ラノベ化しません4
連れてこられたのは、国王の私室だった。
大理石の床には赤い
私の方こそびっくりだ。
まさか、この
なるほど、だからドレスが用意されていたのか。てっきり王子が友人扱いする気かと恐れて、私は女官の服を求めた。バレスの城は大きく使用人の数は多いから、国のトップが使用人を採用するたびに会うなんて、考えもしなかったのだ。国王夫妻の御前に出ることがわかっていたら、もちろんまともに装った。どうして誰も教えてくれなかったの?
私は慌てて頭を下げ、膝を折る。
「お前が言っていたのは、その者か?」
「はい、彼女がシルヴィエラ・コルテーゼ嬢です」
「可愛らしいわね」
国王に続いて王子が応え、さらに王妃が発言した。私は固まったまま、顔を上げられない。
けれど王妃は、私に優しく話しかけてきた。
「堅苦しい挨拶は必要ないから、顔を上げてちょうだい。そう、あなたがマリサの……」
「お目にかかれて、大変光栄です」
私はなんとか声を絞り出し、もう一度礼をする。
マリサとは、私の亡くなった母の名だ。
王妃は、母のことを覚えていて下さった!
「こちらこそ。やはり面影があるわ」
「あ、ありがとうございます」
私と母は銀色の髪と目元がよく似ている。
生前、母は王城勤めのことを懐かしそうに語っていた。私が王妃様から直接お声をかけてもらえたと知れば、一緒になって喜んでくれただろう。
そうか、ロディが……ローランド王子がうちに預けられていたのって、王妃様が母をよく知っていたから?
「今までずっと、お礼も言えずにごめんなさい。マリサのおかげで、この子は元気になったのに」
この子とは、ローランド王子のことだよね?
身体が弱かったロディは、田舎の我が家で元気になった経緯がある。
「とんでもございません。亡くなった両親も、心から喜んでおりました」
それは本当だ。
だけど母は、ロディが王都に帰った後、私を
父も母も、ロディがローランド王子だとは、最後まで教えてくれなかった。今ならそれは、守秘義務のせいだとわかる。それとも、身分違いで二度と会えないと知っていたから、私に下手な希望を持たせないようにしたのだろうか?
今となっては、真意はわからない。
結局私はロディと再会し、王城にまで来てしまった。母の思いを無駄にしないためにも、分をわきまえてこの方々にきっちりお仕えしよう。
「そう、優しいところもマリサに似ているわ。息子をお願いね」
お願いって?
私はローランド王子付きではなく、ただの見習いだ。お願いされても、世話ができるほどの技術はない。
――王子ったら。私が女官じゃないってこと、まだ話していないのね?
でもここで王妃の言葉を否定したら、話が長くなるだろう。
「かしこまりました。精一杯勤めさせていただきます」
私は深く頭を下げる。
国王も王妃も不思議そうな顔をしているけど、言葉遣いが間違っていても、できれば許してもらいたい。
挨拶を終えた私は、ローランド王子と共に退出する。考えてみれば、王子は私に寄り添い、ぴったりくっついていた。見習いがこんなに丁寧な扱いを受けるのなら、女官になったらもっと……
貴族の娘が女官に憧れるのは、王族のせいだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます