三幕 クリームゾーン

モノローグ

 消えて無くなりたいと思った事はあるかい?

 別に嫌な事があったわけでもない、世の中に絶望したわけでもないのに。

 何も感じず、ふっと消えてなくなってしまえば、どんなに楽だろう。


 何かに向かって突き進んでいる時には無縁の感覚なのだが、周りにただ流されているだけの自分に気が付いた時、不意にそう思う事がある。

 周りに求められるままに、期待に応えるままに進む道は意義があるように思うのだが、それは自分でなくてもよいのではないか? 他の誰かでもできるのではないか?

 ふと我に返るように気が付いてしまう。

 社会の歯車になるという言葉があるが、どんなに出世して、どんなに高所得になっても、それは何でもない部品が希少な部品になったに過ぎない。

 それも結局は社会と言う大きな渦に、飲み込まれているだけなのではないか。

 溶けて消えて、世界の一部になる。

 だが、それは安楽自殺と同じだ。


 自分は何の為に生まれてきて、何をすべきなのか。でも僕はその答えにはあまり興味がない。

 生まれてきた事はそれだけで既に意味のある事なのだ。

 意味の無いものなど存在しない。

 僕がずっと考えてきた事はそういう事ではない。


 自分は何なのか? 自我とは一体何なのか。

 生きる意味とは何なのか。何にとっての意味なのか。

 なぜ『僕』なのか。

 時折それを考え込んで目が回りそうになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る