第13話 うその理由を作って
そうやって五分程度二人でもつれあいながら仲良く横になっていたのだが……。
「もう足治った?」
「ま~だぁ~」
真夜はくすくすと笑いながら顔を僕の胸にこすりつける。
「まだかぁ、なら仕方ないよね」
二人揃って当初の目的を忘れてしまっていた。
仕方ないよね。真夜可愛いもん。
ふと、僕は一つのイタズラを思いついた。
イタズラと言っても、真夜を困らせる様なものじゃない。どちらかというと喜んでくれる類のものだ。
「……あ、真夜。口の端にソース付いてるよ」
「うそっ」
嘘だけど。
「待って、今取るからじっとしてて」
「う、うん」
自分の顔を手でこすろうとした真夜の動きを止めると、首を伸ばして真夜の口元にキスをした。
「あっ……」
つまりはこれが目的だっただけだ。
真夜もそれに気づいたらしく、もう、とちょっと照れながら怒っているふりをする。
「……ちょっとまだ取れてないから、もう一回するね」
「……うん」
今度は軽くついばむようなキスをする。
「……と、取れたの?」
「うん、取れた」
もちろん最初から付いてなんかないけど。
「お、お兄ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんの口にもソースが付いてるよ」
若干顔を赤くした真夜が、僕の顔を覗き込んでそう言った。きっとこれは仕返しだろう。
多分、というか絶対僕の口にソースなんてついちゃいない。
でもそれを指摘するのは野暮ってものだ。
「じゃあ、真夜取ってくれる?」
「うん」
今度は先ほどとは逆で、真夜が首を伸ばすと僕の口元に唇を押し付ける。
「まだ動かないでね。きちんと取れてないから」
「……そんなにたくさん付いてるんだ」
どうやら真夜はこの言い訳と行為が大変気に入ったようであった。
「うん、たくさん付いてるの」
「それなら仕方ないね」
「うん、仕方ないよ」
お互いに言い訳を確認し合った後は、存分に楽しむ時間が待っていた。
真夜は僕にチュッチュッと音を立ててキスの雨を降らせて来る。
お返しに僕もしようとすると、
「だめぇ、まだ取れてないの」
なんて叱られてしまった。
……むう。これはこれで気持ちいいんだけど、何か反撃がしたいぞ?
真夜の弱点弱点っと……。えっと確か……。
「ひゃぅんっ」
真夜が突然、雷にでも打たれたかのように体を逸らす。
原因はもちろん、僕が真夜の脇をくすぐったからだ。
「お兄ちゃんっ」
「おや、どうしたの? 口を拭いてくれたお礼にマッサージをしてあげようと思ったんだけど」
などと僕はすっとぼけてみせる。というか先ほどからお互い適当な理由を作って好きにしているのだけど。
「もう、お兄ちゃんは動いちゃだめっ」
真夜は唇をとがらせながら強く抱き着いて、僕が手を使えないように拘束してしまった。
でも……。
「いやんっ、だめぇ……」
脇に手が届かなくとも、脇腹や背中などくすぐれる個所は沢山あるのだ。
「ほら~、真夜は疲れてるんだよ。だからもっとマッサージしてあげるよ」
決して真夜のえっちな声が聴きたいとかそんな理由ではない。
「ちょっ……待っ……」
「いっきま~す」
「うふっ、あははははっ。やっ、やめっ!」
身をよじって必死に逃れようとする真夜を、僕はくすぐり倒す。
「あひっ! うんっ……あはぁっ」
……あれ? ちょっと何か真夜の反応というか声が……。
「うぅんっ。おにひ……んんっ、ふぅっ……はひぃっ……」
色っぽいというか……? なんだか別の事をやってる様な声に聞こえて来たぞ?
さっきからドタバタギシギシやってるし。というか真夜の体がぐねぐね動いて……。
「あぅんっ、あはぁっ。はぁっ、はぁっ……だめぇ……しんじゃうぅぅっ!」
…………これ以上やると色々な意味で危険が危ないと判断した僕は、手を止め両手を上にあげて真夜から少し離れた。
「あう……はぅ……ふぅ……あんっ……。も、もう……。お兄ちゃんのばかぁ……」
「ご、ごめんごめん」
ちょっとお兄ちゃん、今胸がドキドキしてますよ? というか今更だけど、真夜の体ってちっちゃくて柔らかくて……じゃない。今それを考えるともっと触りたくなってしまうから考えちゃダメだ。
何かしてごまかさないと。
「え、えっと……お皿洗おうかな。早くしないとご飯こびりついちゃうし」
「はぁ……はぁ……。わ、私もする……よ」
「真夜は今疲れてるみたいだから休んでて」
「もうっ、それお兄ちゃんのせいだからね」
「ごめんごめん」
軽く謝りながらお皿をまとめ、流し台に運んでいく。
全体にざっと水をかけた後はスポンジを手に取り、洗い物を始めた。
しばらく洗っていると、ようやく息の整った真夜がやって来た。
「むー……」
「……な、なに?」
「お兄ちゃんにどう復讐しようか考えてるの」
それは物騒な。
「ごめん。謝るから許して」
「やだ」
不穏な空気を纏った真夜を隣に立たせたまま、僕は洗い物を続ける。とはいえそのプレッシャーは陰鬱なものとは程遠く、例えるなら子猫が飼い主にいつ飛び掛かろうかタイミングを見計らっている様な感じだ。
「うん、決めた」
きっと真夜の事だから復讐とはいっても僕を傷つける様なものじゃなくて……。
「えいっ」
真夜は僕の背中に飛びつくと、
「ちゅー」
「うわわわっ」
僕の首元に唇を押し付け、思いっきり吸い付いた。
こそばゆい様な、なんとも言えない不思議な感覚が十数秒ほど続き、ようやく真夜は体を離した。
「えっと? え? ど、どうなってるの?」
位置的には背中側で、鏡を使っても僕が確認するのは不可能だった。
「ふふっ、ひみつ」
「え~、教えてよ~」
「やだ~」
でも、僕は思う。
本当にキスマークがついていたとして、それは真夜が僕に証を残してくれたってことだから、僕にはこれ以上ない称号だ、と。
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