃんと入れ直せって何回言わせんだよ」
「リファ……風呂出る時は排水口の縮れ毛始末しとけっつったよなぁ……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」
ロ ク な セ リ フ が な い。
いつも浴びせられてる小言に勝手に頭の中で変換されてしまっている。
ベッドにダイブして枕に顔を埋めながらジタバタする私。
ダメだ! マスターが『私がそんなことを願うはずがない』と考えてるのと同じように、私もまた『マスターが私としたいなどと願ってるはずがない』と考えてしまっている!
「やっぱり無理だ無理! こんなのできない!」
「……でも、私達のせいでご主人様を歯痒い思いにさせていることは事実ですよね」
「……うぅ」
痛いところを突かれた私は毛布を頭から被った。辛い現実から逃れるみたいに。
だけどその現実は容赦なく布を貫通して私の耳に届く。
「ご主人様は私達のために、学生の身でありながら働いて、私達を食べさせてくださいます。では私達は……そんなご主人様のために何をしているというのでしょう」
「……」
「この世界の文化を学ぶのが私達の役目……ではありますが、それ以外何もしなくていいかというと、そうではないと思うのです」
何もやってないわけではない。料理とか洗濯とか……掃除とかやってることにはやってる。
だが、彼女の言っていることがそういう意味ではないということは私も理解していた。
「直接そう言われてはいませんけど、ご主人様がお望みなら……私達はそれにお応えするべきではないでしょうか」
「それは違う」
私は布団の中で静かに、はっきりと言った。
「忘れたのかクローラ。ワイヤードの掟を」
「……え?」
「どんな時でも、確たる自分の意志だけは忘れるな。それは奴隷であっても同じだ」
「……」
「私のような騎士も、主の命に従う者ではあるが、決して他人に流されるようなことがあってはならない。違うと思ったら、はっきりそう言って相手と折り合いをつける。自分が納得しないのに、そうしたくもないのに、自分の考えを変えるのだけはダメだ」
「リファさん……」
厳しく諭したつもりだった。だがそれほど重要なことだったのだ。
ワイヤードに生まれた者として、絶対に守らなければならないことだから。
たとえ他人でも、それを破ろうとするのは見過ごせない。たとえ住む世界が違うものであったとしても、私達はそこで生まれ、その信条を支えに生きてきたのだから
「……ふふ、やっぱりリファさんはわかってないですね」
「あ?」
私は布団から顔だけを出した。
クローラは口元を抑えてクスクス笑っている。
「何がおかしい?」
「だってクローラは……最初から他人に流されてもいないし、考えを捻じ曲げたつもりもありませんよ」
「なんだって?」
彼女は立ち上がり、ベッドの脇まで寄ってくるとそっとかがんだ。
目線が合うと、彼女の吸い込まれそうな黒い大きな瞳が私を捉えた。
そして、クローラ・クエリははっきりとこう言ったのである。
「私は、心からご主人様に抱いてもらいたいと思っています」
唖然とした。
私は普段から彼女がマスターに媚びへつらっているのは……単に自分が奴隷だから、仕えなければならない相手だからと思っていた。
だから漫画に影響されて、それすらも奴隷としての役割だと思い込もうとしていたのではないかと私は錯覚していた。
でも違った。
彼女は……最初から……。
「あの人は、今まで見てきた男性の方の中で間違いなく一番の人です。初めてお会いしたときからそう思ってました。そして何日も一緒に暮らしていると……もっとお近づきになれたらなと感じるのです」
「……」
「だから……あの雑誌を読んだ時こう思ったのです。『この女の子達が羨ましいな』って」
「うらやま、しい?」
「はい」
ニコリと屈託のない笑みを浮かべてクローラは言い放つ。
「お互い遠慮することも、双方の立場を気にすることもなく、身体を重ねているのですから」
「……」
「あなたはどうです? リファさん」
「え? 私?」
驚愕して自分を指差す私に、女奴隷は首肯した。
「あなたは……ご主人さまと……したいですか?」
「わ、私は……」
考えれば考えるほど、体全体が火照っていくのを感じる。
だってそんなことを訊かれる機会など、全くなかったのだから。
だからしどろもどろになりながら、当たり障りのない言い訳を見つけることしかできない。
「私は……騎士だから……純潔を守らなくちゃいけなくて……」
「あなたはもうワイヤードの騎士ではないでしょう」
バッサリと切り捨てられた。もうのらりくらりとかわしても無駄なようだ。
そう。もう私はワイヤードの騎士ではない。その先頭には「元」が付く。
今の私は……マスターの自宅警備員。そこに明確な規則は存在しない。ゆえに、処女でいなければならないなどという決まりを守る必要もない。それは承知していたつもりだ。
でも……どうしてもこいつみたいにはっきりと言えないだけなんだ。
「私には……私自身がどうしたいのか……よくわからない」
「……」
「この漫画を読んでお前みたいに羨ましいと思ったのか……はたまたマスターと本当にこういうことをしてみたいと思っているのか……」
今は騎士としての意識がまだ強く残っていて、ワイヤードで横行していた下衆な行いに関する記憶もまだ建材で……。
そして何より……私自身が未経験者であるということ。他ならぬ自分がそういうことをするとなると……足が竦むような感覚に陥るのは否めない。
そのように、どうしても男と女のまぐわいに対して忌避感を示している自分がどこかにいるのかもしれない。
でも……でもね。
「ここに来てからその……女としての自分が強くなってきてるような気がして……マスターといると……はっきりとそれがわかるようになったんだ」
「え……」
「だからこれから先こうやって過ごしていくうち……その……彼と触れ合いたいと思うようになるかも……って」
「リファさん……」
さっきとはまた別な意味で顔から火が出そうな気分だったが、ここまで来た以上全部吐き出したほうがいいと私は考えた。
「では――」
「だけど、それはマスターに罪悪感を感じてるからじゃない。もしそんな理由で彼に身体を許したら、それは……裏切りだ」
「裏切り?」
私は無言で頷き、ベッドから身を起こした。
「私達には絶対に手を出さないようにしよう。それはマスターが自分で決めて自分に守らせている訓戒……なのにそれを理由に私が自分を抱くよう迫ったら……彼に掟を破らせてしまうことになる」
「……それは、そうですけど」
「だから……だからな」
私は正座して、腿の上で汲んだ手に目を落としながら小さく宣言した。
「お前と同じように……心からマスターとしたいって思ったら……そうお願いする……」
私を、抱いてくれないか……と。
誰のためだからとか、そうした方がいいからとか、そんな理由じゃない。
私が……マスターに抱かれたいと願うから……その想いのままを伝えたい。
きっとそれがマスターも願っていることだから。この漫画みたいに。
「そう、ですか……」
クローラはその全てを聞き届けると、安堵したように息をついた。
「わかりました。あなたがそれでいいなら、私に言うことはありません」
でも。と彼女は区切り、悪戯っぽく笑った。
「あんまり時間がかかるようだと……私が先を越しちゃうかもですよ」
「ふぇ!?」
「だって私は最初からご主人様のご寵愛を受けたいって思ってるのですから。その理屈なら、私はいつでもあの人にそうお願いしてもいいってことになりますよ?」
「えぇ!?」
「私、こう見えても辛抱強い方じゃないですからねぇ……十数日……いやもっと早いかも?」
「や、やだやだそんなのやだ!」
マスターとこいつがあの漫画みたいにお互いを求め合うなんて……それを見せつけられたらきっと私は……私は……。
「なんてね、冗談ですよ」
またクスクス笑いながらヤツはからかうようにそう言った。
「私もそんな心の準備が出来てるかっていうとそうでもないんで」
「お、お前なぁ~」
「ですから」
と、彼女は私の手をそっと握ると、初めて恥じらいを感じてそうな顔になった。
「ですから……一緒に言いませんか?」
「うぇ?」
「お互いの準備ができたら、同時にご主人様に言うんです。それをあの人が受け入れてくれたら……」
「……」
「一緒に、抱かれましょう」
目が点になった。
な、ナニを言ってるんだ……こいつ……。
二人で一緒に……? お前それ……え? 正気で言ってるのか?
「だってほら……この雑誌にも」
と、クローラは床に散らばった本の一冊を素早くめくり、とある頁を私に見せつけた。
で、そこに描かれていたシーンを端的に説明すれば……。
寝そべった男の上に、女が二人乗っかっている。
一人は顔に、一人は腰に。
どっちも下腹部から突き上げられる快感に甲高い声を上げている。
「ばっ、おま……! これ……」
「ふふ、こんなふうに二人同時に愛してもらう形式もあるみたいですね」
「あわわわわわ……」
「他にも二人で四つん這いになって、後ろから……」
「もういいもういいわかったわかったから!」
強制的に中断させ、私はその本を奪って閉じると大きく息を吐いた。
「お前は……なんとも思わないのか?」
「何がです?」
「二人きりならまだしもあんな……他人と一緒になって……何か変に思うだろ普通」
「別になんとも思いませんよ……だって」
それでもなお、晴れやかで無垢な笑みは消さずに、クローラは言うのだった。
「リファさんは他人なんかじゃありませんから」
「……!」
……まったく。こいつには敵わないな。
根負けしたのにもかかわらず、私の口からは小さく笑い声が漏れていた。誘い笑い、というやつだろうか。なんだかもう、怒る気にも、恥ずかしくなる気にもならなかった。
「わかったよ、クローラ」
私は毛布を外し、小さく返事をした。
そして先程彼女がしたように、今度はこちらがクローラの手を取った。
「一緒に言おう。マスターに……私達を……愛してくれと」
「……」
結構勇気を出して言ったつもりだったが、向こうはきょとんとして何も返してこない。
なんだ、意外な発言だとでも思ってるのだろうか。散々そんな雰囲気醸し出しておいて。
「リファさん」
「ん?」
「男性と女性のまぐわいのこと……この雑誌では『エッチ』っていうらしいですよ」
「えっち……」
「強姦、姦淫……私達の世界ではネガティヴだったり曖昧な言葉ばっかりでしたけど……これだとぴったりって感じしません?」
「……」
エッチ、か……。
なんだかこっ恥ずかしい響きだけど……でも、この方がいいな……。
マスターと……エッチする……。
そう考えた瞬間、私の脳裏に彼の顔がいっぱいに広がった。
笑った顔、怒った顔、悲しい顔……。
もっと近くで見られたら……いつもよりももっと近く。
そしてもう離れないようにって、優しく抱きしめてくれたら。
そのぬくもりを、服越しじゃなく……素肌で感じられたら……。
そんな欲求が次々と湧き出てくる。さっきまでの忌避感を、完全に忘れ去ってしまいそうな程に。
また体温がどんどん上がっていく。鼓動も速さを増していく。
女としての気持ちが……強くなっていく。
一緒に過ごして、いつかエッチしたいと思ったらそう伝える予定だったけど。
やばい……今日にでも言っちゃうかも……。
「……リファさん。後でこの本……また一緒に読みません?」
「え? なんで?」
いきなりの提案に私は面食らったが、クローラは人差し指を一本立てて鼻高々に解説する。
「私達はまだこの世界でのエッチについてはまだ未熟です。ワイヤードでは、男の人が一方的に欲望を満たすだけでしたけれど……この漫画を見るに、男性も女性も両方を互い気持ちよくさせてあげるものみたいですよ」
「お、おう」
「だからご主人様も、女性の悦ばし方についてこれで勉強してるはずです」
「それは……一理あるな」
「なので、ご主人様にどうやって気持ちよくなってもらうかについては……私達も私達で学んでおいて損はないのでは?」
「……ん」
もちろんこの雑誌が、実際にそのための教材として扱われてるとは思えない。が、何も知らない私達にとってはこんなものでも立派な教科書である。
今までは単なる破廉恥な内容の本としか認識してなかったけれど……これはこれで色々得られるものがありそうだ。
「さて、そろそろ家事に戻りましょうか」
クローラはそう言って三角巾を巻き、エプロンの紐を締め直す。
「エッチのこともそうですが、今ご主人様は私達のために一生懸命お仕事を頑張っていらっしゃいます。であれば、私達も帰ってくるあの人のために、今できることをしませんと」
「……そうだな」
私もベッドから立ち上がり、肩を回してウォーミングアップ。
「掃除は、やり残してたトイレを片付けて終わり……その次は物干しですね。洗濯もさっき終わったようですし」
「ではそちらはお前に任せよう。私は今日の夕食の準備だ」
「わかりました!」
腕をまくり、厨房に立って早速冷蔵庫の中身のチェックをして献立を決めていると、クローラが訊いてきた。
「リファさん、今日は何になさるご予定で?」
「今日はそうだな……このオイスターソースってのがあるから、これを使って肉野菜炒めでも作ろうか」
「オイスター……確か牡蠣という貝類のことですね。そういえばリファさん。この間調べてわかったことなんですけど」
「?」
「牡蠣って、精力増強に効果的だそうですよ」
言われた私は無言でクローラを見返す。
彼女もじーっと台所の影から私を見つめてくる。
そして同時に、吹き出した。
「ふふふっ、そうか。なら、張り切って作ってやらないとな」
「はい! 帰ってきたら、ご主人様もいっぱい働いてお疲れでしょうし。きっと喜んでくださいますよ」
そう。深く考える必要はない。
エッチというちょっと刺激が強かったけど、私達が学ばなければならない要素が一つ増えたに過ぎない。無理に意識すると、マスターにも心配をかけてしまう。
だから私達は、すべき役割を果たすだけ。
少なくとも今は……目の前の作業に集中しよう。
私達のために頑張ってくれている、あなたのために。
私達も……頑張らなくちゃ。
「マスター……♡ ふふっ」
○
その頃。
「「ウェーーーーーーイwww」」
「Hey渚―、今日の店長はーー!?」
「夏風邪こじらせて午前中でそうたーい!!」
「あの人の帰り際のセリフはー!?」
「『僕は帰るけど二人で店番しっかり頼むよ』ー!!」
「でもここ数日での累計来客数はー!?」
「ゼローーwwwwwww」
「すなわち俺らが店番する意味はー!?」
「皆無ーー!! フッフー!!」
「んでもって、店先にさっき俺が設置したのはーー!?」
「『CLOSE』の立看板ーー!!」
「つまりこの店はー!?」
「あたしらのやりたい放題プレイルーム!!」
「で、この閉鎖された空間の中……男と女がやることと言えばー!?」
「もちろん。とびっきりアツくて、興奮して、ブッとんじゃうア レ♡」
「それをこれからするわけだが……覚悟は出来てるかー!?」
「モチのロンロン・ウィーズリー!!」
「っしゃらぁ! そうと決まりゃ早速始めるぜ……さぁ、何もかも脱ぎ捨てろ渚ぁ……」
「あぁん……センパイってば、湧き上がる思いを抑えられないんですねぇ……」
「そうさ。もう俺もお前も止めらんないし逃げらんないんだよ……」
「わかりましたよ。あたしも早くセンパイとGet crazy wayしたくてたまらなかったんですぅ」
「いい度胸じゃねーか。俺だって真っ向バトル……やるときゃやるからな」
「Hurry Upっすよ、センパぁイ……もう誰にも邪魔はさせません!」
「いくぜ……」
「はい!」
「「Stand Up! ヴァンガァァァァァァァァァァド!!!!」」
今始まる伝説。
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