幕間 ナースな野崎麻衣の看護日誌



「やれやれ、色々と大変ねぇ」

 躍動的な若さを背負って駆けていく真昼くんに、私は思わず苦笑を漏らしてしまった。

 ああいうふうに、一生懸命に生きる人を私はよく見て来た。そして、それが原因で潰れてしまうところも。

 だから私は何となく彼らを放っておけず、ちょくちょくちょっかいをかけては様子を見る事にしていた。

 とはいえ最近は彼らに関わるのが本当に楽しく、なんだか年の離れた弟や妹が出来たような気分になっていた。

「さてさて、真夜ちゃんはどうなっているのかしら」

 一旦部屋の奥に引っ込むと、マスターキーを取って戻って来る。

 そのままの足で真夜ちゃんの居る部屋へと向かった。

「ちょ~っとしつれいするわよ~……」

 室内へと控えめに声をかけ、それ以外には音を極力出さないように注意しながら室内に入った。

部屋は割と整頓されており、二人が綺麗に生活をしているのが分かる。

 とはいえ、今日は慌てていたのか多少小物が出しっぱなしになっていたりするが。

「……分かってはいたけど、全然物がないわね……」

 私の部屋には様々な衣服やテレビなどの家電が溢れている。それと比べれば、この部屋は殺風景もいいところだった。

 ここに来て数週間が経ち、多少はお金もあるだろうに、貰ったものと衣服、それから生活用品程度しかない。

 もしかしたら二人は、何かあった時ここからも逃げる準備をしているのかもしれなかった。

「さて、真夜ちゃんは……っと」

 ベッドの上で縮こまって眠る真夜ちゃんの様子を確認する。真夜ちゃんは額に玉の様な汗を浮かべ、苦しそうに眠っていた。

 彼女の眠る布団の上にはシャツやタオルがかけられ、なんとかして暖を取ろうとしているのが分かる。

 私は後で毛布を持ってきてあげようと思いつつ、とりあえず換気のために窓を開けた。

 やや肌寒い風が室内の中に入ってくる。

「うぅん……」

 寒気を感じたのか、真夜ちゃんが無意識に手足を丸めて縮こまる。

 それに小さく、ごめんねと謝りながら次に何をするべきか思案し始めた。

 すると、急に強い風が室内へと吹き込んで来た。風はいたずらっ子のように室内を荒らすと、すぐに出て行ってしまう。後には惨憺(さんたん)たる光景が広がっていた。

「あちゃ~……」

 私は窓を半分だけ占めると、床に落ちた物を拾い上げ、元の位置に戻していく。

 ふと、あるものに目が留まった。

「あ、これ使ってるんだ」

 それは緑色の紋章が表面に描かれた図書貸し出しカードで、真夜ちゃんが、私のアドバイスで作る事が出来たと嬉しそうに報告してくれていた。

「まあ、テレビもパソコンもないもんねぇ。暇つぶしになる様にDVDプレイヤーでも貸してあげようかなぁ」

 カードを拾い上げようとして、

「ん?」

 私は、気付いてはいけないものに気付いてしまった。



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